FC2ブログ

    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:30 囚われの歌姫

     ←エドさん探偵物語:29 パズル →エドさん探偵物語:31 住み慣れた我が家
    囚われの歌姫



     時として探偵は、人の入ることなどめったにないような深い森の中に入ることがあります。今日のエドさんは、まさにその「時として」でした。

    「ほんとに、こんなところにいるのかなあ。こんなところにいるのは、怪しげな庵を組んで住む、邪悪な魔法使いの老婆と話は決まっているんだがなあ」

     エドさんはぼやきながら、ひたすら足元もおぼつかないような道を進んでいきました。何度も転んだりつまづいたりしたので、身体じゅうが擦り傷だらけになっています。

    「やっぱり、誰かこの道のベテランに来てもらうべきだったかなあ」

     エドさんはつぶやきましたが、おおごとにできない事情がありました。機械を確認すると、たしかにGPSはこちらの方向を示しています。エドさんは肩をすくめると、また歩き続けました。

     GPSが、ここだと示す場所にたどり着いたのは、すでに日が落ちたあとでした。

     エドさんは、ぜいぜいと息を切らしながら座り込むと、白い布切れを、あまり遠くからは見えないようにひらひらと振りました。

    「使者として参った! 喫緊の用で、妖精国の女王陛下にお会いしたい!」

     なにも起こりません。

    「われとわが言葉を信じよ! さもなくば、国は大いなる災厄に見舞われるであろう! 繰り返す! 大いなる災厄が!」

     地面に、ぼんやりと魔法陣が浮かび上がりました。エドさんはためらいましたが、勇気を出して魔法陣に足を踏み入れました。

     次の瞬間、エドさんはどことも知れぬ大広間で、武装した兵士たちに槍を突きつけられた状態で座り込んでいました。エドさんを見下ろすように、一段高い椅子に気品ある女性が座っていました。女王陛下でしょう。

    「使者として参ったといったな。その喫緊とやらの用件を申し述べよ。もし取るに足りぬことであれば、そなたの命はない」

    「もとより承知。さて、陛下はレティーヌという名前をご存知であろう」

     女王陛下は、ふと遠い目をしました。

    「わが国一番の歌い手であった。十年前、儀式に使う夜露を取りにこの国を出て以来、行方知れずとなっておる」

    「レティーヌ殿は今、人間に捕まり、歌姫として歌を歌わせられている。歌は大当たりを取った。そして今、レティーヌ殿は逃げ出す機会を得ようとしている」

    「あの娘については、人間の男よ、そなたの関知するところではない。われらにはわれらの掟があり……」

    「そのような話をしに来たのではない。レティーヌ殿は、わざと逃がされるのだ、陛下」

    「どういうことだ?」

     エドさんは機械を見せました。

    「これはGPS。小さなチップと呼ばれる金属片と、人工衛星の使用により、チップの持ち主の正確な位置が割り出せるもの。レティーヌ殿の身体には、このチップが埋め込まれることになる。すべて、レティーヌ殿の後をつけ、妖精の国を見つけ出し、歌い手をさらに集めんとする興行主の陰謀に他ならず」

    「陰謀を知らせてくれたことには感謝するが、わらわがさような悪人どもをこの国に入れなければ住むことではないか、人間の男よ?」

    「人間の知恵はその悪にも底がないもの。彼らは、女王よ、あなたと取引をしようとしているのだ。歌い手を出さなければ、このあたりの山々や森を破壊して、原子力発電所や工場地帯を作る、と脅すだろう。陛下、あなたはそれに耐えられますかな? かといって、レティーヌ殿は、この国へ戻ってきて、裁判を受けねばならないことは掟に明記してあると、世話係の少女から聞いております。依頼人ですからな。そして、興行主はひとりやふたりの妖精では満足せず……」

    「わかった。伝えてくれて礼をいうぞ、人間の男よ。ものども、槍を引け。このことに関しては、われらはわれらで話し合わねばならぬ。難しい問題じゃからな」

     エドさんは深く頭を下げました。

    「わたしに興行主の陰謀を相談に来た、囚われの妖精の世話係をしていた依頼人から伝言がある。『どうかレティーヌさんを死刑にはしないでください。あのかたの歌で、わたしの母親は死病の床から生きる元気を取り戻したのです』ということだ。それと……」

    「なんじゃ、まだあるのか」

    「たぶんここにある、わたしのGPS機能つき携帯端末を返していただきたい。それを頼りにここまで来たのだ。この前、その端末をわたしの家から堂々と盗んでいった妖精を見つけたら、鎖につないで牢に入れ、反省文を書かせてくださればなお結構! もう、どれだけ迷惑したか。買ったばかりなのに!」


    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    【エドさん探偵物語:29 パズル】へ  【エドさん探偵物語:31 住み慣れた我が家】へ

    ~ Comment ~

    Re: fateさん

    本来ならばレトロフューチャーを目指すところなのですが、IT革命の波には逆らえなくて(^^;)

    ちょっとこの話を書くのには勇気が要りました(^^)

    GPS機能つき携帯端末

    ↑を、妖精と一緒に語るエドさん…もとい、ポールさんに敬意を表します…!!!

    Re: YUKAさん

    この妖精の国の女王様、きつい性格に設定しちゃったなあ、と思ったのですが、読み返してみて、意外とかわいいことに気がつきました。

    なにかの形でこの女王様はもう一度使いたいですね。

    「小説の登場人物には」恋多き男、ポール・ブリッツ! ……むなし(^^;)

    こんばんは♪

    ケイタイが妖精の国へ^^
    そして、それを探しにエドさんも妖精の国へ^^

    >人間の知恵はその悪にも底がないもの
    ここにそうだよね~~と妙に共感。
    いくら妖精でも、きっとかないませんね。

    Re: 有村司さん

    目的は完全に「GPS」だったりして(^^)

    妖精国とその歌姫と、それで一儲けたくらむ悪辣な人間は、もちろんあの国民的怪獣映画がヒントになってます♪

    でも、この妖精国の女王様は、けっこう性格きつそうだからなあ。レティーヌちゃんの運命を思うと、これの後日譚は、わたしに書けるかなあ……(汗)

    妖精さん…

    エドさんの目的は妖精の歌姫を救い出し、かつ妖精国を護ることなのか?GPS端末を取り返すことなのか?
    多分「どっちも」なのでしょうが、微妙にGPSに重きを置いている辺り、笑いを誘います。

    エドさん、根っからの善人だなあ。

    Re: 土屋マルさん

    喜んでいただき恐縮です。

    上のコメントにも書きましたが、途中で論理的破綻に気づいてからはうんうんうなって書いたので、苦労が実った、というか、ケガの功名というか……(^^;)

    Re: ねみさん

    この話、最初に書き出して、鼻歌まじりでキーボードを打っていたところ、論理的に破綻していることに中途で気づき、慌てて頭から書き直しました(^^;)

    どこでどういうふうに論理的に破綻していたかについては恥ずかしいからしゃべりたくない(笑)

    NoTitle

    エドさん、とってもご苦労さまだったんですね(||´・ω・)
    買ったばかりのケイタイ求めて、西へ東へ妖精国へwww
    依頼ついでとはいえ、そんな場所を探し当てるとはさすが名探偵です!
    「反省文を書かせて下さればなお結構!」という怒りの台詞が、何とも言えずかわいらしくて、クスッとしてしまいました♪
    このお話、好きだな~(*´ω`*)

    NoTitle

    まさかのエドさんの携帯でしたか。
    携帯盗むなんて人間じゃありえないですもんね。
    一発でわかっちゃいますもの。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【エドさん探偵物語:29 パズル】へ
    • 【エドさん探偵物語:31 住み慣れた我が家】へ