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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:32 ハーモニー

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    ハーモニー



     ホールじゅうの客たちが、総立ちになって手を叩きました。割れんばかりの拍手は、いつまでもいつまでも続きました。

     しかし、マエストロの名を持つ指揮者の顔は、深く苦悩に満ちたものでした。

     くるりと指揮者は観客のほうに振り返ると、ひとこと叫びました。

    「ハーモニーがない!」

     そのまま、指揮者はすたすたと、後も見ずに舞台を去ってしまいました。残されたのは、唖然とする観客たちだけでした。

     その光景のビデオを見せられたエドさんは、首をひねりました。

    「で、わたしはいったいなにをすればいいんですか? これは芸術家の感性の問題で、私立探偵が出向くような問題ではないと思うのですが」

     エドさんを招いたコンサート主催者は、頭をかきむしっていいました。

    「それなんですけれども、あの頑固じじいの望む演奏場所を探してほしいんです。どうも、なにか、どうしても演奏に行きたい場所があるらしいんですが、頑として口を割りません。口を開けば、『ハーモニーがわからんやつに教えてもどうしようもない』の一点張りで……どうかお願いします。わたしたちの組合は、今度のマエストロの演奏会に賭けているんです。もしも新聞や雑誌にぼろぼろに叩かれたら……その前に、なんとかしてください」

    「どうして、わたしを選んだんです」

    「経済的理由からです。わたしたちの組合の用意したお金のうち、マエストロへの報酬と、楽団への報酬と、その他を払ったら、残るお金は微々たるものです。そこからさらに日々の糧を差し引くと……」

    「わかりましたよ。引き受けましょう」

     エドさんは、今回もとんでもない依頼を引き受けてしまったぞ、と、頭を抱えながら事務所に戻りました。

     とりあえず、図書館に行って専門書を借り、マエストロの履歴を調べます。

    「えーと、本名、アレクサンドル・ネクラーソフ。田舎の小さな村に生まれる。田舎の小さな学校に通い、田舎の小さな中学校に進学。天文学サークルで活動。学業優秀だったため、街の高校に入り、そこで、熱心な音楽教師の指導のもと、天賦の才が開花。奨学金を得て音楽の専門学校に入り、天才ピアニストとしての名声をほしいままにする。三十にして指揮者に転向、以後の経歴は……」

     ずらずらと並んだ、どこの国のどこの街だかもわからぬような文字の列に、エドさんは頭がくらくらしてくるのを感じました。

    「だめだなあ。さっぱりわからん。もっと、あの人を理解する方法はないものか。そういえば、あのマエストロとかいう人は、いったい、ハーモニーというものをどう理解していたんだろう?」

     エドさんは、音楽の初歩についての本を借りました。

     そのページをめくったとき、エドさんは、ようやく、マエストロがなにをしたいのかを悟りました……。



    「荒れ果てたものですね、マエストロ」

    「ふん。探偵が、なんの用かと思えば」

     マエストロは機嫌が悪いようでした。

    「ほんとにこんな山奥に向かうんですか?」

     コンサート主催者は、エドさんが動かす四輪駆動車に、おっかなびっくりしがみついていました。日はとうに沈んでいます。

    「山奥とは失礼ですよ。なにせここは、後のマエストロである、アレクサンドル少年が駆け回った山なんですから」

    「え?」

    「ほほう。まったくの無能ではないようだな。探偵」

    「初歩から勉強しましたからね。しかし、村は廃村になってました。それでも、古地図から見つけましたよ、あなたがはじめてギリシアの哲人が聞いた音楽を耳にした場所を」

     エドさんは、古い石造りの建物の横で車を停めました。

    「あなたが子供のころ夢中になって通っていた天文台です。ささやかながらここに最新型の電子ピアノを借りてきましたので、どうぞ」

     マエストロは、ピアノをバッテリーにつないだエドさんたちに一礼しました。

    「即興でやるんですか? こんな闇の中で」

     エドさんはうなずきました。

    「ピタゴラスの話は知っているでしょう。数学者としてだけではなく、音律の原型を作った人でもあります。演奏を聞きましょう。幼いアレクサンドル少年が天使の耳で聞いていた、宇宙の奏でる天上の音楽と対応する、地上の音楽の素晴らしいハーモニーをね」

     満天の星空の下、それは美しい音楽が始まりました。ふたりはただ、聞きほれました。


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    ~ Comment ~

    Re: けいさん

    エドさんはともかくとして、

    わたしに音楽をやらせるくらいなら、範子と文子にボーカルをやらせたほうがマシです(^^;)

    http://crfragment.blog81.fc2.com/blog-entry-495.html

    ほんとカスタネットひとつ満足に叩けぬ男で……(^^;)

    まあ知り合いの「トライアングルすら演奏できなかったやつ」よりはマシですが。(金属部分をぐっと握りしめた状態で棒で叩いていた(実話))

    NoTitle

    おお。エドさんはさすがだあ。
    ホールで天井から跳ね返る音響を感じながら聴くのも良いですが、
    自然の中に溶け込んで吸い込まれて行く音楽も良いのでしょうね。

    ハーモニーというのはやはり総合のバランスですから、
    自然に勝る気持ち良さは無いんだろうなあ。

    というわけで、こちらの野外のイベントにも、ポールさん、エドさん、そして、マエストロ殿のご参加をお願いしたいのですが、いかがでしょう。

    てか、もう、お名まえ、入っちゃっているんで、あとはポールさん、どうぞよろしくお願いします^^

    Re: YUKAさん

    どこでだって、夜空を見上げれば、旋律が聞こえるさ……と、カッコいいことをいおうかとも思ったけれど、よく考えてみたら、日本は夜になっても明るすぎてまともに星が見えなかった、という(^^;)

    うーむ(^^;)

    こんばんは♪

    エドさん、相変わらず優しいなぁ~^^

    宇宙の奏でる天上の音楽。。。聞いてみたい。
    こんなところでは、星の瞬きも旋律になるのでしょうね~

    Re: 有村司さん

    >モスラの歌

    いえ別にわざわざコピペしなくても、ウィキペディアに載ってますし(^^)

    歌詞検索のサイトにもいくつか取り上げているところがありますし(^^)

    たしかカラオケでも入れているところがあったような。

    なにせマニアどもが歌いますから(^^)


    >某超有名漫画家の漫画の一篇

    ネタもとは星雲賞受賞の中井紀夫先生の傑作SF小説「丘の上の交響楽」と、鈴木光司先生のファンタジー大賞受賞作「楽園」の第三部なのですが、そのマンガはちょっと思い浮かびません。なんだろう(?_?)

    素敵だ…

    こんにちは!

    先ほどのお返事「モスラの正しい歌詞」ですが、コピペしてメモ帳に保存しました!
    特撮ファンたるもの、ちゃんと憶えなければ…!でも、先ほどのコメントは本当に救われました。ポールブリッツさまお優しい方ですね^^

    さて、このお話…。
    「天文学と数学、そして音楽は相通ずるものがある」…程度のことは耳学問で聞いていたのですが、こんな素敵なお話に昇華するとは…!

    何故か某超有名漫画家の漫画の一篇を思い出しました。
    あれも良いお話でしたが、このお話もまたなかなか…うむむ…。

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    Re: 矢端想さん

    タイムスクープハンターも昔の日本にばかり行ってないで古代ギリシアの劇が実際はどんなものだったかをな……(無理)

    NoTitle

    古代ギリシャの人々は、人里離れた険しい山奥に、わざわざ劇場をつくりました。大自然のハーモニーをちゃんと感じ大切にしていたのでしょうね。
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