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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    紅蓮の街・外伝「彼らなりの詩(うた)」(掌編シリーズ・完結)

    紅蓮の街・外伝/十二番目の男

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    十二番目の男 



     男は引き締まった表情をしていた。表情だけではない。身体つき、視線、そして言葉……全てのものが引き締まっていた。

     男は杯を目の高さまで持ち上げた。

    「悪かったと思っている」

     目の前の女は、すべてを諦めきったもののもつ、どこか気だるげな動きで、自分の持っている杯を一気に干した。

    「しかたないわね。あんたはしょせん、旅の傭兵。そしてあたしは……」

     女がカウンターに杯を置くと、訳知り顔の店長が、樽から酒を酌んだ。柑橘酒だった。

     甘く酸っぱく、そして苦いその酒を、女は愛しげに見つめた。

    「こんな暮らしから逃げるためには、どんなものでも使う酒場女……」

     男も杯を干した。

    「相手はどんなやつなんだ?」

    「話じゃ旅の薬草医だって。その言葉も嘘じゃないわね。あたしの頑固な腰痛は治してくれたし、それに、半年前には、あたしの子供を取り上げてくれたわ」

    「……すまん」

     男もカウンターに杯を置いた。

    「お互い、遊びで済ませるべきだったわね。お互い、本気になったから、こんな苦い結末を迎えることになったのよ」

    「いつ旅立つんだ?」

    「……明日よ。見送りなんかには来ないでね。つらいだけだから」

    「真面目なやつなのか?」

     男の問いに、女は笑った。

    「自分を見ればわかるでしょう? バカもバカ、絵に描いたようなくそ真面目な男よ。こんな酒場に入ったことが、命取りになるとも知らずにね」

     女は立ち上がった。

    「じゃ、あたしは、行くわね。旦那が待ってるの」

    「式は挙げたのか」

     男の心配そうな声を聞いて、女はさらに笑った。

    「こんな暗闇のような町で式なんか挙げられるわけないじゃないの。ご心配なく、もうちょっとまともな、田舎の村で式を挙げるわよ」

    「幸せになれよ」

     女は目を押さえ、後ろを向いた。

    「それはなんの冗談? さよなら、もう二度と逢うことはないでしょうね。逢うことがあるとしたら、それは地獄のどこかでしょ」

     女は酒場を出て行き、男の視界から姿を消した。男はしばらくひとりで飲んでいたが、やがて代金をカウンターに置くと、引き締まった足取りで、ふらつきもせずに店を出て行った。



     数年の時が流れた。



     男は激戦の末、とある辺境の村の制圧に成功した。

     男の指揮する傭兵部隊の任務は、敵である反乱軍の補給拠点となるような村々を沈黙させ、来るべき『帝国』軍主力部隊の優位を保つことにあった。同じような任務を負ったいくつもの部隊が、このあたり一面に散っているはずだった。

    「隊長、倉庫の品物を書類にまとめました」

    「ご苦労。いつもの通り、この村が一冬を越せるぎりぎりの食糧や生活用品を残し、後は後方の『帝国』軍本隊のほうに送っておけ。あと、女子供には手を触れるな。手を出すやつがいれば、いつもの通り厳罰に処せ」

     男は簡潔に指示を出し、制圧した村の見回りに向かった。

     村の端で、男は木に吊るされた三体の死体を目にした。死体には、誰が書いたのか、『裏切り者!』という札が首から下げられていた。

     男は、捕らえた村の長を呼び、尋ねた。

    「こいつらは?」

     長は顔を憎々しげに歪めると、男をにらみつけた。

    「けっ! こいつらは、『帝国』に降伏しようだなんていいやがった、裏切り者の一家だよっ! おれたちが吊るし首にしなければ、神様がそうしてくれただろうがなっ!」

     男は表情ひとつ変えず、胸の呼子を吹いた。

     副官が、息せき切って駆けつけてきた。

    「どうしました、隊長?」

    「この村の略奪を許可する。男は皆殺しにし、女と子供は奴隷に売れ。全てが終わったら、この村には火を放ち、二度と住むものがないようにしてやれ」

    「は……はっ?」

    「復唱はどうした!」

    「はっ! この村を略奪し、男を皆殺しに、女子供を奴隷に売ります! 全てが終わったら村に火を放ちます!」

    「わかったらやれ!」

    「な……なにを!」

     男に食って掛かろうとする長を、男は長剣の一撃で斬り殺した。



     全てが終わった後、燃える村を眺めながら、男は酒を飲んでいた。

    「確かに、お前と再び出逢った場所は、地獄だったな……おれが本物の地獄に変えてしまったが、恨まないでくれ。それにしても……」

     男は杯を干した。

    「あの子の面は、おれのガキのころに生き写しだったな……」

     副官がやってきた。

    「ツァイ隊長、今後の作戦を……」

    「今行く」

     ツァイは立ち上がった。

     しょせん、ツァイは血塗られた道を行く男なのだった。



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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ツァイさんにはハードボイルドな道が似合うんですよね。

    要するにあの人マジメすぎるほどマジメで。

    だから部下がついてくるのでしょう。

    わたしももっと活躍させてあげたかったのですが……(^_^;)

    NoTitle

    男の人は、大事な人を守るためには鬼にもなりますね。
    そういう時の顔は恐ろしいですが、「それだけ大事な人なんだな」と思うと、いい人だなあと思います。
    大事な人を、守れなかったツァイさんが鬼になったエピソード。
    胸に残りますね。

    Re: ぴゆうさん

    ツァイもゴグもトイスも、それなりにこのような凄惨な体験をしていることでしょう。

    それがあってこそあの三人です。

    まだ毒に目が曇っていないころのヴェルク三世の人選は、やはり秀でたものがあったのでしょうねえ。結局はああなってしまいましたが……。

    NoTitle

    ツァイの過去って少しは彩りがあったのね。
    だけど幸せにしてやれなかった女が・・・
    キツいなぁ~~
    それも我が子も・・・
    かける言葉もないなぁ。
    引き締まりすぎてねじ切れそう。

    Re: limeさん

    いくらか若いころのツァイさんを気に入ってくれて嬉しかったです。

    このような傭兵隊長時代の彼を書くのも楽しかったですね。話は悲惨ですが……。

    しかしそこは笑うところでは(以下略)

    NoTitle

    昼休みに携帯で読んでて、ぐっときました。
    実はツァイって、けっこう好きなキャラでした。
    こんな悲壮な過去があったっていうのも、頷けます。

    ツァイが見た光景を想像すると・・・辛すぎますね。
    なんとか、幸せになってほしかったなあ・・・。

    しかし、引き締まりすぎました。


    Re: 矢端想さん、西幻響子さん

    そこは笑うところではありません(^^;)

    筆が滑りすぎたのも事実ですが(^^;)

    NoTitle

    うわっ。この話も壮絶ですね。
    でも不思議と、なんだか引き込まれます…。

    私もツァイがいちいち「引き締まってる」のがツボです(笑)

    NoTitle

    静かな男が一転、復讐の鬼と化す話はゾクゾクしますね。

    でもなんといってもこの掌編のツボは、ツァイのすべてがいちいち「引き締まって」いるところでしょうww
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