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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:33 飛んだか薔薇か

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    飛んだか薔薇か



    「エドさあん、イカリは見つけてくれましたかあ?」

     天井からの声に、私立探偵のエドさんは半ばうんざりという顔つきで答えました。

    「見つかりましたよ。もう、何度なくしたら気がすむんですか。あなたは、このイカリがなければ、あっという間にどこか遠くの街だか村だか砂漠だかに吹き飛ばされてしまうというのに。これからはなくさないでくださいね、はいイカリ」

     エドさんは、船を停止させるためのイカリに結び付けられたロープの端を、ぽんと天井に放り投げました。

     そこに浮いていたのは、気弱そうな、それでいてどこか視線が空のほうを向いているような、ひとりの目立たない男でした。

     男はロープを伝ってイカリにしがみつき、ロープの余りを身体に巻きつけました。

    「ありがとうございます。報酬は振り込んでおきますから」

    「探偵と依頼人じゃなく、ひとりの友人として忠告しておきますがね、あなた、そんな生活していたら、まともに世の中生きていけませんよ。もっと、考えるべきですね」

    「わたしの生き方はわたしが決めます」

     男はそういうと、事務所を危なっかしい足取りで、イカリをひきひき出て行きました。

     エドさんはため息をつきました。



     ある日のこと。思いつめた様子のあの男が、エドさんの事務所にやってきました。

    「どうしたんです」

    「ローザ、入ってくれないか」

     男の後ろから、片手に薔薇の花束を持った美しい女性が現われました。

    「エドさん」

     男は、意を決したようにいいました。

    「君は、アンティーク収集が趣味だったね。ぼく、風船男をつなぎとめていたこのイカリ、もらってくれないか」

     エドさんはびっくりしました。

    「君、そのイカリがなかったら、あっという間に風に吹き飛ばされてしまうじゃないか」

    「だからだよ」

     男はいいました。

    「ローザが、イカリを引きずらないと歩けないような男とは、結婚したくないっていって……」

     ローザと呼ばれた女性は、瞳に決意の色を見せていいました。

    「これからは、わたしが、この人のイカリになります。そうでなければいけないんです。いつまでもイカリにすがっているような、そんな情けない人とともに人生を送りたくありません」

    「でも、支えとなるイカリがなかったら、この人は……」

    「いや、エドさん。これは、ぼくの意思でもあるんだ。君が前にぼくにいった、地に足のついた生活を送るため、ぼくはいつまでもこうしてイカリにしがみついていてはいけないんだ」

     エドさんにはなにもいえませんでした。

     ローザは手の薔薇の花束を見せました。

    「もしもあの人が、イカリを放しても、わたしにつかまって大地に立っていられたら、そのときは、永遠の愛の誓いとして、この手の薔薇をあの人に差し上げるつもりです」

    「それに対して、もしぼくが彼女の手をつかんでも、風に飛ばされてしまうような男だったら、そのときは、こんな男など、どこか遠くの世界に飛んでいってしまえ、だ。彼女がいない世界なんか、ぼくが生きていたってしかたがない」

     男は、イカリにつかまりながら、腰のロープをほどき、エドさんに渡しました。

    「エドさん、これを。ぼくの人生最大の賭けだ。飛んでいくのか、いかないのか……」

     男がイカリから手を放した瞬間、開いた窓から強い風がびゅーっと吹いてきて……。



     読者のみなさんに詫びねばなりません。

     エドさんは、わたしにこの話の結末を教えてくれませんでした。あの、イカリなしではそよ風が吹いただけで飛ばされてしまう風船のような男が、たとえ好きになったとはいえ、ひとりの女性によって地に足のついた生活をさせてもらえるほど、世の中は都合よくできているものでしょうか。

     しかし、愛を語る人どうしの絆は、なによりも固いといいます。わたしは、人間として、それを信じるべきなのかもしれません。

     エドさんはにこにこしているだけでしたが、もしかしたら、わたしの思いもつかぬような結末が待っていたということもありえます。

     わたしはあえて問いかけます。

     男は結局、飛んでいってしまったでしょうか、それとも薔薇を手にできたでしょうか?


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    ~ Comment ~

    バラの棘が刺さってパンッ!

    …ひねくれててごめんなさい
    花束はちゃんと棘は取られてますね

    Re: YUKAさん

    わたしもこう見えてもハッピーエンド派です。

    なぜか自作するとシニカルなものになることが多いのですが……(汗)

    こんにちは♪

    こういう結末の持っていき方は知ってましたが
    リドル・ストーリーというのですか?言葉を知りませんでした~

    私は幸せな結末主義なので
    基本的にハッピーエンドを期待してしまいますが
    どれがハッピーエンドなのかも考えさせられますからね~~

    読後にも、考える時間を楽しめるお話しでした^^

    Re: 有村司さん

    うーむ(^^;)

    どちらも読んでいない(^^;;)

    レンタルコミック屋いこ(^^;;;)

    お聞きした限り、有村司さんの作品だったら、それはそれでいいと思うんですがねえ。もちろん、両者の立場と、それに悩む主人公の葛藤も書き込んだうえでのことですが、それで読者の判断にゆだねるのなら、じゅうぶんアリだと思います。

    ええっと…

    私の書いた話は解決不能な難題をつきつけてくる正反対の女二人が「どっちが悪いの!?」と迫ってくる話でして…その結末を「読者に下駄を預ける」ような終わりにしたら(ある意味藪の中)「投げるな!はっきりさせろ!」と怒られたのであります(苦笑)

    あ、超有名な漫画家とは浦沢直樹氏でして、その作品「プルートウ」の一巻に出てくる老音楽家とロボットのお話です。

    原点である手塚治虫先生の「地上最大のロボット」を読んでいないので、浦沢オリジナルなのか、そうでないのかが分からないのですが…。

    Re: 有村司さん

    リドル・ストーリーと、「結末を投げる」のは少々ニュアンスが違います。

    リドル・ストーリーは、「結末を、正反対の状況が生ずる『二者択一』にしよう」とはじめから決めたうえで設定を作り、それ以外の可能性が存在しない、という状況を最後に持ってこなくてはなりません。

    だから有名な五味康祐先生の短編「柳生連也斎」のように、互角の相手が斬り合って、一人が倒れた、という状況を作り、さてどちらも互角です。背負った人間ドラマもどちらも重いです。さあ勝ったのはどちらでしょう、であればリドル・ストーリーになりますが、

    大勢の敵が待ち受けている中に、正義のガンマンが一人で乗り込み、銃を抜いて不敵に笑ったシーンで「おわり」になったら、ものをぶつけられます(^^;) そんなことをしていいのは永井豪先生くらいです(笑)。

    結末がある程度絞られ、その選択肢がどれも等価、という状態になるからこそ、議論が起きたり、選択肢をすり抜けるアイデアマンが出てきたりするところに、この手の小説の面白さがあるのです。

    有名なリドル・ストーリーとしては、ストックトン「女か虎か」に影響を受けた、生島治郎「男か? 熊か?」、加田玲太郎(福永武彦)「女か西瓜か」、小松左京「女かベムか」(これはわたしも未読ですが)などがあります。

    それ以外でもいくつか知っていますが、そういうものは、あらかじめリドル・ストーリーだと知っていると、面白さが十分の一くらいになってしまうものなのであります(笑)。

    投げるなと怒られた(苦笑)

    こんにちはー。

    こういう手法「りドルストーリー」というのですか。
    言葉として初めて知りましたが、以前こういう「最後はご想像にお任せします」みたいな話を書いて、友人に「結末を投げるな!」と怒られ、大喧嘩になりかけたことがあります(苦笑)

    私はこの手のシークエンスが大好きvなのですが^^;
    私はこのお話のラストは…あ、言うのやめとこ(笑)

    仮面ライダー主題歌集を聴きながら…。

    Re: 鍵コメさん

    いえいえ、そうお気になさらず(^^)

    わたしも「読んだ気」になっていたので……(^^;)

    Re: 矢端想さん、ねみさん

    物語の結末が謎のまま終わる話を、リドル・ストーリーといいます。

    中でも特に有名なのが、ストックトンの短編小説「女か虎か」です。

    タイトルからでもわかるように、これはその話を下敷きにしています。

    こういうことをすること自体、作者がネタがないと自白しているようなもので……(笑)

    ストックトンの短編でも、様々な作家が、様々な回答をしていたなあ……。

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    NoTitle

    や、いいのでは?
    星新一のショートのようで僕は好きですよ。

    星さんの妄想銀行などは立派な例だとおもいます。
    個人的にはマイ国家がすきですが。

    NoTitle

    うーむ、むずかしいお題だ。(←大喜利かっ)

    ・・・彼はとっさに彼女の手をつかみました。しかし女性の髪を乱す程度の風でもこの風船男にとっては恐ろしい暴風です。彼の両足はたちまち床から離れ、女性と握った手だけでかろうじてつながれていましたが、それも強大な風の力にはあらがえません。とうとう絡めた指がほどけようとした時、彼女はとっさにもう片方の手で彼を引き寄せました。そして彼らはしっかりと互いの身体を抱き締めました。もうどこにも飛ばされないように。代わりに飛んだのは薔薇でした。彼女の手から離れた薔薇の花束は散り散りの花吹雪となって、吹き戻された風とともに、窓の外、大空一面を飾りました。
    結局、彼は花束を受け取ることはできませんでしたが、空いっぱいに舞い上がった薔薇の花びらが彼らを祝福していることを、エドさんは疑いませんでした。 おわり

    (別解答)
    ・・・彼はとっさに彼女の手をつかみました。そして二人してあっという間に遠くのお空の彼方に飛んでいってしまいました。一瞬キラーンと光ってそれっきり、エドさんがどんなに目をこらしても、もう彼らの姿の姿を見ることはできませんでした。 おわり
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