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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:46 クリップ

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    クリップ



    「人の写真を探して欲しいんです」

    「写真を?」

     エドさんは驚いて聞き返しました。エドさんの探偵事務所を訪れていたそのシャープ氏という紳士は、うなずきました。

    「どなたのですか?」

    「わからないんです。顔も何も覚えていない。覚えている手がかりは、ベッツィーという名前だけです……わたしは、その写真を、いつ、どこでなくしたのかも記憶にない……」

     シャープ氏は頭を抱えました。そのとき、ワイシャツの胸ポケットに、なにか光るものをエドさんは見つけました。

    「失礼ですが、胸につけているそれは?」

     紳士は、頭を上げました。

    「ああ、これですか。心のクリップですよ。持っていると、いろいろと、役に立つんです。もっとも、写真を探すのには、役に立ちませんけどね。これがなにか?」

     エドさんは「心のクリップ」とはなんだろうと思いましたが、仕事を優先させました。

    「いえ。単なる好奇心です。では、行きましょうか」

    「行く、とは?」

    「あなたの家です。わたしの経験では、なくしたものは、たいていは家やオフィスをよく探すと出てくるものなんです。なくした写真のたいていは、価値がわからない家族や家政婦に、古新聞古雑誌といっしょに火葬にされてしまうものですからね。ひとつまみの灰にされてしまう前に、行きましょう。車中で、そのベッツィーさんがあなたにとってどれだけ重要な人だったかを教えてください」

    「それがわからないんです……ただ、早く見つけろ、という内なる声がするだけで。見つけないと手遅れになるんですが、なにが手遅れになるかもわからない……」



     シャープ氏のお屋敷へ行く途中、赤信号でエドさんは車を止めました。窓の外では、募金箱を持った少年少女が、孤児院に寄付を、と声を張り上げています。

    「最近の景気の低迷ぶりはひどいですからな。慈善事業は皆、いつ潰れるものやら」

     シャープ氏は、少年たちを見ていいました。

    「ご寄付でも?」

    「経営している事業が難しい局面でして、とても寄付など。あなたに依頼したのも……」

    「安上がりだからですか。安物買いの銭失いって言葉はご存知ですか?」

    「謙遜しなくても。ストークス卿から聞きましたよ。信頼できる腕利きの探偵だと」

    「ならばいいんですがね」

    「間違いはないですよ……ああ、そこです」

     エドさんはちょっとしたお屋敷の前で車を停めました。



     結論から言うと、エドさんにとっては朝飯前の仕事でした。家政婦の部屋で、壁のホワイトボードに磁石で乱雑に貼られたレシートやら葉書やら、なんだかよくわからないけれどとりあえず保存しておこう、と思ったらしい紙切れの中に、裏に「ベッツィー」と、ペン字で書かれたセピア色の写真を見つけるまで、十分もかかりませんでした。

    「見つからなかったのは、家政婦が休暇中だったからか。しかしなんて速い仕事だ」

    「わたしはこれでも探偵ですからね。で、その写真を、どうされるのですか?」

     シャープ氏は、ワイシャツの胸につけていた、書類挟み用のクリップを開いて、胸ポケットに写真を挟みました。

    「ここに、こうして挟むと……」

     エドさんは息を飲みました。まるで溶けるように、写真はその形をなくし、シャープ氏の胸にすうっとしみ込んでいったのです。

    「思い出した……思い出した! エリザベス・バーナム。わたしが幼いころ、よく遊んでもらった女の子だ! たしかわたしが小学校に上がるころに両親をなくし、どこかの孤児院へ預けられていったはずだが……」

     自室へ戻り、壁の棚から紳士録を取り出して眺めたシャープ氏は、きっとした顔でエドさんを見ました。

    「もうひとつ頼みごとができますか」

    「なにをですか?」

    「あの、寄付を求めていた孤児院に行きたいのです。そこのバーナム院長に会って、寄付の相談をしなくてはいけませんからね」

     シャープ氏は、メモ用紙に「バーナム孤児院。寄付」と書くと、再びクリップに挟み、胸の中に溶けていくに任せました。

    「便利ですね、そのクリップ」

    「ええ、心のクリップです。便利なんですが……わたしは頼りすぎていたようです。挟んだものを落とすとこの有様ですからね」

    「誰でも同じですよ。だから人間、想い出は大事に記憶に刻まなくちゃいけないんです」


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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    まったくですね。

    と、最近妙に忘れっぽくなったわたしがいっても説得力がないか(^^;)

    きょうもスーパーでコンニャクを買い忘れ。

    大事なことは心に刻んでおきたい

    Re: YUKAさん

    エドさんを愛していただいてありがとうございます。今年もよろしくお願いします~、と書くまでにこれだけの時間がかかってしまった。恐るべき正月(笑)

    あけましておめでとうございます^^

    新年一回目のいいお話しでした^^

    今年も色んな事を心に刻んでいこうと

    そんなことを想った次第です^^

    エドさん物語はいいですね~^^

    コミケ、お疲れさまでした^^

    Re: 有村司さん

    確かに怖いところもありますね。

    思い出さないほうがいい記憶まで思い出してしまったらそれこそ悲劇です。

    でもトータルで見ればそれでもこのクリップで受け取れる幸福のほうが多いのでは、とも思いますが。

    ちなみに「その他いろいろ」に入っている水戸旅行記では、活弁士および伴奏つきで無声映画を見た時の楽しかった体験が書いてあったりします。

    いやほんとに面白いんだよ日本の無声映画も。

    無声映画

    こんばんは!

    チャップリンの無声映画みたいなお話だなあと思いました。

    このクリップがあれば、自分のなくした二年間の記憶も取り戻せるかなあ…なんて思ったり…でも反面怖いような気もします。

    Re: ぴゆうさん

    クリップに頼るよりは、わたしは人間の記憶のほうをまだ信じたいですね。

    そっちのほうがまだ精神衛生にいいと思うので。

    NoTitle

    いい話。
    記憶って曖昧だけど、忘れていなかったりする。
    ふと思い出して懐かしくなったり、腹を立てたり。
    自分だけの図書館かもね。

    Re: limeさん

    ちょっと待て! クリップで長編小説を一ページ一ページ挟んで「読んで」いくのは普通に読むよりもかなりの手間のような気が(^^;)

    それに、クリップで挟むのって、普通はメモ帳くらいの大きさの紙ではないかなあ、と……(^^;)

    せいぜい読めて文庫本の短編程度? それ以上は指が痛くなる(笑)

    NoTitle

    携帯も同じですね。
    失くしてしまうと、一生連絡を取れない人が沢山・・・。

    ちゃんと頭に刻めない記憶って厄介ですよね。

    このクリップを使うと、読んでない長編小説も、すぐに心に入って来るんでしょうか。それは・・・ほしい!

    Re: ミズマ。さん

    だからかえって、いざなくすとたいへん。

    わたしなんざ、昔使っていたワープロ(そのころPCを持ってなかったのだ)のディスクに入れておいた住所録が読み取り不能ですべてパーになったときは背筋に脂汗が……(^^;)

    こまめにバックアップは取りましょう。おお教訓話(笑)

    便利だなぁ。

    人間は文字を発明するまえと後では、その記憶力に大きな違いがあるとかないとか。

    いやしかし、便利だなぁ、そのクリップ。
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