「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
紅蓮の街・外伝「彼らなりの詩(うた)」(掌編シリーズ・完結)
紅蓮の街・外伝/十四番目の男
十四番目の男
こんなあばら家へよく来たな。すまんね、客人をもてなすのにこんな木の実の粥しかなくて。このあたりじゃ、森の中で木の実をあさるくらいしか生きていく手段がなくてねえ。
オルロス伯について聞きたいんだって? いや、それはおれだって同じことだよ。十年以上前に、ガレーリョス家を追い出されてからというもの、終末港には足を踏み入れてないからねえ。
しかし、人間ってのはわからないもんだねえ。ガレーリョス家っていうのは、武をもっぱらとしていたし、バルテノーズ家の手から終末港をかっぱらおうとしていたのも認めるが、基本的に、家の掟は公正だったはずだがねえ。
ところで、例のものは持ってきてくれたかい? オルロス伯が召し上がっていたものさ。おれは長く生きているけど、あれだけはまだ食べたことがない。
そうそう、この干し肉をこう、このかまどの火であぶって……じゃ、いただきます。へええ、うまいものじゃないか。なかなかいけるよ。酒の肴に最高だ。あんたもどうだ? いらない? それならいいけど。
でも、なにを話せばいいんだい? おれは、ヴァリアーナ様の機嫌を損じて追っ払われた男だけど、ガレーリョス家への忠誠までは捨てたわけじゃないぜ。
おれがいたころのオルロス伯? そりゃあんた、公正無比で、怒りを自制する術を心得ていた人だよ。世が世なら、立派な武人として功名のひとつも立てていただろうねえ。
じゃ、この肉、もうひとつもらうよ。……うん。うん。うまいねえ。オルロス伯が好んで召し上がっていたのもよくわかるよ。
え? 全部? 全部食っていいの? 悪いなあ。ちょっと待っててくれ、今、奥から蜜酒の十年ものを取ってくる。
お待たせ。じゃ、乾杯だ。オルロス伯がこんなものを召し上がると聞いたときは、なんてゲテモノを、と思ったけれど、いや、いざ食ってみるとわからんもんだ。
おれが終末港を去ってからはよく知らないけれど、オルロス伯は、頭がいいかただったことは誰に聞いても明らかだと思う。ほんと、その後のことは、風の噂に聞いただけだが、あのご聡明なオルロス伯が、あのような亡くなりかたをされるとは、似つかわしくないし、さぞや無念だったろうなあ。
亡くなられる直前のオルロス伯が、半分、狂人みたいになっていたってのは、ほんとかい? 気の毒だ。ああ、気の毒だなあ。
ささ、蜜酒をもう一杯どうだ? どうせ開けちまった甕だもの、飲み干さなくちゃ酒の神様に怒られちまう。
しかし、病気ってのは怖いねえ。なに? 毒を盛られたって話もある? ひどいやつがいるねえ。誰だい、その下手人は? 噂じゃヴァリアーナ? そうか、あいつか。いかにも、やりそうだよなあ。
オルロス伯がヴァリアーナなしでは生きていけなかったのも事実だけど、さっきの話がほんとうだったら、ガレーリョス家もえらいのを嫁に迎えたもんだねえ。まったく、おれを追放するだけでは済まさないで……ってことは、例の冬にとんでもない騒動を引き起こしたってのも、あいつが黒幕?
……だろうねえ。肉をひとつもらうよ。うまいねえ。かめばかむほど味が出るよ。オルロス伯、いや、ガレーリョス家の一族って、実はもとからゲテモノが好きだったんじゃないのかなあ。
しかし、これを毎日のように食うと、たしかに精力がつくだろうなあ。オルロス伯がよく食べていた、というのも、これが一因じゃないのかなあ?
まだまだ肉もこんなにあるし、酒もこんなにあるし、今日は、亡きオルロス伯について、おれがとことんまで話してやるから、よく聞いてくれよ。
しかし、悲しい人だったよなあ、オルロス伯も。ヴァリアーナなんかを愛したせいで、自分の命まで縮めちまって。
ほんと、気の毒な人だよ、オルロス伯爵ヴェルク・ガレーリョス二世閣下というかたは。南方からこんな、珍しい海蛇の干し肉なんかを取り寄せてまで、あのはらわたの底まで腐りきったようなヴァリアーナを喜ばせようとしたんだからなあ。
で、生まれた息子ってのが、あの不肖の三世だろう? 下手をしたら、ガレーリョス家はあいつで絶えていた可能性もあったんだろう? それを思えば、気の毒だよ、まったく、気の毒な人だよ二世閣下は。
なに? ヴェルク二世閣下が熱病にかかって狂人のようになって亡くなられたのも、この海蛇の干し肉の食べすぎが原因だって説がある?
……脅かすなよ、おい。
もっと食べろって? う、ううん……。

こんなあばら家へよく来たな。すまんね、客人をもてなすのにこんな木の実の粥しかなくて。このあたりじゃ、森の中で木の実をあさるくらいしか生きていく手段がなくてねえ。
オルロス伯について聞きたいんだって? いや、それはおれだって同じことだよ。十年以上前に、ガレーリョス家を追い出されてからというもの、終末港には足を踏み入れてないからねえ。
しかし、人間ってのはわからないもんだねえ。ガレーリョス家っていうのは、武をもっぱらとしていたし、バルテノーズ家の手から終末港をかっぱらおうとしていたのも認めるが、基本的に、家の掟は公正だったはずだがねえ。
ところで、例のものは持ってきてくれたかい? オルロス伯が召し上がっていたものさ。おれは長く生きているけど、あれだけはまだ食べたことがない。
そうそう、この干し肉をこう、このかまどの火であぶって……じゃ、いただきます。へええ、うまいものじゃないか。なかなかいけるよ。酒の肴に最高だ。あんたもどうだ? いらない? それならいいけど。
でも、なにを話せばいいんだい? おれは、ヴァリアーナ様の機嫌を損じて追っ払われた男だけど、ガレーリョス家への忠誠までは捨てたわけじゃないぜ。
おれがいたころのオルロス伯? そりゃあんた、公正無比で、怒りを自制する術を心得ていた人だよ。世が世なら、立派な武人として功名のひとつも立てていただろうねえ。
じゃ、この肉、もうひとつもらうよ。……うん。うん。うまいねえ。オルロス伯が好んで召し上がっていたのもよくわかるよ。
え? 全部? 全部食っていいの? 悪いなあ。ちょっと待っててくれ、今、奥から蜜酒の十年ものを取ってくる。
お待たせ。じゃ、乾杯だ。オルロス伯がこんなものを召し上がると聞いたときは、なんてゲテモノを、と思ったけれど、いや、いざ食ってみるとわからんもんだ。
おれが終末港を去ってからはよく知らないけれど、オルロス伯は、頭がいいかただったことは誰に聞いても明らかだと思う。ほんと、その後のことは、風の噂に聞いただけだが、あのご聡明なオルロス伯が、あのような亡くなりかたをされるとは、似つかわしくないし、さぞや無念だったろうなあ。
亡くなられる直前のオルロス伯が、半分、狂人みたいになっていたってのは、ほんとかい? 気の毒だ。ああ、気の毒だなあ。
ささ、蜜酒をもう一杯どうだ? どうせ開けちまった甕だもの、飲み干さなくちゃ酒の神様に怒られちまう。
しかし、病気ってのは怖いねえ。なに? 毒を盛られたって話もある? ひどいやつがいるねえ。誰だい、その下手人は? 噂じゃヴァリアーナ? そうか、あいつか。いかにも、やりそうだよなあ。
オルロス伯がヴァリアーナなしでは生きていけなかったのも事実だけど、さっきの話がほんとうだったら、ガレーリョス家もえらいのを嫁に迎えたもんだねえ。まったく、おれを追放するだけでは済まさないで……ってことは、例の冬にとんでもない騒動を引き起こしたってのも、あいつが黒幕?
……だろうねえ。肉をひとつもらうよ。うまいねえ。かめばかむほど味が出るよ。オルロス伯、いや、ガレーリョス家の一族って、実はもとからゲテモノが好きだったんじゃないのかなあ。
しかし、これを毎日のように食うと、たしかに精力がつくだろうなあ。オルロス伯がよく食べていた、というのも、これが一因じゃないのかなあ?
まだまだ肉もこんなにあるし、酒もこんなにあるし、今日は、亡きオルロス伯について、おれがとことんまで話してやるから、よく聞いてくれよ。
しかし、悲しい人だったよなあ、オルロス伯も。ヴァリアーナなんかを愛したせいで、自分の命まで縮めちまって。
ほんと、気の毒な人だよ、オルロス伯爵ヴェルク・ガレーリョス二世閣下というかたは。南方からこんな、珍しい海蛇の干し肉なんかを取り寄せてまで、あのはらわたの底まで腐りきったようなヴァリアーナを喜ばせようとしたんだからなあ。
で、生まれた息子ってのが、あの不肖の三世だろう? 下手をしたら、ガレーリョス家はあいつで絶えていた可能性もあったんだろう? それを思えば、気の毒だよ、まったく、気の毒な人だよ二世閣下は。
なに? ヴェルク二世閣下が熱病にかかって狂人のようになって亡くなられたのも、この海蛇の干し肉の食べすぎが原因だって説がある?
……脅かすなよ、おい。
もっと食べろって? う、ううん……。
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~ Comment ~
NoTitle
げっ。
食べ物として認める事自体無理だわ。
何が哀しゅうてそんなものを食べる?
おーいやだ。
滅ぶには滅ぶだけの理由があった。
そんなとこなのかね。
食べ物として認める事自体無理だわ。
何が哀しゅうてそんなものを食べる?
おーいやだ。
滅ぶには滅ぶだけの理由があった。
そんなとこなのかね。
- #5157 ぴゆう
- URL
- 2011.09/17 19:59
- ▲EntryTop
Re: ねみさん
食ったことはないですけど、ジャングルなどでは貴重な食糧になるそうです。
ふと興を起こしてマムシドリンクを飲んでみたことがあるけど、マズかったなあ。
沖縄料理のウミヘビは……一度食ってみたいですけど、沖縄まではちょっと(^^;)
ふと興を起こしてマムシドリンクを飲んでみたことがあるけど、マズかったなあ。
沖縄料理のウミヘビは……一度食ってみたいですけど、沖縄まではちょっと(^^;)
Re: limeさん
はい勘違いです。
冬も去って何年も経った後ですし、持って来られたのは海蛇の肉の干し肉です。
この人にとって『オルロス伯』といったら、熱病で亡くなった故ヴェルク二世のことを指すので、例の物騒な肉のことなど考えたこともありません。たぶん知らないんじゃないかなあ。
たぶん……ね。(イヤらしい笑い)
冬も去って何年も経った後ですし、持って来られたのは海蛇の肉の干し肉です。
この人にとって『オルロス伯』といったら、熱病で亡くなった故ヴェルク二世のことを指すので、例の物騒な肉のことなど考えたこともありません。たぶん知らないんじゃないかなあ。
たぶん……ね。(イヤらしい笑い)
NoTitle
なんか、「ウミガメのスープ」を読んだ時のような恐ろしさが・・・。
私の勘違い?
((((;゚Д゚))))
私の勘違い?
((((;゚Д゚))))
Re: 西幻響子さん
西幻響子さん本編は全部読んでくださいましたっけ?
本編を読んだ後では、この小説が……ふふふのふ。
本編読んでからこの掌編を読んだ人の感想も聞きたいなあ(^^)
沖縄では普通に食べるみたいですね、海蛇。
本編を読んだ後では、この小説が……ふふふのふ。
本編読んでからこの掌編を読んだ人の感想も聞きたいなあ(^^)
沖縄では普通に食べるみたいですね、海蛇。
NoTitle
わはは(笑) そういうオチですか。
そんなこと言われた日には、もう食べる気しませんよねぇ ^^;
しかし、海蛇とは…
まあでも、うなぎと思えばいいのか(笑)
そんなこと言われた日には、もう食べる気しませんよねぇ ^^;
しかし、海蛇とは…
まあでも、うなぎと思えばいいのか(笑)
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Re: ぴゆうさん
どちらかといえばたしかにゲテモノの部類に入るのかもしれませんが、話の種に一度食ってみたいものです。
まあ、わたしも、話の種に一度、蜂の子とか食べてみたいなあ、と 思っていたところチャンスが来て、食べてみたけれど、うーむ、ひと口でアウトでありました。食い物の嗜好は憧れだけではどうにもならないみたいです。とほほ(^^;)