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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:45 魔術師の目

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    魔術師の目



    「ご依頼の件については、なにもわかりませんでした」

     小さな町で私立探偵を営むエドさんには、そう報告するのは何よりもつらいことでした。エドさんもエドさんなりに、探偵としてのプライドというものがあるのです。

    「そうだろう……煙草はあるかね?」

     エドさんが首を振ると、相手はライターをポケットに戻しました。

    「そうだろうって……」

    「もとより、君に足取りをつかまれるような相手だったら、わしは落胆していただろうな。ああ、インチキだったのか、と」

    「どういうことですか?」

     エドさんは、首をひねりました。

     相手……世界的に有名な奇術師だった老人は、骨ばった両手を組み合わせました。

    「君、老いというものを感じたことはないか?」

    「老い……ですか?」

    「そうだ。わしのこの手を見てくれ。昔は、その気になればアフリカ象でもパーム(手のひらに物を隠すことです)できたものが、今では、自由に動かすことすら難しくなっている。わかるか? 舞台の上で、たかが銅貨一枚をパームすることすらできずに、手のひらからこぼれ落ちてしまった時の屈辱と観衆の失笑を。スライハンドマジック(手先の器用さで行う奇術をこう呼びます)一筋で来たわしには、大道具を使ったイリュージョンに鞍替えする道もない……もっとも、イリュージョンの激しい動きに耐え切れるだけの体力も、もうないがな」

     エドさんは言葉がありませんでした。

    「ついてきたまえ」

     老奇術師はそういうと立ち上がりました。かすかに、背中が曲がっているのにエドさんは気がつきました。



     エドさんと老奇術師は、暗闇の中、小さなアパートの前でタクシーを降りました。

    「ここですか」

     エドさんが階段を上るのに手を貸そうとすると、老奇術師は断りました。

    「いや、いいんだ」

     そのまま、きしむ階段を一段一段踏みしめるように、二人は進んでいきました。エドさんは、階段の段が十三段あることに気がつきました。

    「いやなアパートだなあ……」

     奇術師は、その二階のとある部屋をノックすると、返事を待たずに、扉を押し開けて中に入りました。

     机の奥にいたのは、エドさんには忘れられない顔でした。

    「あっ! 地獄の国税局……!」

    「兄をご存知ですか。会ったらいっといてください。税金をもっと安くしろって」

    「知り合いなのか?」

     その問いに、悪魔は笑って答えました。

    「知り合いの知り合いですな。さて、お約束の件ですけど」

    「『魔術師の目』をくれ。この世のものはなんでも透視できる、『魔術師の目』を!」

     エドさんは奇術師の肩をつかむと、強い口調でいいました。

    「こんなやつと、取り引きしてはいけません。なにをされるかわかりません」

     悪魔は、また笑いました。

    「われわれは、嘘もつかなければ、いんちきもしませんよ。あなたは、契約どおりのものを手に入れるのです。この世にある万物を、通して見られる『魔術師の目』をね」

    「契約書はここにこうして持ってきた……」

     エドさんは、老奇術師がふところから取り出した、羊皮紙二枚を取り上げましたが、悪魔はにっこり笑うといいました。

    「書面は、すべてできていますな。立会人、なにかいうことは?」

    「この契約は無効だ!」

    「いいんだよ、エドくん。この、『魔術師の目』さえあれば、わしは透視術師として再び舞台に立ち、喝采を浴びることができる……」

     いったいどこに罠が……エドさんは必死で考え、恐ろしい結論に至りました。

    「やめてください! 全てのものが透視できるということは……『見える』ものが、なにひとつとしてなくなるということですよ!」

    「なんだと!」

     エドさんは、奇術師のポケットからライターをひったくると、羊皮紙に火をつけました。羊皮紙は燃え上がり、あっという間に灰になりました。それを見た悪魔は、大声でげらげらと嘲るように笑い出しました。

     エドさんと奇術師がはっと気がつくと、ふたりはごみごみした通りの行き止まりに立ち尽くしていました。ぽつりぽつりと降り出した雨が、やがて土砂降りへと変わりました。


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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    もしかしたらこれが、このシリーズ中もっともハードボイルドな作品かもしれません。

    エドさんにとってはこれがダメ押し的な転機になったという話は……まあ裏設定として(^^;)

    わぉ!
    奇術師さん、救われたのか救われなかったのか
    難しいところですね。。。

    私としてはとても面白かったです。

    でもそうか、「羊皮紙」は燃えないんですね。。
    それも勉強になりました^^

    Re: 有村司さん

    え? と思って調べました。

    http://www.youhishi.com/study.html

    手塚治虫ウソついていません。

    ……不覚!!(汗)

    すごい…!

    エドさん賢い!!

    そもそも知性派探偵のエドさんですが、ここへきてグン!と株が上がったように見えます。

    ところで、漫画で得た知識なのですが「羊皮紙」は燃えない(だからこそ昔の契約書には用いられた)…というのを子供心に憶えていたのですが、あれは嘘?というより「燃えにくい」程度の事だったのかしら…?

    手塚治虫に騙された!!

    Re: limeさん

    それは読む人のお考えひとつということで。

    このシリーズ、なにが飛び出してくるかわからないのは、

    作者もネタに詰まってぎりぎりのところで脳細胞に鞭打って書いているからです(^^;)

    自分をぎりぎりに追い詰めないと書けないタイプらしいですわたし(^^;)

    そうかわたしが長いこと小説を書けなかったのは、「毎日の締め切り」というのが長いこと存在しなかったからか!(^^;) ブログを開いてよかったなあ!(笑)

    典型的な過労のパターン……(^^;) 今は「趣味」程度で済んでいるけど……(^^;)

    ミッキーロークって考えてみると悲惨な役が多いような(笑)

    NoTitle

    危機一髪、この奇術師は救われた・・・と解釈したんですが、どうでしょう。
    いままでと少し違った危機感がいいですね。
    この一つ前の、砂時計もすごく良かったですが。
    エドさんは、何が飛び出してくるかわかりませんね。

    私もエンゼルハートは好きでした。原作は読んでいないんですが。
    あの、落ちていくミッキーロークが堪らなく・・・。
    救いのない物語は、間違わなければとてつもなく魅惑的です。

    Re: 蘭さん

    作者としてはものすごく自信がない作品だったので、そうお褒めになられるとちと赤面してしまいます(^^;)

    「エンジェルハート」は、原作のヒョーツバーグの「堕ちる天使」を読みましたが面白かったなあ。

    透視について説明不足だったかもしれませんね。もし、この世に存在する全ての物体、太陽も地球もなにもかもがすべて無色透明だったら、「見える」ものはなにもないだろう、という理屈です。「そのものの後ろが見えない」から「見える」わけですから。

    これはクラークだったかガードナーだったかの科学解説本で、「透明人間は原理的に目が見えない」という記述があったということを又聞きしてそれを逆にしてみたものですが、うーん、読んでるとして、読者ターゲットの小学生には難しい話だったかなあ(^^;)

    ラストで奇術師の目がどうなったかについてはあいまいなままにしておきます。これもまた一種のリドルストーリー?(^^;)

    こんにちは^^

    うわ! このお話、めっちゃ面白かったです!
    「ディアボロス」とか「エンジェルハート」とか思い出してしまった・・・・・・


    以前読んだ漫画で、悪魔と契約してベテラン歌手から「声」を奪って成功した新人歌手が、同じく駆け出しの歌手から全てを奪われ絶命する・・・・という内容の物があったんですが、要するにその駆け出しに手を貸すのも、同じ悪魔。
    悪魔との契約は必ずどこか落とし穴があるって事なんですよね。

    ひゃ~、凄く楽しめましたv-290

    Re: 黄輪さん

    初稿ではもっと救われない展開だったのですが、さすがにこのシリーズでそれはまずかろう、と(汗)

    ちとがんばりすぎて息切れしたみたいです(汗汗)

    悪魔の罠には気をつけましょう(^^)

    NoTitle

    おお……、何と言う救われない展開。
    このシリーズには珍しいですね。
    しかし悪魔と言うのはやっぱり、何かしらの罠を仕掛けてくるのが前提なんですね。
    危ない危ない。
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