FC2ブログ

    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:39 肩書き

     ←エドさん探偵物語:38 ある日の車窓 →エドさん探偵物語:40 考える人
    肩書き

     詐欺事件をひとつ解決して、探偵事務所に帰ってきたエドさんは、椅子に腰かけると、やれやれ、と息をつきました。

    「どうして詐欺事件の犯人っていうのは、あんなに仰々しい肩書きをつけたがるんだろうなあ。それにそのままそっくり騙されてしまうほうも騙されてしまうほうだけど」

     机の引き出しから、ウイスキーの瓶を引っ張り出したエドさんが、手になじんだグラスに一杯注ごうとしたときです。

     扉がノックされました。

    「開いてますよ」

     エドさんは、グラスとウイスキーをまた机の引き出しの奥に戻し、来訪者を迎えることにしました。

     扉が開き、そこから……。

     「誰か」が入ってきました。

     エドさんは、その人物が、誰だ、とはわかりませんでしたが、その顔に見覚えはありました。

    「えーと、あなたは?」

    「言葉に気をつけたまえ。わたしはこれでも、貴族であり学者であり軍人なのだからな」

     エドさんは、必死で名前を思い出そうとしました。しかし、なかなか出てきません。

    「ははあ、閣下。テレビかなにかでお顔は拝見した覚えがあるのですが、なにせお名前が……」

    「うむ。そのことなのだが」

    「はあ」

    「いったいわたしは誰なのだ?」

     真顔で語る相手に、エドさんは、おっとっと、と椅子からずり落ちそうになりました。

    「あの……閣下、えー、今……なんと?」

     相手は真面目にいいました。

    「だから、わたしは誰だと聞いておるのだ。探偵なら、知っているだろうと思ってな」

    「あいにくと高貴なご身分のかたといえば……人間ではストークス卿くらいしか知り合いがありません」

     エドさんは汗を拭きながら、この人はなにをいっているんだろうと思いました。

    「だいたい、閣下ほどの方なら、紳士録を見れば名前がわかるでしょう」

    「紳士録だが」

     相手は、途方にくれた顔をしました。

    「わたしの持つ肩書きが多すぎて、どこをどこから探せばいいのかわからんのだ。それに、最近では、プライバシーだとかなんだとかで、写真を載せていない貴族も多いのだ」

     エドさんはうなりました。

    「ご自分にわからないのでしたら、どうしてわたしが知っているんですか」

    「わたしの第六感が、優秀なる探偵ならば、人の素性を知ることなど掌中の卵を割ることよりもたやすく成し遂げるといっているのだ。だから、頼む。わたしの名前を見つけ出してくれたら、この小切手に望むだけの数字を書こうではないか」

     エドさんは、この難題に頭を抱えました。しかし、逃してしまうにはあまりに惜しい依頼です。

    「わかりました。微力ですがお力になりましょう。まず、あなたの貴族としての肩書きをお聞かせ願えませんか」

    「よかろう。まず、わたしはバーリントン子爵であり……」

    「バーリントンは男爵領です。それ以前に、男爵家はもう絶えました。復活したという話は聞いていません。今では外資の石油資本の土地になってます」

    「失礼した。あまりに数が多すぎるので混乱したようだ。正確にはわたしはトレミング伯爵……」

    「そんな貴族なんかいませんよ。ふざけているんですか」

     その後も相手は次々と肩書きを並べましたが、エドさんはそのひとつひとつを否定していきました。学者としての肩書きも、軍人としての肩書きもそうでした。

     エドさんは、頭を抱えました。

    「あなたの肩書きって、嘘ばかりじゃないですか。いったいあなたは、誰なんです」

    「わからん……わからんのだ……誰だ……誰……わたしは誰……」

     つぶやく声が小さくなっていくのと同時に、男の身体も透明になっていき、やがて、消えてしまいました。残されたのは、男が着ていた服だけでした。調べてみると、きらびやかに見えた服は二束三文の安物でした。

    「わかった……この人は、詐欺師が使っていた無数の肩書きに籠もった人間の魂や精神が、形を取ったものだったんだ……」

     エドさんは呆然としてつぶやきました。

     それからというもの、エドさんは、詐欺師には気をつけるようになりました。顔や物腰だけで、実体のないものを信じ込むところだったからです。油断も隙もありゃしない!


    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【エドさん探偵物語:38 ある日の車窓】へ  【エドさん探偵物語:40 考える人】へ

    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    アメリカでプレスリーや、その他スターたちの「そっくりさん」として歌を歌ったりショーをしたりする人の中には、仕事をしているうちに自分と本物との区別がつかなくなってくる精神病の症例が多数報告されているそうです。

    詐欺師にしても、よほど精神力が強くないと、仮面を真実と思いたくなるのではないでしょうか。仮面のほうが居心地がいいでしょうから……。

    NoTitle

    そんな人たちも、演じているうちに何かを失っているのかもしれませんね。気付かないうちに失くしてしまった大切なものを探してもらいにやって来たのかもしれないですね。

    Re: YUKAさん

    うろ覚えですけど浅田次郎先生の本にこういう記述が。

    「仕掛けはシンプルなほどひっかかりやすく、ウソはでかいほどバレにくい」

    そうだよなあ、と思うことがあります。


    ミステリ界でいちばん大ウソな経歴をぶちあげたのは「グリーン家殺人事件」などで有名なS・S・ヴァン=ダインだろうなあ。

    こんにちは^^

    そうなんですよね~~
    何で詐欺師のかた書きって、ビックリするようなものがつくのでしょう(笑)
    あまりに非現実的で、かえってまさか嘘だと思わないのでしょうか?^^;;

    奇妙ではありますが、こんな思念が本当にありそうです^^;

    Re: 有村司さん

    詐欺師の「ウソ」の上澄みだけを掬い取って純粋培養したような存在ですから……某アニメのヒロインみたいに『概念』になっちまったとか(笑)。

    詐欺師も詐欺師でたいへんな商売だろうと思います。四六時中演技してなくてはならないし、警察に見つかれば逮捕ですし……。

    おはようございます!

    某「有〇川事件」を思い出しました(笑)
    詐欺(嘘をつく)コツは、嘘に事実を混ぜること、何よりも本人が、それを本当だと思い込むこと、だと言いますから、この「詐欺師のカタマリ」も、こんがらがっちゃったんでしょうねえ…。

    Re: ぴゆうさん

    最近は「電話だけ」でもやってきますからねえ。

    なんとかしてほしいものですとほほほ。

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    NoTitle

    危うく騙される所だった。
    クワバラクワバラ・・・

    Re: ねみさん

    ヒトラーと某都知事は、死んでも、「自分が誰か」なんて疑問は抱かないでしょうな。幸せなかたがたであります。とほほ。

    Re: 面白半分さん

    いわゆる「奇妙な話」を書きたくてやってみました。

    社会風刺がからむとちょっと話が難しくなってしまいますね(^^;)

    NoTitle

    ヒトラーじゃなくてよかった・・・。

    NoTitle

    わたしやあなたのまわりにも
    こんな「誰か」いませんか、と
    問いかけたくなってしまうような
    ちょっといいお話ですね。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【エドさん探偵物語:38 ある日の車窓】へ
    • 【エドさん探偵物語:40 考える人】へ