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    「ショートショート」
    ホラー

    病院でのよくある話

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    「お父さん、あと何回、ぼくは手術しなくちゃいけないの?」
     病院のベッドに横たわった卓の言葉に、父親の義彦はぐっと詰まった。
     しばらく卓は義彦の顔を見ていたが、やがて静かに目を閉じた。
    「だめなんだね。……ぼく」
    「テレビでも見ようか。そろそろ、お前の好きなあの番組が始まるぞ」
     義彦は話題を変えた。
    「『若杉大佐の冒険』だね。ああ、ぼくも若杉大佐みたいに大冒険ができたらなあ」
     そんな卓を痛ましそうに見ながら、義彦がテレビのスイッチに手を伸ばしたとき。
     ドアにノックの音がした。
    「入ってもいいかね」
     その声に、義彦の顔はこわばり、卓の顔は明るくなった。
    「若杉大佐だ!」
     そう。入ってきたのは、人気テレビドラマの主人公、若杉大佐に間違いなかった。

     若杉大佐。テレビの中では、巨大な悪の帝国の侵略に抵抗して戦場を駆け巡る、智勇に富んだ精悍な軍人だった。
     目の前にいても、その鍛え上げられた筋肉を持ちながらもスマートな体格と、どんなピンチにあってもへこたれぬ明るい表情には、見るものを魅了してしまう力があった。
    「卓くんだね」
    「大佐! 大佐どのはどうして、こんなところへ来られたのですか?」
     まだ信じられないかのように目を丸くしている卓に、大佐はやさしく微笑みかけた。
    「重い病気に対してひとりでがんばっている勇敢な少年を励ますのも、軍人として当然の責務だよ」
    「でも……それでも……大佐どのが来てくれるなんて」
     卓ははっとした。
    「でも大佐どの、戦争はどうなっているのですか? 今、戦場から大佐どのが離れていては、まずいのではないでしょうか?」
     大佐は大笑いした。
    「あんな二等民族の兵隊など、わたしが二、三日前線を離れていてもたいしたことができるわけがないさ。なにせ、わが国は大儀のために戦っているのだからね。大儀の前に、悪が勝てるわけがないだろう」
    「そうですね!」
     卓の答に大佐は大きくうなずいた。
    「そうだとも。君も、こんな病気なんかといつまでも戦っておらず、一日も早く健康になって、目の前にいる本当の敵と戦うんだ。お国のために役に立たない、非国民のようなやつといっしょになんかなりたくないだろう? 農場で働いたり、工場で兵器を作ったり、戦場で戦ったりしてこそ、真のわが国の国民なんだ。病室のベッドは傷ついた兵士のためにあるんだからな」
    「はい!」
    「よし。いい子だ。今日はわたしは君を、もっと設備が整ったほかの病院に移送する手伝いに来たんだ。そこでなら、君をお国の役に立つようにしてくれるだろう。いいね?」
     義彦がなにかをいいかける前に、卓は「はい!」と大きく答えた。
     若杉大佐は、一瞬、義彦に鋭く昏い目を向けると、それを吹き消したかのような顔で卓の肩を叩いた。
    「よし、君は本当にいい子だ。下に車をまわしてある。お医者さんにも話はしてあるので、すぐにここを出ることにしよう。それでは、お父さん、後はよろしく」
     その言葉とともに入ってきた二人の屈強そうな白衣の男が、卓の身体から点滴を外すと、ベッドを動かし始めた。
     義彦はその光景を蒼ざめた顔で見ていた。整形手術……クローン……医学の発達で、同じ顔を作り出す方法など山ほどある。そして、そのような顔の持ち主が、国家のプロパガンダのためになにをするのかも想像がついた。だが、「忠良なる国民」のひとりとしては、そのような疑惑を口にすることはできないのだ。相手が国の命令を受けているとなればなおのこと。
     義彦は窓辺に寄った。病室の窓からは、その車とやらがはっきりと見えた。
     『陸軍生化学兵器研究所』と横腹に大きく書いてあった。
     病室のドアで、卓は力いっぱい手を振った。 それが義彦が卓を見た最後だった。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    続きそうなのに、って、今回の「趣喜堂」は今日の更新分でオチがついたから、明日からまた普通のショートショートですが。(^^;)

    入院中の子供のところにスーパーヒーローが元気づけのためやってくる、という話はよくありますが、ファシズム国家になった日本で、その日本のスーパーヒーローである軍人が病気の子供のところにやってきたとしたら、その理由はなんだろう? と思ったらこうなりました。

    とにかく戦争だけはいかんであります。全国民が、「やってはいけないこと」のブレーキを、理性から取り外してしまうからであります。特に「正義の戦争」「聖戦」というやつは危険度において最悪であります。うむむ。

    趣喜堂が続きそうなので、こちらに。
    ホッホホホ

    これは不気味で口の中が不味くなる話。
    嫌だなぁ~

    実験される者は丸太扱いか。
    動物実験だって大反対だ。

    >神田夏美さん

    血も凍るようなホラーを書こうとしたら着地に失敗してしまいました(笑)。
    ホラーは難しいです。

    神田夏美さんの短編、うまくまとまっていてとても面白いですよ。あまり書けないだなんてうそだ~(笑)。

    すみません、以前のコメントの返信を見る前にさっきのコメントをしてしまったのですが(笑)短編の方も読ませて頂きますね!
    冒頭のほのぼのっぷりに、いい話で終わるのかなあと思いきやこの意外性、すごいです。
    無邪気な卓と蒼ざめた義彦のギャップが、悲愴と恐怖を煽ります。
    私は短編はあまり書けないので、勉強になります!

    >Thomerthさん

    まさか今週のプリキュアを見て書いたとは口が裂けてもいえない(笑)。
    こういうよくある話でディストピアものができないかと思ってやってみましたが、わたしはホラーの盛り上げ方がヘタですねえ(汗)。
    ホラーだと思っているのは本人だけだったり(笑)。

    なるほど。
    陸軍生化学兵器研究所の方のオチでしたか☆
    野球選手と病院の文脈のパロディみたいだったので
    オチは何を少年に約束する(労を払う)のだろうと思いましたが(笑)

    少年の方が約束され(身を捧げる)てしまったようで。
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