「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)
エドさん探偵物語:41 語りの石
語りの石
その夜、小さな町で私立探偵業を営むエドさんは、借りているアパートの一室で、ぐっすりと眠っていました。今日も依頼をひとつ果たし、疲れきっていたのです。
「起きんか」
いきなり、エドさんは何者かに鼻をつままれました。はっと飛び起きたエドさんの前に立っていたのは、時代錯誤もいいところのローブを着て、杖を持った老人でした。
「目は覚めたようだな」
「あ、あなたはいったい……」
「わしのことはどうでもいい。そんなことより、早く『語りの石』をわしに返さんかい」
「『語りの石』ですって?」
エドさんは首をひねりましたが、さっぱり覚えがありません。
「なんのことだか、まったく……」
エドさんがすまなそうに答えると、相手の老人はかんかんに怒り出しました。
「なに。わからんじゃと。しらをきりおって。わしにはわかっておるんじゃ。お前が、わしの家に伝わる魔法の宝石、『語りの石』をもっていることはな」
「だって、ほんとうに、聞いたことがないんですよ」
エドさんは困惑する一方でした。
「そもそも、どうして、あなたはわたしがその石を持っていると思ったんですか」
「お前、猫と話したことがあるじゃろう?」
「え、ええ、ありますが」
「おもちゃの戦車とは。鳩とは」
「話したことがあります……」
エドさんの声は、だんだん小さくなっていきました。
「そうら見ろ。動物植物無生物、どんなものとでも話ができる『語りの石』がなければ、普通の人間に、そんな真似ができるわけがない。さあ、早く、千年前になくなった、『語りの石』を返すんじゃ!」
「そんなこといわれたって。たしかに、動物や鳥と話した覚えはありますが、そんな石、見たこともありませんよ。だいたい、その石って、どんな形をしていて、どのくらいの大きさのものなんですか!」
老人はちょっと首をひねりました。
「それがわかれば、お前なんかを起こさんでも、わしが勝手に持っていくわい。なにしろ、紛失したのに気づいたのが千年前じゃから、それよりもっと前かもしれん。二千年前か、三千年前か、それとも一万年前か……とにかく昔のことで、形など忘れたわ」
「あきれた話だなあ。ご自分の管理不行き届きじゃないですか」
「口答えをするでない!」
老人は手を変な形に組み合わせ動かしながら、何語とも知れぬ言葉でうなりだしました。なにかの呪文でしょうか。エドさんは、身を硬くしていました。
老人の顔が、困惑の色に染まりました。
「うむ。魔力の波動はないな」
「でしょう?」
「少なくとも、この部屋の、がらくたには隠されていないことがわかった。あと調べていないのは……お前じゃな」
エドさんはたまげました。
「わたしは隠してなんかいませんったら!」
「ええい、うるさい。わしのように何万年も修行を積んだ魔術師か、身を謹んで生きる賢者か、それとも底抜けの善人ででもないと、『語りの石』なしで動物や無生物と話せるものか。さあ、さっさとこっちへ来い!」
「嫌ですよ!」
ふたりは狭苦しい部屋の中で、追いかけっこをしましたが、相手は老人のくせにどんな力があったものか、エドさんを取り押さえると、心臓めがけて右手をずぶりと……。
その衝撃に目をつぶったエドさんが、おそるおそる目を開けると、魔術師は自分の手を唖然として眺めていました。
「ない。心臓にあると思ったのじゃが。あったのはお前の心だけじゃ」
「当たり前でしょう」
エドさんは、ずぶりとやられたはずなのに傷ひとつない自分の胸を、不思議そうに撫で回していました。
「すまぬ。お前が動物と話せるのは、『語りの石』の力ではなかった。お前の底抜けの善良さが、そうさせるのじゃ」
「ほんとうですか?」
「賢者という面ではないからのう」
魔術師はそういうと、立ち上がりました。
「ううむ、また世界中を探さねば。それから、さっき心のかけらに触れたが、お前、自分の心にはもっと正直になったほうがいいぞ」
「え、それってどういう……」
なにごとかと聞き返す暇もなく、魔術師は窓から飛び去ってしまいました。残されたのは、難しい顔をしたエドさんだけでした。
その夜、小さな町で私立探偵業を営むエドさんは、借りているアパートの一室で、ぐっすりと眠っていました。今日も依頼をひとつ果たし、疲れきっていたのです。
「起きんか」
いきなり、エドさんは何者かに鼻をつままれました。はっと飛び起きたエドさんの前に立っていたのは、時代錯誤もいいところのローブを着て、杖を持った老人でした。
「目は覚めたようだな」
「あ、あなたはいったい……」
「わしのことはどうでもいい。そんなことより、早く『語りの石』をわしに返さんかい」
「『語りの石』ですって?」
エドさんは首をひねりましたが、さっぱり覚えがありません。
「なんのことだか、まったく……」
エドさんがすまなそうに答えると、相手の老人はかんかんに怒り出しました。
「なに。わからんじゃと。しらをきりおって。わしにはわかっておるんじゃ。お前が、わしの家に伝わる魔法の宝石、『語りの石』をもっていることはな」
「だって、ほんとうに、聞いたことがないんですよ」
エドさんは困惑する一方でした。
「そもそも、どうして、あなたはわたしがその石を持っていると思ったんですか」
「お前、猫と話したことがあるじゃろう?」
「え、ええ、ありますが」
「おもちゃの戦車とは。鳩とは」
「話したことがあります……」
エドさんの声は、だんだん小さくなっていきました。
「そうら見ろ。動物植物無生物、どんなものとでも話ができる『語りの石』がなければ、普通の人間に、そんな真似ができるわけがない。さあ、早く、千年前になくなった、『語りの石』を返すんじゃ!」
「そんなこといわれたって。たしかに、動物や鳥と話した覚えはありますが、そんな石、見たこともありませんよ。だいたい、その石って、どんな形をしていて、どのくらいの大きさのものなんですか!」
老人はちょっと首をひねりました。
「それがわかれば、お前なんかを起こさんでも、わしが勝手に持っていくわい。なにしろ、紛失したのに気づいたのが千年前じゃから、それよりもっと前かもしれん。二千年前か、三千年前か、それとも一万年前か……とにかく昔のことで、形など忘れたわ」
「あきれた話だなあ。ご自分の管理不行き届きじゃないですか」
「口答えをするでない!」
老人は手を変な形に組み合わせ動かしながら、何語とも知れぬ言葉でうなりだしました。なにかの呪文でしょうか。エドさんは、身を硬くしていました。
老人の顔が、困惑の色に染まりました。
「うむ。魔力の波動はないな」
「でしょう?」
「少なくとも、この部屋の、がらくたには隠されていないことがわかった。あと調べていないのは……お前じゃな」
エドさんはたまげました。
「わたしは隠してなんかいませんったら!」
「ええい、うるさい。わしのように何万年も修行を積んだ魔術師か、身を謹んで生きる賢者か、それとも底抜けの善人ででもないと、『語りの石』なしで動物や無生物と話せるものか。さあ、さっさとこっちへ来い!」
「嫌ですよ!」
ふたりは狭苦しい部屋の中で、追いかけっこをしましたが、相手は老人のくせにどんな力があったものか、エドさんを取り押さえると、心臓めがけて右手をずぶりと……。
その衝撃に目をつぶったエドさんが、おそるおそる目を開けると、魔術師は自分の手を唖然として眺めていました。
「ない。心臓にあると思ったのじゃが。あったのはお前の心だけじゃ」
「当たり前でしょう」
エドさんは、ずぶりとやられたはずなのに傷ひとつない自分の胸を、不思議そうに撫で回していました。
「すまぬ。お前が動物と話せるのは、『語りの石』の力ではなかった。お前の底抜けの善良さが、そうさせるのじゃ」
「ほんとうですか?」
「賢者という面ではないからのう」
魔術師はそういうと、立ち上がりました。
「ううむ、また世界中を探さねば。それから、さっき心のかけらに触れたが、お前、自分の心にはもっと正直になったほうがいいぞ」
「え、それってどういう……」
なにごとかと聞き返す暇もなく、魔術師は窓から飛び去ってしまいました。残されたのは、難しい顔をしたエドさんだけでした。
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Re: 有村司さん
それについてはおいおい明らかに(ほんとか?)
さあて、どうなることやら(^^)
最終話まで読んでからこの回を読み返すと、また新たな発見が……?(ほんとかなあ(^^;))
さあて、どうなることやら(^^)
最終話まで読んでからこの回を読み返すと、また新たな発見が……?(ほんとかなあ(^^;))
一瞬…
おはようございます!
一瞬「あれ?今回が最終回?」と思ってしまいました。
でも、これは重要なフラグですね。
しかし、エドさんが「正直になる」ってどういう意味でしょう?充分正直で善良だと思うのですが…。
んん?栗色の髪の女性とのことかな?
うーん…(悩)
一瞬「あれ?今回が最終回?」と思ってしまいました。
でも、これは重要なフラグですね。
しかし、エドさんが「正直になる」ってどういう意味でしょう?充分正直で善良だと思うのですが…。
んん?栗色の髪の女性とのことかな?
うーん…(悩)
- #5844 有村司
- URL
- 2011.11/20 08:58
- ▲EntryTop
Re: limeさん
エドさんは女たらしではありません。
というより、そんな男が書けたら書いてます(おい)
「ソー・ザップ」、limeさんには途中までは面白いと思います。
読み終えたときに感謝されるか文句いわれるかが楽しみであります(笑)
というより、そんな男が書けたら書いてます(おい)
「ソー・ザップ」、limeさんには途中までは面白いと思います。
読み終えたときに感謝されるか文句いわれるかが楽しみであります(笑)
NoTitle
実は、持っているのはマツゴロウさんだったり・・・。
(TAMAさんに怒られるw)
そうか、エドさんは、素直じゃないんですね?
実は女たらしだったとか(パート2)
「ソー・ザップ」、面白いですね。まだ最初の方です。
ハヤ意外、みんな屈強なのがちょっとアレですが^^
(TAMAさんに怒られるw)
そうか、エドさんは、素直じゃないんですね?
実は女たらしだったとか(パート2)
「ソー・ザップ」、面白いですね。まだ最初の方です。
ハヤ意外、みんな屈強なのがちょっとアレですが^^
Re: ぴゆうさん
あれだけ猫や狸の言葉がわかるぴゆうさんが持っていたのではなかったのですか!? Σ(゜□゜ガーン
ということは、誰だ持っているのは。「マントヒヒ村上」のTAMAさんかなあ。あれだけ動物の言葉がわかるんだからなあ。でもあの人は、たぶん賢者だからわかるんだろうと思うけど。
どこかで誰かが使ってるの見つけたら欠片ください。
ということは、誰だ持っているのは。「マントヒヒ村上」のTAMAさんかなあ。あれだけ動物の言葉がわかるんだからなあ。でもあの人は、たぶん賢者だからわかるんだろうと思うけど。
どこかで誰かが使ってるの見つけたら欠片ください。
Re: ミズマ。さん
布石です(笑)。
コンテストでもあることですし、きれいに終わりたいじゃないですか(^^)
問題はそこまでネタが続くかどうかですな。
コンテストでもあることですし、きれいに終わりたいじゃないですか(^^)
問題はそこまでネタが続くかどうかですな。
老人の最後の言葉はなんですかね?
最終話(50話?)へ向けての布石か?
それとも「迷惑な依頼人には『迷惑です!』と言った方が良いぞい」ということか?
……エドさんが「迷惑です!」って言っても聞き入れてくれるような依頼人はまず、エドさんとこには来ない気がしますが^^;
最終話(50話?)へ向けての布石か?
それとも「迷惑な依頼人には『迷惑です!』と言った方が良いぞい」ということか?
……エドさんが「迷惑です!」って言っても聞き入れてくれるような依頼人はまず、エドさんとこには来ない気がしますが^^;
- #4926 ミズマ。
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- 2011.08/19 08:01
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Re: YUKAさん
ふっふっふっ(^^)