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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:34 飛びたい戦車

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    飛びたい戦車



     その日、私立探偵のエドさんは、依頼された事件を解決し、お金が入ったので、なじみの古道具屋さんに足を運びました。

     いろいろと棚を物色していたエドさんの目が、ふとあるおもちゃに止まりました。

    「なんだい、これ。戦車に翼がくっついているけれど。グライダーかなにかかい?」

     古道具屋の主人はエドさんに解説をしました。すでに手には電卓を用意しています。

    「戦時中に、よその国で考案された、いわゆる空挺戦車というやつだよ。この翼のついた戦車を輸送機で曳航してきて、目的地の上空にたどり着いたら、フックを切り離す。戦車は翼によって滑空して、地面に着陸。攻撃態勢に入る、という寸法だ」

    「ふうん」

     エドさんはその不恰好な戦車だかグライダーだかわからない代物をうさんくさげににらみました。

    「そんなにうまくいくのかい?」

    「うまくいっていたら、今頃はどの戦車にも翼がくっついているさ。史実じゃ、試作はされたらしいけど、さまざまな不都合が出てきて不採用。だいいち、滑空できるほど軽い戦車なら、装甲をうんと削らなくちゃいけない。そんな紙細工みたいな戦車に乗ったら、命がいくつあっても足りやしない。で、買うのかい、買わないのかい?」

     エドさんは、苦笑いしました。

    「いくら?」



     エドさんは、戦車のおもちゃを大事に自分のアパートに持って帰ることにしました。こればかりは、さすがに事務所の飾りにはなりません。でも、自分の部屋ならば、誰に文句をいわれることもなく飾ることができます。

     煙を吐く機関車を描いた細密画の横に並べて、にやにやしながらウイスキーをちびちびやっていると、ふいに、部屋に誰かのため息がしました。耳をすましてみると、ため息をついているのは、今日買ったばかりの、あの空挺戦車のおもちゃではありませんか。

    「どうしたんだい」

     エドさんは、グラスをテーブルに置くと、戦車のそばに寄って尋ねてみました。

    「空を飛びたいんです……」

     空挺戦車は、そういうと、再び、悲しげなため息をつきました。

    「ぼくは、生まれてこのかた、空を飛んだことがないんです。ぼくも、ぼくと同じように作られたおもちゃたちも、それから、ぼくの原型になったご先祖様も、みんな、空高く飛んだことがないんです。一度でいい、この身体で大空を舞いたい……」

     エドさんはほろりとしました。

    「わかった。今度の晴れた日、野原に行こう。思い切り空を飛ばせてあげようじゃないか」



    「これ、なんですか?」

     エドさんとその友人が車に詰め込んだものを見て、戦車は不安そうに尋ねました。

    「君の母船にあたるものだ。ラジコンヘリだよ。業務用に使われているその大型のやつだから、君を曳航してもなんとかなるだろう」

    「ありがとうございます!」

    「礼ならこの友人にいってくれ。わたしは免許を持ってないんだ」

    「なにをぶつぶついってるんだい、エド?」

    「なんでもないよ。準備を頼む」

     誰もいない、広い野原に車を停めたエドさんたちは、しっかりと戦車のフックに糸を巻きつけると、ヘリを飛ばしました。ヘリは大空を、すごいスピードで飛んでいきます。

     エドさんの友人の腕は確かでした。戦車のおもちゃがプロペラにぶつからないように、巧みに複雑な操縦機を操っています。

     そのとき、エドさんの脳裏を、古道具屋の主人がいった言葉がよぎりました。

    『目的地の上空にたどりついたら、フックを切り離す……』

     エドさんははっとして、友人にヘリを降ろすよう頼もうとしました。

     遅すぎました。空挺戦車は、糸を切り離し、まっさかさまに……。



    「君を作ったおもちゃ職人が、模型飛行機の職人で、航空力学に明るくてよかったよ。君が軽い木で作られたおもちゃじゃなかったら、あんな見事な滑空どころか、地面に激突してばらばらになるところだったんだぞ」

    「……ごめんなさい」

    「よろしい」

     車を運転していた友人は笑いました。

    「なんだよ、エド。さっきからひとりでぶつぶつと。しかし滑空するとはよくできてるなあ。よかったら、ゆずって……だめか。けち」

     笑い声とともに、エドさんたちを乗せた車は夕陽の道を家へと走っていきました。



    ※ ※ ※ ※ ※



    作者覚え書き

     ここで語られた空挺戦車の計画は、ファンタジーでもなんでもない。実話である。とりあえず、英語版ウィキペディアのこの記事を見ていただきたい。ここでは空を舞っているように見えるが……十中八九トリック写真だな(笑)。ソ連の戦車開発陣を笑うのはたやすいが、同じようなことは当時の日本も考えているのである……(^^;)

     空挺戦車自体は、こんなグライダーのお化けみたいなものだけではなく、パラシュートで降下するものなどいろいろと考えられた。いくつかは実戦投入されたが……まあ、なんであれ、人間、夢というものが必要である。夢というものがなくなると、現代のアメリカ軍の空中機動騎兵みたいに、「戦闘ヘリ」などという無粋なものが開発されることになるのである。


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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    わわわ、わたしはいったい何を信じたらいいんだ?(^^;)

    顔が見えないネット社会はこわい(笑)

    凄い兵器ですね~~(笑)
    確かに、あの重い戦車が空を飛ぶにはいろいろ問題が~と思ったのですが、実際に作ろうとしていたとは驚きです。

    そしてやはり、声はエドさんにしか聞けないのですね。

    ところで。。。
    私が、実は男だと言ったら驚いてくださいますか?^^



    ――冗談ですけどね(笑)

    Re: 有村司さん

    え? 

    ええええ?

    なんか今、立っていた足元がガラガラと音を立てて崩壊していくような気分です(^^;)

    ハンドルネームと作品とから、てっきり男性だと……。

    わたしはいったいなにを信じればいいんだ(^^;)

    ちなみにわたしは男です。正真正銘(^^)

    そういや昔、この通りの芸風と喋りをしていたにもかかわらず、女性と間違われたことがあったなあ。

    ネットって怖いなあ(^^;)


    ボトムズのATは、これまで出てきたアニメの中で、最も優れた「兵器」だと思います。作るのは安いわ、小さいから隠密性も優れているわ、火力は必要なだけあるわ、しかも宇宙まで使用可能だわ……。

    どんな天才が設計したんだろう(^^)

    えええ!?

    こんばんは!おきて破りの一日に四回目の訪問です。

    私のオタク人生を決定づけた作品に「装甲騎兵ボトムズ」というのがあります(ポールブリッツさまには説明不要のはず)
    「論理的に」考えると結構「えええ!?」なATという人型兵器(あれはロボではないと思う)が、妙なリアリティーをもって画面狭しと駆け巡るのですが、一番燃えたのは、ローラーダッシュというキャタピラが異常高速回転する足と、大部隊はパラシュートで落下、滑空しながら目的地に現れるという点…そう。今回の「トンデモ戦車」を連想させるのです。メカデザインの大河原さんが、この戦車を念頭に入れていたとしても…?と思うのですが。
    とまれ、この戦車君の夢がかなって良かったです^^

    ああーこんなコメント残すから男性と間違われるんですよねえ(苦笑)

    Re: ねみさん

    ご存知でしたか(^^)

    こんなものがゴロンと転がっていたりするからミリタリファンはやめられん(笑)。

    しかし珍兵器だなあ。

    Re: ミズマ。さん

    とりあえず今日は休養をとります。おやすみなさい。zzz……(まだ朝です)

    NoTitle

    もしやと思いましたが。
    やっぱり出ましたか、ソ連のトンでも飛行戦車w
    いやはやさすがはポールさん。
    マイナーなところをついてきなさる。

    NoTitle

    では……

    「さすがポール! 俺達に出来ないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」(笑)

    「俺は探偵をやめるぞ! エドーッ!!」でも良いかも知れない^^;

    こういうときにコミケにて購入したジョジョアンソロジー本が役に立つわけです(笑)

    ポールさんもコミケ、無理しないように頑張って下さいね!

    Re: ミズマ。さん

    ミズマ。さん、あなたはわたしにこういわせたいんですね。わかりました。やりましょう。

    「お前はこれまでに自分が食ったパンの数を覚えているか、ジョジョーッ!!」(笑)

    ほんとはジョジョでなくツェペリさんにいったセリフだけど気にしない(^^;)

    夢とかロマンを無くしたら明日も希望も発展もないわけですよね。
    効率ばかり追い求めた無味乾燥な未来とか、味気なさすぎます。
    ちょっと「馬鹿だなぁ」って苦笑してしまう程度がちょうど良いのかと。

    朝からかわいい話を読ませていただきました(*^^*)

    しかしエドさん、戦車が喋っても動じませんね^^;
    この分だと、食べようとしたトーストが、歯をたてた途端に「あ痛ッ!」って叫んでも驚……きますかね、さすがに。
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