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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:38 ある日の車窓

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    ある日の車窓



     エドさんは、列車に揺られて、一路わがアパートとわが探偵事務所のある町へ帰ろうとしていました。

     依頼は無事に果たしたのですが、もう、あちこち走り回ったり探し回ったりとたいへんな数日間でした。数日間で依頼が果たせたのも、天の助けがなかったら無理だったんじゃないか、とエドさんは思いました。

     列車の座席は四人が向かい合って腰かける形になっていました。エドさんの前には、上品な老婦人と、小さな男の子が手をつないで座っていました。

     疲れきっていたエドさんは、やがて、うつらうつらし始めました。列車の揺れと、ほどよく効いた冷房が、眠気を誘うのです。

     ……ねえ、人はどうして死ななくちゃいけないの?

     前の席での老婦人と連れの会話が、耳に漏れ聞こえてきました。

     ……いいかい、死ななくちゃいけない、なんていっちゃ、いけないよ。神様が呼んでいるんだから、そのときが来たら、喜んでそのみもとに行くんだよ。

     ……神様っているの?

     ……いるかいないか、どれだけ考えたところで、人間にはわからないだろうね。けれども、いると考えた人間の大半は、神様がいたら、それは正しくてよいことをするものを愛しみちびくものだ、という考えに傾いているようだから、それを信じて悪いこともないだろうさね。

     ……もしも、神様が、悪者だったら、どうすればいいの?

     ……その神様よりももっと強い、正しいものがやって来るのを待つんだね。死んだものを殺すことはできないから、わたしたちはいつまでも、いつまでも、待つことができるし、だいたい、悪者は最後には正しい者には勝てないものさ。

     ……生まれ変わりってあるのかなあ?

     ……それも、いくら人間が考えてもわからないことだろうけれど、もし、神様が、生まれ変われ、っていうんだったら、生まれ変わるのが正しいことじゃないのかねえ。

     うつらうつらしながらも、エドさんは、なにか奇妙な感じを覚えていました。でも、半ば眠った頭では、なにが奇妙なのだか考えがまとまりません。

     ……もし、いやな生き物に生まれ変われ、なんていわれたらどうするの?

     ……世の中に、いやな生き物なんていないさ。それぞれが、それぞれに、楽しみもあれば、悲しみもあって生きている。そりゃあたしかに、ミジンコに人間と同じくらいの脳みそがあるとは思えないさ。でも、ミジンコの一生も、人間の一生と同じように、楽しく、そしてつらいものだと、わたしは思うね。

     ……もしかしたら、生まれ変われもしないで、消えてしまうかもしれないよ。

     ……それはそれで、また、いいことかもしれないね。夢も見ないでひと晩ぐっすり眠ったことはあるかい。それと同じことさ。つらいことなんか、なにもない。

     ……それじゃあ、地獄に落ちたら?

     ……もしも、神様がいて、地獄に落ちろ、といわれたら、それに従うのがいいだろうね。神様がいるのならば、十中八九、正当な理由があって落とされるんだろうから。もし、そんな理由もなしに落とすような悪い神様だったら、いつか正しいものに負けるだろう。そもそも、地獄があるかどうかすら、人間がいくら考えたところで、わかるわけがないさ。

     ……ふうん。そういうふうに考えているんだね、おばあちゃん。ぼく、もう、この列車に乗っているの、飽きたよ。そろそろ、別なところに行こうよ。

     ……そうだねえ。わたしは、もうちょっと乗っていたいけど、そこまでいうのなら、ちょっとばかり早くなってもいいかねえ……。

     エドさんは、やっと、なにが話し合われているのか理解しました。

    「行っちゃいけない!」

     叫びながら目を覚ましたエドさんが目の前の座席を見たとき……男の子の姿は、どこにもありませんでした。

    「おばあさん! あの子は、どこに……」

     エドさんが老婦人の肩に触れたとき、老婦人の身体が、ぐらりと傾き……。



     駅の人の話では、老婦人はひとりで乗ってきたし、車掌が見回っていたときもひとりで座っていたし、気づかれずにひとりで亡くなったのだろう、ということでした。男の子の姿を見たのは、エドさんだけでした。

     エドさんはときどき、あの老婦人は男の子にいったいどこへ連れて行かれたのかと考えることがあります。しかし……それは人間が考えてわかる問題ではありませんでした。


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    ~ Comment ~

    Re: 涼音さん

    作者としては、少年の正体については、「天使だろう」くらいの漠然としたイメージくらいしか持っていません(^_^;)

    でも突っ込んで考えて「正体はこれだ!」と特定するよりは、あいまいなほうがいいかな、とも思います。

    わたしも死ぬとき、このおばあさんくらいに達観できていればいいのですが。うむむ。

    今日は^^

    エドさんが目を覚ました時、どちらも居なくなってる事も有かと思ってましたが、一人だけだったんですね。
    となると、もしかして、男の子はおばあさんのお孫さんだったのでしょうか?
    先に亡くなっておばあ様を迎えにきたのかしら?と、漠然と考えてしまいました。

    おばあさんのお話良いお話でしたね。
    とっても共感できました。
    もし、神様がいて、天国があったなら、きっとおばあさんは幸せに男の子と過ごせていると良いな。

    Re: ダメ子さん

    わたしは船ですね。

    さあて灰色港へ行こうかフロド。(こら)

    死ぬときに乗るのは電車ってイメージがあります。
    連れて行かれる感があるからかな?

    Re: YUKAさん

    いちおう、死ぬときにどう考えたら死を受け入れられるか、の自分なりのシミュレートとその回答です。

    わからないものを考えてもしかたがないといえばしかたがないのですが。

    でもこれを読んで、「安楽死の勧め」だと思ってしまった方もいるようで、複雑な気分です……。

    こんばんは♪

    そりゃあ、エドさんクラスなら天も助けますよ~^^

    禅問答のようだ。。。
    そして、回答がどれも秀逸でした。
    おばあさんは、救われているの違いない。

    Re: 有村司さん

    死んだあとのことは誰も語れないし、なにがあるのかないのかすらもわかりませんからねえ。

    まあ自分に対する自己暗示というか(^^;)

    天国に行っても地獄に落ちてもまったくの無になっても動じないだろうこのお婆さん、よく考えたらすごい人だなあ(^^;)

    寝る前に…

    とっても哲学なお話を拝読してしまいました…。

    私は「中島らも」氏の短編を思い出しました。
    でも、ポールブリッツさまのこのお話の方が、よりファンタジックでしょうか^^

    幸も不幸も要は気の持ちようだと言いますけれど、このおばあさんはきっと悪いようにはならないと思います。

    エドさんって、俗に言う「霊感」もあるのかな…?

    Re: 土屋マルさん

    天使は昔から小さい子供と(決まってない決まってない(笑))

    うーむ、ホラーなのか、これ?(^^;)

    本人は思索的なファンタジーを書いたつもりだったんだけど(^^;)

    NoTitle

    てっきり、おばあさんが→男の子を連れて行ったのだとばかり思っていました|ω・`)
    むぅ、上手いです、お見事!

    これが、おばあさんの、先ごろ亡くなった旦那さんの子供の頃の姿だった(二人は幼馴染だった)、とかいう設定だったら、
    「水先案内人め、イキなことしやがって!www」とか言いたいところですwww

    どことなく優しさの漂うホラー(?)でした。
    素敵でした(*´ω`*)

    Re: limeさん

    マックですか?(←いくらジョークでもマックから離れろ自分(笑))

    Re: 矢端想さん

    最初は公園のベンチを考えていたのですが、今の日本をイメージされて、「死因は熱中症ですね」とかいわれたら、まじめな幻想小説がブラックユーモア小説になってしまうので、冷房の効いた列車内にしました。

    春か秋に書くんだった(^^;)

    男の子を「導くもの」にしたのは、そのくらいのひねりは加えないとミステリの神様に怒られてしまうからであります。(笑)

    ちなみにわたしは頑迷なスピノチストであります。なんちゃってスピノチストではありますが。

    Re: √†そのちー†Σさん

    エドさんはこれまでも何度も不思議すぎる怪奇現象に遭遇しております。そういう役なもんで(笑)。

    まあ、人間がこれまでいろいろと考えてきたことを再構成し、自分だったらそれらの問いにどう答えるかをまとめてみたのですが……ううむ。ここまで達観したいものです。

    NoTitle

    ぞぞっとしましたが、なんだかとても心おだやかになる、良いお話でした。

    私も「銀河鉄道の夜」を思い出してしまいましたよ。

    死にゆく前に、そんな列車に乗れたら、幸せですね。

    そうですね。水先案内人には、幼い少年よりも、もうちょっと成長した青年がいいな・・・。(u_u*)ポッ

    NoTitle

    オレのなんと鈍かったことよ・・・。

    「別なところに行こうよ」・・・ここで初めて「あっ、『銀河鉄道の夜』だっ!」と思いました。(少し違うか)
    でもてっきり連れられて行ったのが男の子の方だとばかり・・・そうか、そうですよね・・・。やっぱり鈍かった。

    僕は死ぬこと自体はコワくないけど、その時の苦痛だけがコワいです。楽にしねることが、人生最後で最大の望みです。・・・みんなそうですよね。

    NoTitle

    エドさん不思議すぎる怪奇現象に遭遇しましたな(´・ω・`)

    死ぬとどうなるかっていうのはもはや想像の世界ですけど、無の世界だと思いますけどね。
    • #4899 √†そのちー†Σ 
    • URL 
    • 2011.08/16 23:31 
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