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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:31 住み慣れた我が家

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    住み慣れた我が家



     雨が降って、じめじめした日でした。湿気を避けるため窓を閉め切った中で、エドさんは、こんなときにばかり故障する冷暖房機を、恨めしそうな目でにらんでいました。

     扉に、かすかなノックの音がありました。

    「開いてますよ」

     エドさんは答えました。

    「開けられないんです」

     エドさんはやれやれと首を振り、椅子から立ち上がると、扉を開けました。

     そこにちょこんといたのは、一匹のかたつむりでした。

    「ありがとうございます、探偵さん。なにせこの身体なもので……」

    「いや、いいんですよ」

     エドさんは、もしかしたらこの事務所には、小動物用の入り口のひとつでも作るべきかもしれないな、と思いながら、カタツムリをすくい上げ、机の上にそっと置きました。

    「失礼かもしれませんが、椅子の上におられるより、机の上のほうが、いくらか話しやすいかと思いましてね」

    「お気遣いありがとうございます、探偵さん」

    「それで……わたしへの依頼は、いったいなんですか?」

     エドさんは、もうなにが起こっても驚かないぞ、という気分で尋ねました。

    「それなんですが」

     かたつむりは、ちょっともじもじしました。

    「もうなんでもいってください。できることでしたら全力を尽くしますし、できないことだったら、専門家を紹介しますので」

    「はあ……実は、ぼく、引越しをしたいので、物件を探しているんです」

    「引越しをしたいって……家から?」

     エドさんは、かたつむりの殻をまじまじと見ました。

    「変ですか?」

    「だってあなた、かたつむりでしょう?」

    「ここらへんじゃ、そう呼ばれているみたいですね」

    「ははあ、すると、いつもいる木々や壁とか、じめじめしたところが嫌いになって……」

    「そんなところ、家と思ったことはないですよ。ぼくには、もっとぼくにふさわしい家がありますからね」

     エドさんはかたつむりの殻を見ました。

    「家って、どれくらいの家ですか?」

     かたつむりはもじもじしました。

    「人生の伴侶と落ち着けるくらいの家がほしいんですが……」

     エドさんは頭を抱えました。無理にもほどがある願いです。

    「いいですか」

     エドさんは、噛んでふくめるようにいいました。

    「あなたはかたつむりですよね」

    「そうですよ。このへんではそう呼ばれて……」

    「そんなかたつむりにとって、二匹が一緒の家にいよう、というのは、無理です、いや、無理を通り越して、不可能というものです」

    「そういうものですか?」

    「そもそも、あなたは、家としてどんなものを考えていたのですか」

    「え? だから、家は家ですよ。わたしも、伴侶も、あなたも住んでいる家」

    「わたしが住んでいる家?」

     エドさんは、あっけに取られました。

    「最近、どうも住みにくくて。環境破壊は止まらないし、危険は増える一方だし……」

    「あなたがおっしゃっているのは、この地球のことですか?」

    「このへんではそう呼んでいるようですね」

    「ということは、あなた、かたつむりじゃなくて、宇宙人……」

    「ええ。でも、このへんではずっとかたつむりと呼ばれていますよ。それがどうか?」

     エドさんは、ぱくぱくと口を動かすことしかできませんでした。

    「あなた!」

     外から、大きな声が聞こえてきました。エドさんは、はっと外を見ましたが、何も見えませんでした。でも、何かの気配はします。

    「プロである不動産屋さんがだめだったんだから、探偵なんかに聞いて、どうにかなるわけがないでしょう! わたしたちで探すしかないわよ! 行きましょう!」

    「そうだね、ハニー。どうも、ご迷惑をかけました。窓を開けてはいただけませんか?」

     エドさんが窓を開けると、外からなにか赤い光線のようなものが伸びてきて、かたつむり……いや、かたつむりそっくりの宇宙人を吸い込むようにして消えてしまいました。

     エドさんは窓を閉めると、肩をすくめて机に戻りました。宇宙人と違って、エドさんたち人間は、とうぶんの間はこの住み慣れた我が家以外に行くところはないのですから。


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    ~ Comment ~

    Re: 涼音さん

    オチに詰まると宇宙人を出す癖があるんですわたし(^^;)

    たいていエドさんはオチから逆算して話をこしらえてますので、慣れてくると読む前から「あっ、これは宇宙人オチだ」とわかってくるかもしれません(笑)

    こんばんは^^

    先日は沢山のコメントを有り難うございました。とても嬉しかったです^^

    で、今回のお話、「おお!アリのカップルの次はカタツムリか」と、思ってい読んでいて、そりゃ一緒に住むのは無理だろぅと思いつつ読み進めていると、まさか、宇宙人だったとは!!
    この発想は思いつきませんでした。
    で、何気にカタツムリの「このへんではそう呼んでいるようですね」って言葉がツボにハマりました^^
    楽しいお話を有り難うございました。

    Re: 西幻響子さん

    これを書いたときは、ものすごく暑い夏の日で、冷房もつけずにパソに向かってこつこつ打っていた覚えがあります。

    だから、目についたものを片っ端からアイデアとして放り込み、パズラーみたいに書いていたなあ。

    どうして急に「デンデンハウス」なるものを思い出したかは、「しずくちゃん」というアニメを人に勧められて見たからで、その中の、かたつむりのキャラクターが印象的だったから……くらいのことしか覚えていません。なにしろ暑かったもんで……。

    うお~。最高ですね、これ。
    依頼人が、か、かたつむり!! 
    あまりに面白くて、西幻はのけぞってしまいました。
    エドさんが、かたつむりの殻ばかりを見てしまうのも、うなずけます(笑)
    しかもそのかたつむりが異性人だったなんて・・・ 
    さいこうにおもしろかったです。

    Re: fateさん

    このときは「強化月間」ということで毎日更新していましたから、必然性もなにも、「思いついたら即投入」状態でありましたからねえ……。

    それにしては自分では結構気に入っている作品であります。

    こ…これっ…

    宇宙人を「かたつむり」にする必然性はどこに…???
    伴侶の方の正体は何っ???

    は、良いとして。
    ものすごく深いことを相変わらずさらりと流しましたね。
    さすがです。

    Re: YUKAさん

    人外生物さんは、普通にドアを開けて入ってきますので(^^)

    それにしても人類、住み慣れた我が家を破壊してしまうつもりなのでしょうか。うむむ。

    こんばんは^^

    >小動物用の入り口のひとつでも作るべきかもしれない

    うんうんと頷きましたが
    エドさん、人外生物専用入り口の方がいいのでは?^^

    住み慣れた我が家――確かにまだまだ、ここから逃れる術がありません^^

    Re: 有村司さん

    ♪モスラヤ モスラ ドゥンガンカサクヤン インドゥムー ルスト ウィラードア ハンバ ハンバムヤン ランダ バンウンダラン トゥンジュカンラー カサクヤーンム

    です。暗記して正確に歌いましょう(誰がそんな暇なことを……)

    小学生が手でたたいてこわれるほど、宇宙人の殻はたぶんやわではありません(笑)

    それにしてもエスカルゴ食べたい(おい)

    あははは…!

    モスラーヤッモスラー♪コンナンカサームヤ リンドンムー♪

    …あ、これは前回の妖精さんの感想の続きです(笑)

    さて、懺悔をさせて下さい。
    私は小学校の三年生の頃、親せきの家の庭に何故か大量発生していたカタツムリを、その殻を手で粉砕して大量殺戮したことがあります。
    その中には、もしかしたら「宇宙人の夫婦も」混じっていたかも…?

    それ以来「かたつむり」という単語を目や耳にすると、なんだか胸が痛むのであります。
    私はエドさんのような善人ではないですね…。

    Re: limeさん

    風呂敷は広げられるだけ広げたほうが楽しいですから(^^)

    「動物」と「男」と「銃」と「子供」を書かせたら稲見先生の右に出る人はいません(^^)
    早世してしまったのがくやしい作家のひとりです。

    たぶん、「ソー・ザップ!」は、途中まではすごく気に入ると思います(意味深)

    Re: ミズマ。さん

    いやあの宇宙人は嘘はひとことも(笑)

    そこらへんに異文化理解の問題が(笑)

    Re: 矢端想さん

    ここまでお褒めになられると、もとネタがドラえもんの「デンデンハウス」だということなど口が裂けてもいえん(笑)

    しずくちゃんもちょっと入ってますけど(爆)

    NoTitle

    やっぱりそろそろ「宇宙人専用窓口」が必要かもしれませんね。
    今回も、ちっちゃくちっちゃく始まって、おもいきりグローバルな展開になりましたね。楽しい。
    でも、ちょっぴりエドさんの、無力感が漂って、かわいそうでもありました。

    (追記)
    稲見先生の「ソー・ザップ」と、「ダックコール」買ってみました^^
    さて、わくわくできるかなあ~♪
    いやいや、まだレディジョーカーが途中だ・・・。

    「このあたりでは~」ってのが良いですね。かたつむりのすっとぼけた感じが好きです。

    しかしエドさん、すっかり人外専門だなぁ。
    読んでる分には楽しくていいですけど。

    NoTitle

    かたつむりの殻と地球という、「家」の概念を多元的にとらえてみようという意欲作に拍手をおくります。

    バッキー・フラー博士は地球を宇宙船にたとえましたが。
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