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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:24 階段の声

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    階段の声



    「出るんですか」

     マーチさんの家に出向いてきた私立探偵のエドさんは、ごくりと唾を飲みました。

    「そうなんです。こそこそ、こそこそと声がするんです……この階段から!」

     マーチ夫人は、何の変哲もない階段に指を突きつけました。

    「確認しておきますが」

     エドさんは、手帳を開いてペンを取りました。

    「隠しマイクとか、隠れ場所とか、そういったものはないですよね」

    「見ればわかるでしょう。階段の下は物置になってますし、しかも、新築だから、まだ物を入れてなくてがらんどう状態だ。いったん壊してまた作り直しても、階段からは声が聞こえてくるんだ。せっかくわたしが苦心の末に設計して作った夢の住居なのに……」

     マーチさんは心からがっかりしているようにいいました。

    「いいでしょう」

     エドさんはうなずきました。

    「一週間、この階段の上で寝泊りし、怪しい物音の原因を突き止めて見せます」



     その日から、エドさんの階段の上での生活が始まりました。

    「うーん、階段の上というのは、意外と体力を使うもんだなあ」

     階段に腰掛けて、その声がするという瞬間を夜通し待つのです。エドさんはあくびをもらしました。

     そのときです。

     何者ともつかない声が、こそこそっ、としました。どうやら、階段の裏側から聞こえてくるようです。

     マイクだな、と、エドさんは思いましたが、ここは騙されたふりをして、声の中身を聞いてみようと思いました。録音だとか、マイクの裏での芝居だとしたら、よく聞けばぼろを出すかもしれないからです。

     エドさんは、階段に耳を押し当て、声がなんといっているのか聞こうとしました。

     声は……。

    『苦しいよ……苦しいよ……助けて……』

     といっていました。

    「どうかしたのかい?」

     演技とはとても思えません。反射的に、エドさんは答えていました。

    『誰……この階段の裏側に、だれかいるの……? それとも、階段さんがしゃべっているの?』

    「わたしはエド。私立探偵だよ。君は?」

    『ぼくはアック。私立探偵ってなに、エド……さん?』

    「悪い奴の秘密を暴いて、お日さまの下にさらしてやる仕事だよ。……まあ、その他の雑用もするけどね」

    『スパイか秘密警察みたいなものなの?』

     声は、明らかにおびえているようでした。

    「わたしは、スパイでも秘密警察でもないよ。しがない、平凡な人間さ」

    『嘘だよ。そんな人、もしいたって、すぐ兵士にされちゃうよ。ぼくだって、銃を持ってるし』

    「君はどこにいるんだね?」

    『地下のシェルターだよ。そこの階段の上に、寝ているんだ』

    「地下室で寝ればいいんじゃないのかね? すごく苦しそうだが」

    『そうはいかないよ。ぼくは、シェルターの中にいる、弟や妹たちを守らなきゃいけないもん。銃を持って戦えるのはぼくだけだからね。だけど、やつらがばらまいた毒ガスが、ゆっくりと地下のここまで降りてきて……今、シェルターを開けたら、ガスが……』

    「しっかりしろ、君!」

    『エド……さん? そっちは、戦争になっていないの?』

    「少なくとも、わたしの国は、戦争に巻き込まれてはいないよ」

    『いいなあ……』

     咳きこむ声が聞こえてきました。

    「どうしたんだ」

    『血が……身体じゅうから血が……』

     エドさんは悟りました。神経ガスだ。

    『エドさん、なにかお話をしてくれない? このまま死にたくないよ、ぼく……』

     エドさんは、目を閉じました。

    「ある日、わたしの家に、猫が訪ねてきてね。真っ白な猫が、泣きながらいうには……」



     もうあの声がすることはないでしょう、と、エドさんがいったとき、マーチ夫妻は大喜びしました。

    「なんて速い仕事なんですか、エドさん!」

     エドさんは沈痛な表情で答えました。

    「いえ……むしろ、遅すぎたんです……」


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    Re: 椿さん

    ちょっと悲しい話にしすぎたかなあ。

    こういうパラレルワールドもの、嫌いじゃありませんが、エドさんが、完全に無力な傍観者ですからねえ……。

    これを書いたときも暑かったなあ……。

    NoTitle

    階段の裏側は別の世界につながっていたのでしょうか。
    もう少し早ければ何とかできたのか? それともどうしようもなかったのか。
    階段を通るたびに思い出してしまいそうな話でした。

    Re: 花音さん

    これを書いたときは、自分でもどうかしていたんではないかと思えるくらい夢中でキーを叩いていましたから、どうしても描写の細部が甘くなってしまいますね。

    これはこれで気に入っている作品ではあるのですが、いま読み返すとこのシリーズではかなり暗い話でしたね……(^^;)

    なにか残るものがあったらいいのですけれど。

    NoTitle

    こんにちは ポールさん。

    エドさん 階段の下の隙間に 子供たちが埋められて
    幻の助けの声を聞いたのかと…
    読んでいるうちに 勝手に想像してしまい
    児童文学であることを忘れていました… ̄(=∵=) ̄

    失礼致しました♪♡笑

    Re: fateさん

    現代の地球も、19世紀あたりにもっと進んだどこかの世界とコミュニケートが取れていれば、もうちょっと戦争も人口問題も公害も抑えられていたかもしれません。

    そういう思いもありました。

    こちらこそ、説明されないと分からずすみません!!!

    あああ、そゆこと!!
    なんてこった!
    悲しいですね~~~

    もっと早くに出来ていれば、もっと早くこうしていれば…
    これは、誰でも一度は必ず経験する悲劇ですね。
    (いや、パラレルと繋がることの方じゃなくって…)

    Re: fateさん

    ここではない、どこかの……もっと早くにコミュニケートが取れていれば、事態がこんな風にはならなかったかもしれない、どこかのパラレルワールドです……。

    説明不足ですみません(汗)

    実は…

    よく理解出来ませんでした。

    ええと、どういうことでしょう?
    異次元とつなかったんですか?

    Re: 有村司さん

    嫌いではないといっていただいてありがとうございます。

    地下まで毒ガスが降りてくるという発想は、モルデカイ・ロシュワルトの「レベル・セブン」が頭にありました。読んだことないけど。

    で、書き終えてブログにUPしたその後でよく考えてみたら、なんだ宇宙戦艦ヤマトのファーストシーンではないかと(笑)。

    うう、切ない…。

    おはようございます。

    今現在もどこかの国で、実際にこんな事が起こっているのかもしれません。
    アンネフランクの隠れ家を思い浮かべるより、遥かにリアルで悲しいお話でした…。
    でも嫌いじゃないお話です。

    Re: YUKAさん

    ありがとうございます(^^)

    ちと苦いエンディングではありますが(汗)

    こんばんは^^

    ついに、エドさんシリーズ突入~
    ――って、実は以前に1話は読んでいたんですけどね。

    このラストがちょっと気に入ってます^^

    Re: ぴゆうさん

    これは、昨日、ネタに詰まって散策(徘徊)していたときに、歩道橋で、この裏に当たる階段に人がいたらファンタジーになるのではないか、ということから思いついたものです。

    綱渡り的毎日(笑)

    ぞっとする話というよりはやるせない話を書いたつもりなんですけどね(^^;)

    Re: 蘭さん

    原稿用紙五枚と人間ひとりの力で世界に平和が訪れるわけもなく……。

    こうするしかなかったのであります。

    こんな世界が来ないように努力しましょう。

    NoTitle

    おはよー

    納涼大会かな。
    朝から涼しくなりました。
    今朝は悪夢でジェイソンもどきに追いかけられました。
    v-12

    こんばんは^^

    アルファポリス、投票しました^^
    頑張って下さいね!
    limeさんに続いて、ポールさんもかぁ・・・・。

    童話とか、結構原型はグロかったり悲しい伝説だったりするモノ。
    そういう気分で今回のお話は読ませていただきましたi-228

    哀しい結末です・・・・。
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