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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    紅蓮の街・外伝「彼らなりの詩(うた)」(掌編シリーズ・完結)

    紅蓮の街・外伝/十五番目の男

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    十五番目の男



     おれ? ああ、昔は船長をしていたこともあるよ。でっかいガレー船のな。それで中型っていうんだから、『帝国』の海軍がいかに強力に武装していたかわかるだろう?

     今はこうしてちんけな宿屋の亭主なんだから、おれが船長としてどんなもんだったか、わかりそうだがねえ。

     それでも、おつむのほうは悪くないと思うぜ。少なくとも、海戦で生き残ったんだからな。不名誉だったけれど。

     ケチのつきはじめは、オルロス伯とかいうやつの甘言に乗せられて、あの終末港へ向かったことかなあ。

     いや、噂じゃ、かなりの人物で、有為の士を集めているとか聞いていたから、自分で自分を有為の士だと思っていたおれが、のこのこ向かっていったのもわかるだろ。

     終末港に着いてびっくり!

     オルロス伯は、おれと面会して、わずかに話しただけで、それまではしがない二等海尉だったおれを、いきなり船長に取り立ててくれたんだ。一等海尉も、副長もすっとばしてだ。

     陸軍さんでいう三階級特進ってやつよ。もうおれは嬉しくって嬉しくって、有頂天になったねえ。

     おれが指揮していた船?

     『天使の灯火』っていうんだ。いい名前だろ? 今はこの宿の看板にしている。

     昔のことを思い出してもしかたないけれどなあ。

     最初のころは、羽振りがよかったんだぜ。おれは、けっこう、海賊なんかを退治したりしたからなあ。

     いや、オルロス伯領に近い、海沿いの領地を持っている貴族たちから、請願が伯に来るんだよ。

     海賊ってのは恐ろしいもんだぜ。海の彼方からやってきて、抵抗もできないような村を襲ってなにもかも根こそぎ持って行っちまうんだから。

     実は隣の村が海賊の基地だった、なんて、笑えない話も多々あったもんさ。

     それに対して、終末港の貴族たちで、ガレー船を持っているものは、『帝国』海軍だけでは守りきれない村を守るわけだ。それが普段の使命だ。

     パトロールしていると、小船の群れがいたりする。帆船だ。

     狩りの始まりだ。

     海賊が海賊ですって面しているわけないだろう。一見、普通の船だよ。

     しかし、見るものが見ると、わかるんだよなこれが。

     だいいち、呼びかけると逃げにかかるからわからないほうがおかしい。

     ここで風が吹いていたら、おれたちのほうが運がなかった、ということだ。むこうはてんでんばらばらに逃げちまう。軽いほうが足が速いのは道理だろ?

     風がやんでいたら、敏捷な熊がのろのろ動くネズミどもを一匹一匹叩き潰していくだけさ。なにせこっちには、無数の櫂があるんだからな。それと無数の矢に、無敵の衝角。

     そのころが、いちばんおれとしては充実していたなあ。

     それが終わりを迎えるのも、早かったぜ。

     人生いいことばかりじゃないってことを、おれは骨身に叩き込まれた。

     ほれ、詩人が歌っているだろう。『エリカの歌』の、『終末港海戦』のくだりだ。

     そう。

     ……ますらお乗せた軍船が、静かに見張る島の影。敵の船団来たれりと、きらりと見ゆるは鏡の合図……。

     って始まるあの歌さ。

     現実は、あんな歌になるほどかっこいいものじゃ全然なかったが、おれが指揮を執っていた『天使の灯火』号が、さほど悪く描かれていないのが救いだな。

     そこでおれの船は、おれの幸運を乗せたまま半身不随になり、なんとか部下をまとめて港に生きて帰ったものの、責任を取らされたおれは終末港を夜逃げしなくちゃならなくなった。

     噂じゃあの冬、終末港はひどいことになっていたんだって?

     ま、そこらへんは運がいくらか残っていたんだろうな。

     失敗を宣伝されているようで面白くないが、詩人には感謝しなくちゃいかんのかねえ。

     あの歌に惹かれて、この宿にやってくる客がけっこういるのよ。

     いや、おれがあの船をほんとに指揮していた、なんてのはあんたくらいしか知らないよ。女房だって知らないくらいだからなあ。

     あのときいっしょに乗っていた部下たちも、今はどこでどうしているのやら……。

     櫂さえ壊されていなければ、と今でも思うぜ。

     もっとも、あの冬の大混乱で、『帝国』も、海軍どころじゃなくなっちまったんだけどな。そんな中で、船乗りのおれがどうやってこの宿を建てたか知りたいだろ?

     それについては、陸に上がったおれのさらなる大冒険が……。

     え? 聞きたくない?

     つまらん人だねえ、あんた!



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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    この「外伝」シリーズを書き始めて思ったことですが、

    「どうでもいいような端役」から、「登場人物紹介に名前が載るような重要な登場人物」まで、「語られなかった人生」を考えて書くのがものすごく楽しいのであります。

    まあ、これも、フレキシブルというか、登場人物たちの設定を必要最小限しかしてなかった怪我の功名によるものですが、

    後づけで設定考えるのって楽しいなあ! しかも自分の作品だから誰からも著作権侵害で訴えられる心配はないし。

    ぴゆうさんも、いま書いている長編を脱稿して一息つかれたら、息抜きとして、ためしにこれまで名前しか出てこなかったような登場人物を使って短いものを書いてみたらいかがでしょうか。設定の矛盾をいわれたら、「♪自分が作者だ文句があるか~♪」の精神で(^^)

    ネタの件ですが、大沢在昌先生だったかの言葉に、「デビューしたあとは、三年は馬車馬のように書かなければだめだ」というのがあります。わたしはまだアマチュアですが、とりあえず最低でも三年は、「馬車馬のように書く」ことにしたのであります。馬車馬のように書いてもひと月に二百枚くらいが限界でしたが、この二年半、学んだことや、ついた自信は、まことに得がたい宝物だったと思います。ネタが切れてもまだ書ける、という自信が特に大きかったであります。まあ、「ほかにやれることがない」ということもありますが……。

    NoTitle

    本当に歴史ありだよねぇ。

    何もないより話せるだけのネタがあるっていうのはいい事なのか。
    そう思えば苦労もしがいがあるのかな。

    名もない船長の話はそれだけで物語なんだね。

    しかしまあ、ネタが尽きませんねぇ。

    Re: kyoroさん

    中島らも先生がなにかで書いていましたが、

    「そこらのおじさんの面白くもなんともない伝記番組を作って、その面白くなさをみんなで笑う」というコンセプトの映像を企画して、とりあえず近所の「『おこし』屋さん」にインタビューに行ったところ、

    満州から命からがら逃げてくるところから始まって、波乱万丈の人生が語られて、ものすごく面白い内容に、これでは番組にならない、とすごすご帰ったそうであります。

    「人に歴史あり」です。

    NoTitle

    この亭主は、もう何度も何度もこの話を繰り返してきたんだろうな~
    昔の自分を愛しているのと同様に、今の自分の状況も愛しているんだろうな~。何となくほっこりします
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