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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    2 闇は千の目をもつ(完結)

    闇は千の目をもつ 1

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     その日わたしは裕福だった。内職でやっているドイツ語の下訳のバイト料が入ったのだった。桐野メンタルヘルス、一名ナイトメア・ハンターなどという怪し気な看板だけでは、現代人がこのうだるように暑い中を生き抜いていくには力不足なのだ。
     それにしても、とわたしは思った。実にくだらない文章だった。まさかこの歳になって、ネオナチのアジビラを何十枚も訳させられるとは思わなかった。脳内が一九四五年で止まった連中が「劣等人種」に世界を任せることの愚を支離滅裂な文章で書き散らしたのとうんざりするほどつき合わされたのだ。鼓膜に穴を開けられて、ドブの下水をそこから柄杓と漏斗で流し込まれたかのようなものである。これが大学時からの友人の紹介でなければ、原稿を叩きつけて断っていたところだった。
     そうしなくてよかった。わたしの懐には、臨時収入のウン万円が入っていたのだから。
     金が入った貧乏人がなにを考えるかなど、昔からまったく変わってはいない。生活費でなかったら食い気かアルコールだ。イスラム教徒みたいな禁酒主義者でないわたしは、うきうきしながら「虎奇亜」に足を運んだ。
     「虎奇亜」は、外から一見したところぱっとしない小さなバーである。中に入ってもぱっとしない小さなバーだ。わたしみたいなぱっとしない貧乏人が入るのには実にふさわしい場所といえよう。
     ガタのきかけた扉を押して中に入った。
     カウンターの中でグラスを拭いていたバーテンダーが、顔を上げた。
     わたしは片手を挙げた。
    「邪魔するよ」
    「いらっしゃいませ。桐野さん」
     バーテンダーはグラスを拭く手を休めてわたしを見た。この年齢不詳の女性バーテンダーは、顔の半分近くを覆うゴーグルみたいなばかでかいミラー・サングラスをかけているので、視線が正確にはどこを向いているのかはよくわからない。
    「なにかついてるかい?」
    「いえ。なに……というわけではありませんけど」
     バーテンダーは言葉をひとつひとつ選んでいるようだった。
    「申し上げにくいのですが。桐野さんは、なにかに取り憑かれかけているのではないかのようにあたしには見えます」
     びっくりした。
    「わたしが?」
     バーテンダーはうなずいた。
    「はい。具体的にどう、というわけでもないのですが、なにか妙な感覚が……」
    「おどかすない」
     わたしは笑った。
    「わたしに取り憑いているのは、貧乏神くらいのものさ」
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    ひえ~、あの四百枚ある「ナイトメア・ハンターの掟」こんなに早く読了しちゃったんですか。早い!

    もしかしたら第一シリーズの第二章以降をすっ飛ばされたのかという予感が(^_^;A

    気のせいだったらいいのですが。けっこう、前作を最後まで読んでいないときついかも、です。

    それはそれとして、桐野くんのユーモア感覚はかなり暗いものがあります。自虐的なんですよ桐野くん(^_^)

    >「わたしに取り憑いているのは、貧乏神くらいのものさ」

    こういうブラックユーモア、結構好きですw

    Re: 有村司さん

    女性バーテンダーさんについては、まだ書いていない第五部でみっちり書こうと思っています。

    だから、今の段階では、まだ「わけありの女性バーテンダーさん」でしかないのであります。

    すぐにでも書きたいけれど書けない事情が……(^^;)

    虎奇亜のバーテンダーさんにも何か能力が…!?ゾクゾクする出だしですね…!

    >神田夏美さん

    王道であります(^^)

    バーテンダーさんにも秘密があって、それは書かれていない5作目で明らかになる……はずなんですけど、書かれるのは早くて7年後……(笑)。
    できるのかわたし(^^;)

    こういう思わせぶりな台詞があった時、ただの気のせいとかではないのはフィクションの王道ですよね(笑)
    桐野さん、何に取り憑かれてしまったのでしょう。気になります。それにしてもバーテンダーさん鋭いですね。
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