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    「ショートショート」
    ホラー

    昨日飲んだウーロン茶はマズい(変奏曲その1・ホラー)

     ←短期集中ショートショート予告 →昨日飲んだウーロン茶はマズい(変奏曲その2・ラブロマンス)
     ぼくはぶつぶついいながら、五本も残ってしまったペットボトルのウーロン茶を見た。スーパーで新製品だ高級品だお得だなんだと書いてあったので、六本セットというやつを買ってしまったのだ。

     昨日、その一本を飲んでみたところ、もうなんというか、ムチャクチャにまずかったのである。ウーロン茶のくせにスモーキーなフレーバーが漂い、このメーカー、ウイスキーのウーロン茶割りを作ること以外何も考えていないのではないかと思われた。

     やっぱりいつもの、飲み慣れたメーカーのものにしとくんだった。

     でも、このウーロン茶のペットボトル五本、どうしよう。二リットルではなく五百ミリのペットボトルだったのが不幸中の幸いだけど。

     ここだけの話だが、平凡な大学生の選択肢において、食料を食わないで捨ててしまうなどということは事実上ありえない。ぼくが考えたのは、このウーロン茶を、友人の食料か飲料と交換することだった。だましてしまうことになるかもしれないが、この六本四百八十円だから、一本八十円になるのか、そのウーロン茶をうまく友人のカップめんとか菓子パンなどと交換できれば、ぼくとしてはほくほくである。

     というわけで、ぼくはさっそく、友人諸君をだましにかかることにした。犠牲者は、あいつとあいつと……まあ適当でいいだろう。

     大学の倫理学概論が終わったあと、ぼくは隣席の栗原というやつに話を持ちかけた。

    「でだ、この前、ウーロン茶の新製品が出たのを知ってるか?」

    「ウーロン茶の新製品? 知らないな、そんなもの」

     ぼくはここぞとばかりにその一本を取り出した。

    「これだよ。飲んでみたが、なかなかうまいぜ。だけど、ちょっと想定外の支出があってね……」

     交渉に関するあらゆることのうち、最も重要なことは、常と同じ顔をしたままでしれっと嘘をつくことができる技術である。

     もとから、ウーロン茶には目のない栗原は、ぼくのえさに飛びついてきた。

    「これ、一本いくらだったんだ?」

    「八十円だよ」

     本当のことをいうべきときは、下手に嘘などつかないで本当のことをいう。交渉の重要なテクニックである。

    「売ってくれないか」

     ラッキー極まりない。

    「定価なら」

     かくして交渉はまとまった。

     この調子で、ぼくは友人五人から、菓子パン一個、カップラーメンの小さいやつ一個、それに現金二百円を手に入れた。現金が少ないのは、値切ったやつがいたからである。

     まあ、そんなわけで、ぼくはおやつにまずいにもほどがある菓子パンをかじり、夕食にこれまたひどくまずいカップめんをすすった。

     ぼくはカップめんのラベルをしげしげと見た。この会社、味を変えたのだろうか? ぼくの好きな銘柄のはずなのに、なんかひどくまずいのだが……。

     携帯が鳴った。

    「はい」

     栗原からだった。

    「あのウーロン茶、どこのスーパーで買ったんだ? なかなかいけるじゃないか」

     あいつ味覚がどうかしてるのか? ぼくはそう思いながらも、買ったスーパーの場所を教えた。

     電話をかけてきた友人は、栗原のほかにふたりもいた。世の中、へんなものがウケるものである。



     夜が明けた。ぼくは朝食のかわりにコーヒーを飲んだ。えらくまずいコーヒーだった。

     バイト代が入ったので、銀行に寄ってから、ぼくは昼飯を奮発することにした。行きつけの定食屋で、大好物のレバニラ定食を食べることにしたのだった。

     運ばれてきたレバニラをひと口食べたとき、そのあまりのまずさに脳天がしびれるような思いがした。

     さすがにぼくは文句をいった。

    「おばちゃーん! これ、ほんとに、いつものレバニラ? なんか、変なもの入れなかった?」

     この店を仕切っているまるまると太ったおばちゃんが、東京を蹂躙するゴジラみたいな足取りでずんずんと迫ってきた。ぼくはその姿を見てちょっと後悔した。

    「なんだって?」

     おばちゃんは、備え付けの割り箸をぱきんと割ると、ぼくが食べていた皿からレバーとキャベツとニラをざっくりとすくい取り、口に入れた。

    「ふん。なにをいうかと思えば。いつもの味付け、いつものレバニラだよ」

     ぼくは仰天した。

    「で、でも……でも……」

     おばちゃんは、ぼくの目を真正面からのぞき込んだ。

    「嘘をいっている目じゃないね。それに、この店に通って長いから、うちに対するいやがらせでもなさそうだ。ということは……」

     おばちゃんは、ぼくに人差し指を突きつけた。

    「何かに憑かれているんじゃないかね?」

     おばちゃんの断言を、ぼくは一笑に伏そうとした。しかし、できなかった。

    「いいお祓い屋さんを知っているから、そこへいってみたらどうかね。地図を書くから。あたしの肩こりも治してくれたんだよ。どこの病院へ行っても原因不明だったあたしの肩こりをさ」

     ぼくは地図を持たされると、店を追い出された。

     まさかあのおばちゃんがこういったインチキ宗教なんかに引っかかっているとは思わなかったが……。

     まあ行ってみるか。一度くらいは。ものはためしで。



     ぼくは真っ暗な中に小さなあんどんの光がついているだけ、という部屋の様子に、心臓がどきどきいっていた。

     顔の前に布を垂らしたその年齢不詳の男、たしか『ウィリアム田浦』とかいう名前の男は、ぼくの訴えを聞くと、ゆっくりとうなずいた。

    「舌に憑いていますな……悪霊です。人が食事をしようとしているのを妨害し、徐々に衰弱させて死に至らせるタイプのやつです。すでに、あなたは、水や空気すらも気持ち悪く感じておられるでしょう?」

     ぼくはうなずいた。そうなのだ。コンビニで買ったミネラルウォーターさえ、ぼくは飲みきれずに途中で吐き出してしまったのだ。この夏の暑い盛りだというのに。

    「対応する方法は二つあります」

     ウィリアム田浦はいった。

    「ひとつは、この味に慣れる、ということです。完全にはもとの味覚に戻れませんが、それでも必要な栄養を摂取するくらいのことはできるでしょう。しかし、この方法を選んだ場合、毎日の三度の食事が地獄になることは覚悟してください」

     ぼくはごくりと、苦くまずい唾を飲み込んだ。

    「もうひとつの方法とは……?」

     ウィリアム田浦は一本の古めかしい短剣を取り出した。

    「『ディーの剣』です。中世の大学者、ジョン・ディー博士が使っていたといわれる、魔力を帯びた短剣です。肉は切れませんが、霊は切れます。これで、あなたの舌を……」

    「き、切るんですか?」

    「壮絶に痛いですがね」

     ウィリアム田浦はこともなげにいった。

    「ここでよく考えて欲しいのですが、あなたの舌にその悪霊が憑いたのも、神の思し召しではないでしょうか? たしかに舌にこの短剣を使ったら、あなたは悪霊から解放されるでしょうが、代わりに、もっと恐ろしい何かが……」

    「かまいません」

     ありったけの勇気を奮い起こして、ぼくはいった。

    「舌の悪霊を切り落としてください」



     たしかに、舌には傷ひとつつかなかったが、そのかわり壮絶に痛かった。ぼくは、ウィリアム田浦が短剣を振るってからしばらくの間、満足に口ひとつきくこともできなかった。

     それでも、腹が減ってきた。昼食を途中でやめてきたんだから当然だ。

     ぼくは、手近なところにあるファストフード店に飛び込んだ。

     とりあえずハンバーガーのセットを買う。

     ひと口かじった。

     ハンバーガーってこんなにおいしいものだったのか!

     ぼくは天上の滋味を味わうかのようにハンバーガーを食べた。

     おかわりだ!



     ウィリアム田浦は正しかった。世の中には、まずい味に苦しめられるより、もっと恐ろしいものが存在しているのだ。

     ぼくは今、箱で買ったインスタントラーメンを、ゆでていないままでぼりぼりとむさぼり食いながらこの文章を書いている。

     段ボール箱はもう三箱目だ。

     それでもおなかがすいて、おなかがすいて、どうしようもない。

     ぼくは、一匹の『餓鬼』になってしまったのだった。

     だから、これを読んだかたは、ぼくにすぐにでも食べ物を……食べ物を……食べ物を……。
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    普通の人より痛覚が三十倍も敏感になったら、などと想像するだけでも恐ろしい(・_・;)

    拷問されたらどんな秘密でも吐いてしまいますね。
    • #8169 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/29 20:34 
    •  ▲EntryTop 

    味覚に限らず敏感すぎるのも鈍感すぎるのも考え物ですね…

    Re: あかねさん

    これを書くうえで参考にしたのは、夢枕獏先生の傑作ホラー、「餓鬼魂」です。

    すでに記憶しかないけれど、あれもすごい話だったなあ。

    ちなみにわたしは絶賛リバウンド中。とほほほ(^^;)

    二転三転して

    途中で思ったのですよ。
    味覚障害とかいうやつなのかな?
    そんな生易しいものではなかったのですね。
    いえ、味覚障害は生易しくないのでしょうけど、私だったらその程度のオチしかつけられないでしょうから。

    そうやって食べまくって太るよりは、食べものがまずいほうがいいなぁ、なんて、現実的に考えてしまいます。
    餓鬼道だったら太らないんでしょうかね。
    って、そんな問題ではないのですよね。

    Re: ぴゆうさん

    お元気になられたようでほっとしています。

    施餓鬼供養ですか……餓鬼道には落ちたくないものであります。

    でも大半の日本人は。ガクガクブルブル。

    NoTitle

    やっと復活しました。
    なんか久しぶりにここに来た感じ。
    不思議。
    二三日なのにね。

    施餓鬼供養でもするしかないね。
    ナーームv-421
    ぷぷ

    Re: 蘭さん

    いまちょっと精神状態がヤバいところにきている感じがするので、今日のショートショートを書いたら早めに寝ようと思います。

    とてもグロ描写ができる状況ではないであります。

    巡回できなかったらすまんです。

    こんにちは^^

    面白かったですよ~!
    でも、もう少しグロくても、全然OKだったと思います^^

    私も最近、食べる物が全然美味しく感じられない・・・・・・。
    何か憑いてるのかも(笑)←違

    Re: semicolon?さん

    うまいですよねレバニラ。

    夏になると無性に食いたくなります(^^)

    NoTitle

    私、「悪魔の舌」がベースかと思ってました。

    はーレバニラ食べたい!

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    Re: 土屋マルさん

    おっ、よくわかりましたねえ(もっと腐ってる頭の持ち主(笑))

    リンクはもちろんオッケーですよ。

    半分リンクフリーみたいなものですが、こうしてコメント欄でお話をしたうえでリンクするのと、そうでないのとでは違いがあると思いますので……。

    それじゃ相互しましょうぜ相互(^^)

    Re: limeさん

    ウーロン茶にうまいもまずいも、ただ「風味と値段の違い」しかない、と思い込んでいたわたしに、スーパーで買ったそのメーカーの87円のウーロン茶は衝撃的でした(^^;)

    こんなの飲むくらいだったら同じ値段で素直にサ●トリー飲むよ!

    まあ貧乏性なので全部飲みましたが(^^;)

    NoTitle

    さっそく駆けつけてしまいました(*´ω`*)

    オチはどうなるんだ!?とどきどきしながら読んだのですが‥‥。
    餓鬼orz
    上手く除霊できてよかったなあ、と安心したのに餓鬼orz
    この彼は、きっと最後には人肉食いになるんだな(私の頭腐ってるwww

    方向性は違うのですが、何だかキングの「痩せゆく男」を思い出しましたよぉ。
    ストロベリー(だったかな?)ジャムのパイに顔を突っ込んで死ぬアレです。
    「食べる」って、行き過ぎると怖いですねえ(||´・ω・)

    そうだ、ポール様、こちらのブログ、リンクを貼らせていただいても、よ、よろしいでしょうか|ω・`)
    新参者が‥‥畏れ多いのですけどorz

    NoTitle

    おお~、どこに着地するのかと読み進めてみれば、確かにホラー。
    考えてみれば、食欲が止まらないというのは、怖いです。
    そういえば食欲とセイ欲は比例すると聞きましたがそう考えてもおそろしくいえなんでもありません。

    私はこのところ、まったく食欲が無くて、食べるのがめんどくさくなってきてるんですが、なんか憑いてるんでしょうか・・・。

    ところで、ほとんどお茶を飲まない私にはわからないんですが、ウーロン茶に、美味しい、不味いって、あるんですか?
    次回はどんなジャンルで来るのか楽しみです。
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