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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:27 催眠術師

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    催眠術師



     エドさんは、ベンチに座って順番を待っていました。

    「次のかた」

     エドさんは、居心地の悪い思いをしながら、置いてある寝椅子に横になりました。

    「わたし、催眠療法を受けるのは初めてなんですよ、先生。私立探偵っていうのは、もうストレスが溜まってしかたないんですが、治りますかねえ、この催眠療法で」

     エドさんの、ちょっと不安そうな声に、机に向かって腰掛けていた老医師は、穏やかな声で答えました。

    「なに、リラックスしてくれればいいんです。自然に、あくまで自然な心持ちでいれば、催眠術にかかりやすくなるんですよ」

    「はあ」

    「奇術で奇術師がアシスタントの美女にかけるようなものは、ただのお芝居で、催眠術とは違います。それでは、ゆっくり、あくまでもゆっくりしていってください。催眠術の誤ったイメージを払拭したいんですよ、わたしは」

    「それじゃ、お願いします、先生」



     十分後、エドさんは、自分がかなりリラックスしていることに気づきました。単に、寝ているだけでいいのですから楽なものです。最近疲れ気味だったこともあって、催眠術はよく効いていたのでした。

     老医師の言葉が、わずかに変化したのは、そのときでした。

    「エドさん……わたしの声がわかりますか?」

    「わかります……」

     エドさんは、夢うつつで答えました。

    「それでは、このコップの水を飲んでください……」

     エドさんは、催眠にかかっていたこともあり、差し出されるがままにコップの水を受け取ると、飲みました。

    「すごく美味しい味がしてきますよ……」

    「はい。すごく美味しいです……」

    「さて、それでは、わたしは、これからいくつかの質問をします。答えてください」

    「はい」

    「あなたは、どうしてわたしの催眠療法を受ける気になったのですか?」

    「わたしの女性の友達が、ストレス解消にいいと友達に聞いたといって、わたしにここを勧めてくれたのです……」

    「その女性は、ここに来たことがあるのですか?」

    「いいえ。いきなり行くのは恐いから、誰かしっかりした人に、試しに行ってみてくれということでした……」

    「わかりました。では、あなたが、最近かかわっている事件について話してください……」

    「はい……アラム製薬の汚職事件です……」

    「そこで、あなたはなにを発見しましたか?」

    「重役のドノバン氏が巨額の横領事件にかかわっている証拠でした……」

    「その額は?」

    「詳しいことは、まだつかんでいませんが、おそらくビジネスジェットが一機買えるくらいではないかと……」

    「証拠は、どこにありますか?」

    「ドノバン氏のパソコンです……」

    「パスワードはわかりましたか?」

    「わかりました。パスワードは、『BPGMSRMGGKDK』です……」

    「はい。それでは、ここでの質問の内容は、すべて忘れてください。わたしが、パンと手を打ったら、あなたは忘れます。そして、生まれ変わったようなすがすがしい気分で目が覚めます……」



     エドさんは、同業の探偵である私立探偵マイケル・マイルズが、栗色の髪の女性芸術家とともに頭を下げる前でぷりぷりしていました。

    「つまり、わたしは、囮だったわけか」

    「すまん。あの催眠術師が、自分の利益のために、患者から得た情報を不正使用しているという疑いがあって、君の女友達に頼んで、君を囮に……本当にすまん」

    「わたしが調べていたあの製薬会社の事件も?」

    「あの重役は、ぼくの叔父にあたる人なんだ。だからパソコンを借りて、汚職データをでっち上げて、やつが食いつきそうな餌を作って……すまん。本当にすまん」

    「で、証拠は取れたのか?」

    「もちろん。君のネクタイピンに仕込んだ盗聴器と、あの藪野郎がまんまと食いついてきたネット情報により、やつの不正はなによりも明らかだ。しかも、君に自白剤まで飲ませていたからな」

    「それであの治療院を出てきたわたしに、すぐに尿検査をしろと……」

    「手数料と報酬は払うよ」

    「探偵業も、もちつもたれつだからなあ」

     呟いたエドさんは、囮に選ばれた理由は、正直な善人という性格のせいかもしれない、と思うのでした。でも悪人よりはましでしょう。たぶん。


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    ~ Comment ~

    Re: マーサさん

    だますだまされるはいいんですよ。

    問題は、

    「それによって自分や相手に被害が及ぶかどうか」ですね。

    ミステリを書くなんて、「いかに人をだますか」の実地訓練みたいなもんですからねえ……。

    そういえば昔プレイしたゲームで、

    「騙すより、騙される方がよほどいい」

    なんてセリフがあったのを思い出しました。
    誰だっけなあ…ああ、思い出した。逆襲のシャアのアムロだ。

    Re: fateさん

    ほんとうにエドさんという人物は書いていていじめがいがあって(笑)

    これからもエドさんは作者にバシバシいじめられますのでよろしく(笑)

    囮に選ばれた理由は、正直な善人という性格のせいかもしれない

    ↑まさにその通りっすね~~
    エドさん、面白すぎ!!!

    Re: ダメ子さん

    わたしはいっぺんかけられてみたいですねえ。

    それでリラックスできて気持ちが楽になるのなら素晴らしい技術だと思うのですが。

    だけどハイデルベルヒ事件みたいなのは嫌です。

    これは怒る
    催眠はやる側にはちょっとなってみたいけど
    やられる側は絶対いやです

    でも恋も催眠って言うしなあ…

    Re: YUKAさん

    この手の、催眠術を使った事件で最も有名なのが、ハイデルベルヒ事件でしょうね。

    謎だらけの事件ですが……。

    こんばんは^^

    そうとう怖いですよね、こういう催眠術の使い方。

    でも、きっとできるんだろうなぁと思ってしまいます。
    悪用されるのは怖いですね~~

    エドさんが善人だからってことは同感です^^

    Re: 有村司さん

    どシリアス調で書いたら、「よくあるネタ」だということがバレてしまう(笑)。

    菊池秀行先生の作品においては、そのくらいの特殊能力がなければ、登場と同時に化け物に食われてしまうのでいいのではないでしょうか(笑)。

    深夜です…。

    これまた「大人の事情」のお話で…どシリアス調で書いたら、すごくスリリングなサスペンスになりそうです。

    催眠術といえば菊池秀行先生の作品に超人的な催眠術師が出てくるお話がありましたが…ポールブリッツさまのお話のほうが俗っぽくて(失礼)その分リアリティーがあると思います^^

    Re: ねみさん、ぴゆうさん

    調べなおしてみたら、自白剤は要するに「精神を朦朧とさせて判断力を低下させる」薬のようでありますな。

    勉強不足でありました。

    まあ、でも、催眠状態にかけられたうえで意識が朦朧となる薬を飲まされたら、あることないことなんでもしゃべってしまいそうであります(^^;)

    箍が外れる、という比喩はぴったりですね(^^)

    NoTitle

    リラックス状態か。
    人って基本、おしゃべりなんだろうな。
    そこをついた上手い薬なのかも。
    ある睡眠導入剤を飲むとやたらと食べちゃうのもそれかしら。
    箍が外れるみたいな・・・

    NoTitle

    自白剤ってなんでしょうか?
    すっごく知りたいんですが。

    Re: limeさん

    警察が使ったりしたら大スキャンダルですよ。

    そもそも、警察にそんなものを使わせないために基本的人権いうものがあるわけですし。

    だからわれわれは、基本的人権を制限しようなどと唱える輩とは断固戦わなければならんのです、とサヨク的発言(^^)

    NoTitle

    何でも喋りたくなるか・・・こわ。
    笑いが止まらなくなるキノコがあるくらいだから、ありえますね。

    諜報ものでは高村作品にも何度か出てきた自白剤ですが、
    日本の警察がこれを使う日は・・・・来ないですよね。

    でも、犯罪究明にはいいのか。
    いやいや、でもそれは・・・。

    あ、もうスルーしてください。
    最近煮詰まってて、すぐ放浪してしまって。
    気にせずエドさん、書いてください。

    Re: limeさん

    自白剤は、基本的に、秘密を漏らす薬というよりは、

    「なんでもいいからしゃべりたくなる」薬、といったほうが近いでしょう。だから意識を朦朧とさせて正常な判断力を奪った状態で使用すれば、隠すべきものもぽろっといってしまう、ということだそうです。

    自白剤にはさまざまなものがあるようです。

    主流は注射式ですが、飲むタイプのものもあるとどこかで読みました。

    今回エドさんは、同業者と彼女にだまされて、この悪人に偽情報を伝えるための囮として使われたので、いわば「自分から素直にかかりに行った状態」ですので、かからなかったらかえって不自然なような。

    催眠術では、過去にハイデルベルヒ事件という、いえなんでもありません(^^;)

    NoTitle

    催眠術って、本当にかかるもんなんでしょうかねえ。
    よくTVで、タレントが何日にもわたって催眠術をかけられていますが、あんなことができたら、かなり怖いことがおこりそうな・・・。

    きっと、かかりたいと思う感情が、理性を抑え込んで、かかった妄想を抱いているんじゃないかと思うんですが。

    私は絶対かからないと思います^^
    うん、きっと。(でも、気の毒なので、かかったふりをするかな)

    エドさんは、そう言う事だったんですね。
    まあ、そんなこともあるでしょう。人が良さそうだから^^;

    しかし、自白剤と言うものはいったいどんな・・・・また長くなるので、辞めておきますi-201
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