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    「ショートショート」
    SF

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     おれは満足して夜の映画館を出た。かかっていた映画は、カレン・ブラックとオリバー・リードが主演の昔のホラー映画「家」だ。平凡な家族がバカンスに訪れた貸別荘の『家』に次々と食べられていくというアイデアが魅力の作品である。
    「さて、と……」
     アパートに帰ろうと思ったところで、おれはあたりの空気がなにやらおかしいことに気づいた。
     人が多すぎる?
     なんだろう?
    「おい、安部」
     首をひねりながら道を歩いていると、誰かが声をかけてきた。だれだろうと思うと、悪友の高村だった。
    「どうした?」
    「今晩、泊めてくれないか?」
    「ああ、かまわないが……なにがあったんだよ。彼女にでも締め出されたのか?」
    「わからん」
     高村は、苦々しげに首を振った。
    「わからないんだ。家に入れないんだよ」
    「なんだって?」
    「安倍、お前に会えてよかったよ。今晩、野宿することになるかと思った。ホテルに入る金もないしなあ」
     おれは妙な胸騒ぎを覚えた。
    「おい、高村。ちょっと、おれのアパートに急ぐぞ」


     おれの胸騒ぎは当たった。
    「ちくしょう、入れない」
     おれは開かないドアを殴りつけて叫んだ。
    「お前もかよ。どうなっちまったんだいったい」
    「今から考えれば、さっき道でウロウロしていたのもこの手の人間か」
    「そのようだな……。おい、どうする」
    「どうするったって、警察かどこかへ行って、テントを貸してもらって……だめだ。テントがあるのも家の中だろう」
    「倉庫じゃないのか」
    「広義の『家』には違いないだろう。おれの想像が正しければ、そちらにも入ることはできなくなっているはずだ」
     おれは絶望的な目で周囲を見た。
     ふいに、隣の部屋の扉が開いた。助かった……と思った瞬間、ものすごい勢いで部屋の中にいたのだろう若い娘が吐き出され、扉は音を立てて閉ざされた。
    「なに、なによ、なんなのよ、あんたらのしわざなの?」
     化粧を落としたばかりなのだろう、すっぴんのその娘はおれたちに食ってかかったが、こちらになにができるわけもない。
    「ううう、まずはこのアパートを出よう。こんなところにいると、なにが起こるかわからん」
     おれたちは連れ立って、どこか夜露がしのげそうな場所へと向かった。
     なんとか腰が下ろせそうな場所は見つかった。橋の下だ。
    「おい安倍、お前さっき変なことをいってたな。想像が正しければって、お前この状況に対してなにか考えを持っているのかよ」
     橋の下はすでに人でいっぱいになっていた。そうした連中が高村のその言葉に反応し、いっせいにおれのほうを見た。
    「あまり期待しないでくれよ。ただの想像で、当たっているという保証はないんだから」
    「いいから聞かせろ」
    「わかったよ。おれは、ついさっき映画館で『家』というホラー映画を見てきたんだが」
     おれは、家に家族が食べられてしまうという筋を簡単に話した。
    「それがどうしたというんだ」
    「それを思い出して、ふとイメージが湧いたんだ。おれたちは、『家に排泄されてしまった』のではないかとね……」
    「おれたちはウンコか!」
    「わからん。家に二度と入れなくなっていること、次から次へと、意志を持っているかのごとき家に住人が排除されていることを考え合わせると、それ以上の発想は出ない。それともなにか、ほかに誰かもっとよくこの現象を説明できるのか」
     みんなは黙った。
     さっきいっしょになった若い娘が、心配そうに声をかけてきた。
    「もしそうだとすると、あたしたちどうなるの……?」
    「わからん。人間の排泄物だったら、まだ畑にまいて肥やしとするような利用法があるが、おれたち人間そのものがなんの役に立つかといわれると……それに今は、肥やしにもならずに、下水処理施設で処理されてしまう時代だからな」
    「具体的には?」
     娘の声は震えていた。おれは親切に解説した。
    「排泄物は、それを食料とする細菌に食われて、きれいになるんだ……」
    「おい、見ろ!」
     誰かが恐怖にかられた声を上げた。
    「あれを見ろ! 空に! 空に!」
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    いや、SFとホラーはけっこう近い関係にありますから。

    理屈で落ちないぶん、ホラー色のほうが強いかな。

    カテゴリ分けは難しいんですよね(^^;)

    あ!すみません。。。

    無神経なコメントを残しました^^;;
    SFカテでしたね^^

    ん~~~どちらにも跨いでいる作品なのだと思いますが^^
    私は最後のオチでホラーに感じたようです^^;;
    すみませ~~~~ん><

    Re: YUKAさん

    そういやあたしかにホラーとしても読めますな(^^)

    わたしはこのシチュエーションから「SF」に入れてしまいましたが、最後のシーンなんか、もろにホラーですね(^^;)

    ラストのセリフもラヴクラフトの「ダゴン」からのいただきだし。

    うーむ。カテゴリを入れ替えようかなあ。どうしよう(^^;)

    おはようございます^^

    わぁ~~~怖いですね。

    空からの描写の前で切れているから
    想像を掻き立てて、より怖い。。。

    何が人間を分解するのか。。。

    ホラー大好きです^^

    >神田夏美さん

    毎日一本ショートショートを書いて更新しようと決意していたときのものなので、もうなんでもいいから思いついたアイデアを短くまとめよう(長いと更新できないので)としか考えていませんでした(^^)

    うーん、オチはわかりづらかったですか。わたしがホラーじみたものを書こうとすると、たいてい着地に失敗してしまいますねー(汗)。
    空から来た「なにかわからないもの」に、排泄物処理としてこの場の人間全てが食われてしまう、というオチにしたかったのですが、描写力不足でしたねえ。失礼しましたm(__)m

    造りによっては長編にもできそうな発想を、きちんと短くまとめられているのがすごいですね。こういう物語、私が書こうとしたら絶対、ものすごく長くなってしまいます(苦笑)

    冒頭が家に食べられる、という映画の話だったので、この物語も食べられるのかと思いきや、想像の裏をかき家に排泄させるとは、さすがポール・ブリッツさんです。
    オチが微妙にわかりづらかったのは、私の理解力不足ですねー(汗)もっと色々勉強してきます!^^
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