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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    紅蓮の街・外伝「彼らなりの詩(うた)」(掌編シリーズ・完結)

    紅蓮の街・外伝/十一番目の男

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    十一番目の男 



     目の前には、岩があった。

     ごつごつした、巨大な岩だ。

     青年の前で、初老の男は、こういった。

    「まっぷたつに割れ」

     それ以来、青年はここに立ち、考え続けていた。

     青年は自分の力に自信を持っていた。その拳は、まだ子供の頃から、喧嘩では負け知らずであり、数多くの力自慢の顎や肋骨を砕いてきたのだが。

    「割れ」

     青年は、この難問に、ただ岩を見つめることしかできなかった。

     もちろん、青年は男に尋ねなかったわけではない。

    「拳で?」

    「決まっておろうが。拳で岩をまっぷたつに割ることができたら戻って来い。全ての話は、それからだ」

     喧嘩においては我を忘れて暴れまわるものの、それを除けば青年は純朴そのものの生活をしてきた。拳を使うのは慣れていても、頭を働かせるのは苦手であった。

     青年は、その拳で岩を殴ってみた。あくまでも軽く。

     本物の岩だった。本気で殴っていたら、拳の骨が砕けていただろう。それを青年は悟っていた。それほど頭を使わなくても、理解することはたやすかった。

     どうしたものか……。

     青年は、岩の前で呆然と立っているしかなかった。

     そもそも、青年がこの、武術の大家といわれる初老の男に入門しに来たのは、親の意向であった。青年は農村の出身だったが、青年の拳とその恵まれた体格は、必ずや『帝国』の兵士として徴兵の対象となるに違いない。

     青年の両親は、息子に出来る限り長生きしてほしかった。そのための武術と体力と、なによりも智恵を身につけることを望んでいたのだった。基本的に善良であった青年は、親のいうことを素直に聞き、野を越え山を越え、来たのであるが。

     青年は岩の前に座り込み、考えた。青年は愚直なまでに愚直だった。日が沈み、日が昇り、日が沈み、また日が昇り、日が沈み、日が昇り……。

     何度目かの日が昇ったとき、青年は悟るものがあり、腹を減らしてふらふらになって、庵の戸を叩いた。

    「なんだ。割れたのか」

     初老の男の問いに、青年は答えた。

    「わかりました」

    「なにがわかった」

    「今の、今のおれには、あの岩は割れないということです」

     初老の男は笑った。

    「それでは、まだ半分だな。まあ、水と粥を食っていけ。普通のやつなら、そこまではたどり着けない。たいていはここで逃げる」

     青年は、男に薦められるまま、水を飲み、粥を食った。腹をすかせきった青年には、水も粥も、甘露であり天上の食物に思えた。

     腹が満ちたところで、初老の男は尋ねた。

    「今なら割れるか?」

     青年は頭を下げた。

    「今のおれには無理だといったはずです。一度そういった以上、ここで故郷へ帰っても文句はありません。父ちゃんや母ちゃんには、おれは先生の教えを受けられるほどの強い人間じゃなかったことがよくわかった、と伝えるつもりです」

     初老の男は腹の底からおかしそうに笑った。

    「そうだ。それでいい。満点だ。久しぶりに満点のやつが来た」

     男は立ち上がり、青年を外へ連れ出し、隅にある掘っ立て小屋を指さした。

    「あそこがお前の寝床になる。今日は身体を休めていろ。明日から、歩き方からしごいてやろう」

    「じゃ、じゃあ、入門を認めてくれるんですか?」

    「嘘はつかんよ」

    「でも……それじゃ、どうやって拳で岩を割るんで?」

    「拳だけであんな巨大な岩をまっぷたつに割ろうとするやつは……」

     男は笑った。

    「おれが教えるまでもない武術の達人か、自分の弱さもわからない、ただの馬鹿さ」

     青年は呆然と男の笑い声を聞いていた。

     ゴグ十五歳の夏であった。



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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ゴグはいいやつですよ(^_^)

    書いてると、「教養がないこと」以外に弱点が思いつかない。

    なにせ基本的に賢明ですし。

    だから生き延びられたんでしょうね。作者は殺す気まんまんだったのですが(笑)

    NoTitle

    ゴグ、いいヤツですね。
    あの冬に死んだ人の分も、彼には幸せに生きてほしいです。

    Re: ぴゆうさん

    ゴグは真面目で純朴で一本気で素朴で素直で、まさに好漢を絵に描いたような男ですよ。

    ちなみにモデルは三国志の許褚(きょちょ)です。

    本来は激しい戦いの末にあの冬に死ぬはずだったのですが、生き残ってガレーリョス家の後見人に。600枚という制限があったこともありますが、情が移って殺せなかった(^^;)

    正面から殴り合ったらガスくんでも力負けするという設定ですから、そこをナミの悪知恵で……という手はずでしたが、調子に乗って陰謀を書いていたらページがなくなったというのもあります。

    900枚だったら計画通りに死んでましたなたぶん。

    NoTitle

    ゴグっていい青年だったのねぇ。
    なんかこれだけで成長物語になりそうな。
    ジャッキー・チェンの映画を思い出した。

    Re: ねみさん

    どちらかといえば漢文よりも夢枕獏先生(^^)

    「キマイラ」シリーズは血湧き肉躍って面白くてえっちで高校生が読むのにぴったりの本ですから、未読でしたら大学合格までおあずけであります(笑)

    NoTitle

    漢文を読んでいたみたいでした。
    漢文と同じくまた考えさせられました。

    史記とかまた読みたくなってきた・・・。

    Re: limeさん

    アイデアの枯渇が怖いから、思いついたアイデアはすぐにショートショートにして発表し、枯渇してから長編化する、という……自分の作った話だからパクリにはならん、というわけで(^^;)

    考えがセコすぎる男でありました(^^;)

    さて、今日はこれからツァイとトイスの物語を考えねばならん。原稿は真っ白。どないしよ(^^;)

    NoTitle

    今回はゴグでしたか。
    断片でありながら一つ一つが、ちゃんとした物語に仕上がっているのがすごいです。
    昔良く見てた、カンフー映画の問答を思い出しました。

    こっから、ゴグの物語が始まってもいい。
    いろんな枝葉があっていいな。
    アイデアの枯渇ってないんでしょうか。ポールさん。
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