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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:8 手を上げろ

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    手を上げろ



    「手を上げろ!」

     探偵事務所で昼寝をしていたエドさんは、その言葉に跳ね起きました。長年の経験から、反射的に、両手がぴょこんと上がります。

    「強盗に来たのなら、ここには、取るようなものはなにも……」

     そういいながら、まだちょっとぼんやりとした頭で、エドさんは、扉のほうを見ました。そこにいたのは、映画でしか見ることもないような、大型の拳銃でした。いたずら書きのような手足を生やして、床の上でぶるぶる震えています。震えているのは、寒さのせいではありません。『緊張しきっているんだな』ようやく頭が回転してきたエドさんは、そう思いました。こんなとき、相手を変に刺激すると、かえって危険なことになるのです。

    「強盗なんかに来たんじゃない。おれには、もう、行く道がないんだ」

     拳銃は、わかったような、わからないようなことをいいました。

    「まあ、落ち着いて。冷静になって話し合いましょう」口ではそういいながらも、エドさんの心臓はばくばくいっていました。殺人事件なんて、お呼びではないうえに、自分が被害者になるかもしれないのです。

    「うるせえ。おれは、おれは冷静だ」

     拳銃は、冷静とはとても聞こえない声でいいました。

    「そうですか。ふむ。あなたは、誰の拳銃で、どこから来たのですか?」

    「おれは、軍隊の、将軍の拳銃だった。明日の船で、外国の戦場へ行くことになっていたんだ。将軍は、血に飢えた男だった。おれを使って、敵を何人も殺してやるんだといっていた」拳銃は大きく震え、エドさんはびくっとしました。「兵士の持つライフルみたいに、敵と直接撃ち合うようなやつらはまだいいだろう。しかし、おれの持ち主だった将軍は、戦う時は後ろのほうに引っ込んでいよう、と考えるようなやつだった。おれは、将軍が自分の楽しみのため、捕まえた捕虜を拷問したり、処刑したりするときに使われることになっていたんだ。おれはそんなことに手を貸すのは、どうしてもいやだった」

    「それで、逃げてきたんですね」

    「そうだ。だが、逃げてきたはいいものの、よくよく考えてみたら、おれには、人を殺すことしかできない。おれには、どこにも行き場がないんだ!」

     エドさんは、心の底から相手が気の毒になりました。しかし。

    『ここに置いてあげるわけにもいかないしなあ……』

     テレビドラマや小説の中ならば、主役の探偵が拳銃を振り回すのはよくある話ですが、エドさんは、殴り合いとか銃撃戦とかはどうあってもごめん、という主義でした。それに、拳銃なんかをぶら下げていたら、どんな無用の争いごとに巻き込まれるかもしれません。

     拳銃も、その思いを敏感に感じ取ったようでした。

    「ちくしょう、やっぱりおれは、どうしようもないんだ!」

     そう叫ぶと、拳銃は地団太を踏んで泣き出しました。エドさんは、かけてやるべきどんな言葉も思い浮かびませんでした。

     そのときです。突然、部屋の外から、缶のようなものが投げ込まれました。缶からはもうもうとした煙が噴き出し、部屋はあっという間に、何も見えなくなってしまいました。

     エドさんは咳き込みながら、机の下に身をかがめました。数発、拳銃の発射音が聞こえました。悲鳴の後に、「つかまえたぞ!」と人の叫び声。

    「もういい。窓を開けろ」

     エドさんの背後に誰かが回り、窓を開ける音がしました。部屋を満たしていた煙が晴れたときには、二人の、防弾アーマーを身に着けた軍服姿の男が、さっきの拳銃を床に向けて握っていました。よく見ると、拳銃からは、すでに弾倉が抜かれています。

    「助かりました。あなたは?」

     再び椅子に座りなおしたエドさんが問うと、軍人は、敬礼して答えました。

    「陸軍所属の、ヒギンズ少佐です。うちの拳銃が、ご迷惑をおかけしました」

    「ほっとしましたよ。ところで、その拳銃はどうなるんです?」

    「ばらばらにして、掃除をし、部品を入れ替えます。そうすれば、変なことも考えず、国のためによく働いてくれる拳銃に生まれ変わるでしょう」

     といって、ヒギンズ少佐は、冷たく笑いました。その笑いに、エドさんはなぜか、肌に粟が立つものを感じました。

    「帰ってくれませんか」

     とだけ、エドさんはいいました。それからしばらく、エドさんはとても不機嫌でした。

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    ~ Comment ~

    Re: ヒロハルさん

    武器や兵器や戦士や兵士に、ある意味「美しさ」を感じるのも、その構造的な悲劇性にあるのかもしれません。

    ぎりぎりまで削ぎ落とされたシンプルさの、ただ一つの目的が、破壊、殺傷ですからねえ……。

    本気で武器というものが可哀想に思えました。

    それもきっと持ち主次第なのかもしれない。

    どこかに飾られて、「カッコいいよな」と言われているくらいがちょうどいいのかもしれない。

    それはそれで、また彼らには不満なのかなあ……。

    Re: fateさん

    うちの電気餅つき機は褒めながら使っているせいか40年近く現役です。

    これでつく餅がまたうまいのです(^^)

    使い方次第…

    あらゆる物質に波動があるなら、その波動を受け取って理解して、相応しい使い方を出来る人がいるんだろう。
    っていうか、モノにも感情に近い何かがあるんだろうから、やはり話し合わないとね~
    電化製品だって、褒めればけっこうだまされて、もう寿命だろうってやつも頑張ってくれるもんですし。

    「エドさんは、シリーズを書いていったら意外と作者の想像を超えて有能になってしまった珍しい人です(^^)
    ほかの作品では想像を超えて頭が悪くなるタイプの人もいますけど。」

    ↑ああ、これ、分かるような気がします。
    でも、それも作者が騙されているだけかもよ~ん。


    Re: YUKAさん

    ラストシーンは、その通り、洗脳をイメージして書いたことは事実です。軍隊が行う行為で最も恐ろしいのが洗脳による自国への忠誠の徹底だと思いましたので……。

    これまで読んだ中で一番恐ろしかった洗脳ものは、平井和正先生の「死霊狩り」3巻のゾンビー島キャンプでありました。人間味あふれる男だった主人公が、戦うだけの戦闘機械にされてしまうのです。怖いよ~。

    こんばんは♪

    う~~~ん、拳銃の使い道を考えたんですが
    他に浮かびませんね。
    空砲ならともかく、実弾ならなおさら。。。

    部品交換は、人間で言うと洗脳になるんでしょうか。

    Re: 有村司さん

    いやあ、そこをツッコんでくれた人はあなたが初めてです。

    自分の問題提起に反応してくれるとうれしいですね。

    ある意味救いようのない結末ですが……わたしにはこうすることしかできませんでした。

    こんにちは。

    これも怖いお話ですね。
    拳銃を人間に置き換えるとゾッとします。
    実はこんなことって日常茶飯事なんでしょうね…私たちが知らないだけで。

    Re: ぴゆうさん

    この話は、自信を持っていたにもかかわらず、どうも低評価だった作品です。

    ぴゆうさんに、エドさんの気持ちをわかってもらえて、とても嬉しいであります。

    勇気百倍!

    NoTitle

    まったく、使う人によると言いたい処だけど、拳銃って他に使いようがないものね。
    因果な物を発明したもんだ。
    エドさんの気持ち、わかるなぁ~~
    v-403
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