FC2ブログ

    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    紅蓮の街・外伝「彼らなりの詩(うた)」(掌編シリーズ・完結)

    紅蓮の街・外伝/二十七番目の女

     ←コメ返っ! →紅蓮の街・外伝/二十八番目の女
    二十七番目の女



    「なぜですか、お父様」

     その十歳の少女は、そう叫び、父親に食ってかかった。

    「わたくしは、『敬都』に生まれた人間です。それがどうして、『終末港』などという、田舎の街に行かなければならぬのですか」

     父親は日頃の、娘のどんなわがままも聞いてきた父親ではなかった。

    「先方がぜひに、というのだ。わかってくれ、ヴァリアーナ」

    「でも、お父様」

    「決まったことなのだ。お前には行ってもらわねばならん。ガレーリョス伯爵家はあの街では有力な貴族だ。しかも、『終末港』は、皇帝陛下から自治を認められるような、栄えた港町だ。お前は、この都にいるよりももっと楽しく暮らせるだろう」

    「しかし、ここから遠く離れた田舎ではありませんか。わたくしは……」

    「決まったことなのだ。お前にはガレーリョス家に嫁いでもらう。これは、我がクレストマイン伯爵家にとって、重要な縁組なのだ。ガレーリョス家を通して、『終末港』との間につながりを持つことがな」

     少女は聡い娘だった。

    「つまり、わたくしは田舎貴族に金で売られるわけですね」

    「田舎貴族などというやつがあるか。同じ皇帝陛下に仕える伯爵家ではないか」

    「田舎貴族です!」

     少女はそう叫ぶと、父親に背を向け、部屋を飛び出し、自分の、贅をこらした部屋へ向かった。

     少女は一晩泣いた。



     あれから、何年たったことだろう。

     ヴァリアーナは、自分の齢を、苦々しく思った。

     いつか必ず都に戻る。その一念で生きてきたが、『終末港』から都までの距離は、地理的にも政治的にも遠すぎた。財産の面では、都にいたころよりも遥かに……遥かに裕福だったが、それがなんだというのだろう。都、そこはこのような地方の都市にはないものがあったのだから。それがなんであるか、ヴァリアーナは言葉では語れなかったが、代わりに『野望』、いや、『信念』とでもいうべきものが、身体の奥底ではどろどろと渦を巻いていた。

     まだ希望は捨ててはいない。自分は無理でも、自分の血をひく者を都に上らせ、そしていつか、『帝国』の玉座に座らせるのだ。

     ヴァリアーナは胸に抱いた赤子を野心と愛情とが複雑に混じりあった視線で見つめた。

    「お前にはまだまだたっぷりの時間がある。そしていつか、このガレーリョス家を『帝国』の最上の地位に押し上げるのですよ」

     赤子は、母親の視線にも気がつかぬようにすやすやと眠っている。

    「必ずやお前を一人前の貴族にしますからね、わかっているわね、ヴェルク」

     ヴァリアーナには、息子を『帝国』上流貴族としてふさわしい人間にするために教えなくてはならないことが山ほどあった。

     そう、山ほど……。

     すべては未来のために。



    関連記事
    スポンサーサイト






     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【コメ返っ!】へ  【紅蓮の街・外伝/二十八番目の女】へ

    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    いってみれば、古代中国で、洛陽から建業に政略結婚させられたようなものです。

    そりゃあいくら金がある家に嫁いだって泣きます(^_^;)

    ちなみにヴェルク二世にとって、ヴァリアーナは見たこともない「都」の象徴であり、「美」そのものでした。彼がヴァリアーナを溺愛したのも無理はありません。

    つくづく不幸な夫婦だなあこいつら……。

    NoTitle

    そうかあ。ここがスタートで、ここから歪んでいったんですね、ヴァリアーナさん。

    彼女を愛した先代はスゴイと思ってましたが、この少女時代のヴァリアーナさんを見ると、彼女なりの可愛さがあるなあ。
    それにしても、女ってコワイ(^_^;)

    Re: レルバル(ねみ)さん

    ヴァリアーナ夫人はれっきとした女やっ!(^^;)

    NoTitle

    あ、あれ?
    おんなだ。
    女になっていますよ、ポールさん。
    打ち間違っていますよー←ちげえ
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【コメ返っ!】へ
    • 【紅蓮の街・外伝/二十八番目の女】へ