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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:49 決断の日

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    決断の日



     私立探偵のエドさんは、老いた両親の住む家から帰ってきました。自動車を運転するその服のポケットには、ごく小さな箱が、ひとつ入っていました。

     エドさんは、自動車を運転しながら、何回も同じ言葉を反芻するようにぶつぶつと呟いていました。

    『十年前に亡くなった、お祖母ちゃんの形見なんだ。どうか君に、君に受け取ってほしいんだ。君に受け取ってもらえたら、わたしはこれ以上嬉しいことはないんだ』

     なんとなく、印象というか、説得力の面で力がないような気がします。エドさんはハンドルを握りながら、何度も、何度も言い換えたり、言葉を前後させたり、あるいはそうすることで霊感がひらめくとでも思うかのようにハンドルを握る手に力をこめてみたりしました。結局、エドさんの頭に詩神が舞い降りることはなく、エドさんは、当初の方針通りに行くことにしました。

     頭にあるのは、ここぞというときにいつもエドさんのそばにいてくれる、あの栗色の髪の女性芸術家のことばかりでした。この間、キューピッドが訪ねてきて矢を検分したとき、うっかり金のやじりで指でも刺してしまったのでしょうか、エドさんは……まあこれ以上説明するのは野暮というものでしょう。

     近いうちに、彼女をボリスの店かどこかに呼んで、この箱の中身……指輪を渡したいと思うエドさんでした。

     とある高級ホテルの四つ角で、エドさんは車を停めました。すでに午後になっています。車に、クーラーなどというものはついていなかったので、エドさんは喉の渇きを覚えました。そして……エドさんは、見てしまったのです。ホテルの駐車場から、同業の探偵である、マイケル・マイルズと、あの女性芸術家が、笑いながら出てくるのを。ふたりが高級ホテルに入っていくのを。

     そういえば、前に、催眠術師を罠にはめるときに、ふたりはエドさんを欺いて囮にしたのではなかったでしょうか。そしてそのとき、ふたりの間に絆が……。

     エドさんの目に涙があふれてきました。エドさんは、自分の事務所に車を向けました。



     いつもに比べてもことさら苦いお酒でした。エドさんはウイスキーをぐいぐい飲みながら、それでも醒めて、冴えてくる頭脳を呪っていました。

    『そもそも、これって、わたしの片思いじゃないのか? あの人が、自分の口から、わたしに対して愛の言葉をささやいてくれたことが一度でもあったか? そもそも、わたしは、あのような、日の出の勢いで売り出し中の美しい芸術家に釣り合う人間なのか? わたしは……』

     ひとりでお酒を飲んでいると、たいていは、陽気になるより、陰気で悲観的なことを考えがちになるものです。エドさんも、例外ではありませんでした。

     アパートへの帰り道、エドさんは、ゴミ捨て場に立ち寄りました。燃えないゴミと書かれたゴミ箱に指輪の箱を……投げ入れようとして思いとどまりました。祖母の形見の品であることは間違いなかったからです。

     エドさんは、とぼとぼと、自分のアパートに帰りました。ドアの鍵を開け……。

     クラッカーが鳴り、電気がぱっと点きました。まばたきするしかないエドさんにたいして、同業の探偵たち数名と、あの目を閉じてもまぶたから離れなかった女性芸術家が、拍手の雨を降らせました。

    「お誕生日おめでとう、エドさん!」

     呆然とするエドさんの手を取って、女流芸術家は、氷入れから抜き出した、よく冷えたシャンパンの瓶を渡しました。

    「高級ホテルで予約してきた、飛び切りの上物よ。エドさん、あなたが開けてくれない? みんな喉がからからなんだから」

    「マ……マイルズは?」

    「ぼくはこっち担当。車に入りきらないかと思ったくらいだよ。バンだけどね」

     並べられた、すばらしいご馳走の山を指差して、マイルズは笑いました。

    「早く食わないとなんだぜ。その前にシャンパンを開けてくれ。まず注ぐのは、発起人である、そちらの栗色の髪のお姫様だ。車の中で、君の話しかしてなかったんだからなあ」

     エドさんは、先ほどとは違う涙を流しながら、シャンパンの栓を抜きました。

     後はもう、狭いアパートの一室でのどんちゃん騒ぎでした。エドさんは、女性芸術家を抱きしめると、小箱を渡していいました。

    「お祖母ちゃんの、お祖母ちゃんの、なんだっけ? とにかく、受け取ってくれないか。受け取ってくれたら、わたしと……その」

     彼女の答えを書き記すのは野暮でしょう。


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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ここらへんは願望充足小説になってますな(笑)

    次回がいちおう、フィナーレですが、おまけもありますので、どうかそちらもごらんください。創作の裏事情が書いてあります。ちょっと手札をさらしすぎたかなあ(^^;)

    NoTitle

    いいロマンスだなあ(*^。^*)
    エドさんのひとり酒のシーンもすごく気持ちが伝わってきました。
    幸せになってね、二人とも。

    Re: YUKAさん

    次回の感動のフィナーレをお楽しみください(^^)

    作者本人が感動なんていうのはまずいか(笑)

    こんばんは♪

    おお!
    エドさん良かった^^
    そうか、やっぱり……言うのは野暮ですね?^^

    Re: 有村司さん

    また読みにいらしてくださいね~♪

    ブログは逃げませんよ~♪

    野暮なワタシ(苦笑)

    あと一時間で大事な用に出かけなければならないのに、続きが気になって、パソコンの前にいる私です。

    そして、こんな素敵なお話なのに、まだ「伏線」をどこかに探す野暮な私です(苦笑)

    あー化粧もまだ済んでない!続きは気になりますが…うう、「後ろ髪を引かれる」とはこの事!

    Re: 矢端想さん

    名づけてスレッガー中尉作戦。

    まあ、「形見の指輪」がないとできないプロポーズですが(^^;)

    NoTitle

    おめでとう!エドさん。幸せ者だな。

    現実にはこんなドラマチックなプロポーズってあんまりない気がしますね。「プロポーズの言葉」も披露宴用に考えた後付けだったりww(歴史の捏造w)
    ようし、僕も次はこういうのにしよう!(←!?)

    Re: ミズマ。さん

    今日はもしかして誰のコメントもないのではと落ち込んでいたから倍うれしいです(^^)

    というか、「エドさん」を書き始めて、目標としていたゴールにあと一歩、というところです。

    子供向け読み物で、あまりにシニカルなのは考え物ですからねえ。

    とりあえず、明日の最終話をお楽しみに。これから、「あとがき」書きます。

    エドさん、良かったですね!


    失恋と見せかけて、実はそんなことはない、と見せかけて実は……とか、どんなどんでん返しが待っているかとヒヤヒヤしていましたけど、ポールさんもそこまで鬼じゃなかった!←失礼。
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