「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
紅蓮の街・外伝「彼らなりの詩(うた)」(掌編シリーズ・完結)
紅蓮の街・外伝/二十八番目の女
二十八番目の女
『帝国』辺境に近い宿屋で
「黒い髪と白い肌の女? 三十年以上前? 覚えているやつがいるわけないじゃないか。そんな女なんか、このあたりには掃いて捨てるほどいるよ。なに? ものすごい根性悪? お客さんもわかってないねえ。そんな女、このあたりには掃いて捨てるほどいるってば。剣の達人? それだけじゃあねえ……そんな女なんて、このあたりには掃いて捨てるほどいるからねえ」
『帝国』首都、『敬都』の酒場で
「覚えてる覚えてる。忘れようがないって、あんな女。三十年前だったか、剣を抜いて、わしのこの酒場で大立ち回りをやったんだよ。そのときに左手の小指を一本なくしてね……。え? 手の指は十本揃っていた? じゃ、おれが覚えていた女とは違うなあ。似顔絵かなにかないの? これ? これじゃ、さっぱりわからない。うーん。顔をこう見せてくれたら、わかるんだけどなあ」
『帝国』首都、『敬都』の『帝国大学校』にて
「ガラですか? 先輩からあの裏切り者の女について聞いたことはあるけど、また聞きのさらにまた聞きみたいなものですから……アグリコルス博士と行動を共にしていたかた……あのですね、三十年前ですよ。みんな鬼籍に入っています。すみませんねお役に立てなくて」
『帝国』北方の小村で
「このあたりで、船の船長をしていた人の奥さん……? 名前は? ああ、このかたですか。それなら覚えてますよ。でも、二十年前に、ご病気で亡くなられて……。お子さんがいなかったので、家は絶えてしまいました。家財道具もそのときに全部処分されてしまったはずです。今は、大工の一家が使っていますよ。ええ、三年前に越してきたかたです。よその人ですが、それはよく働く人で……。話が逸れてしまいましたね。お力になれなくてすみません。でも、なんで、わざわざそのかたを? ナミ? ガラ? あの有名な歌の悪役が、このあたりを訪れた? ……そんなまさか、嘘でしょう。ははは、あんな目立つ格好の女がやってきたら、それこそ末代までの語り草ですよ。変装して来たのなら、わかるはずもないですけど」
『帝国』辺境地帯の鍛冶屋にて
「武器? ああ、作るよ。それくらい作れないと、このあたりじゃやっていけないよ。でも、おれが洟垂れの小僧で、うちの親父が店をやっていたころに、レイピアを作れっていってきたやつがいてね。こんなところでそんなしゃれた武器が作れるわけがないだろう、って、追い返しちまったことがあってね。そのとき脇にいた小さい女の子? そこまではとても覚えちゃいないさ。ところで、あれ以来気になっているんだが、レイピアって、いったいなんなんだ? 刀なのか?」
『帝国』辺境警備兵の報告書
「スワルヴェ族の集落は制圧。ただし、捕虜は取れず。皆、逃走した模様。逃走方向不明。その他報告に値するようなことなし」
アクバ・アルクマーがくずかごに捨てた原稿より
……結局、わたしは、終末港に現れる以前のナミの行動を、ほとんどつかむことができなかった。アグリコルス博士が知っているガラと、われわれの知るナミとは、別人でないかとさえ思えるくらいだ。ナミが、どこで生まれて、どんな道をたどってあのような女になったのか、さっぱりわからない。最近では、わたしはこうも考えるようになっている。あの女は、わたしたちに、あの恐るべき冬の到来を告げに来た、災いの神の使者であり、一瞬の幻覚のような(以下白紙)
終末港にあるナミの墓に刻まれた墓碑銘
『ナミ 極悪人にして聖女』

『帝国』辺境に近い宿屋で
「黒い髪と白い肌の女? 三十年以上前? 覚えているやつがいるわけないじゃないか。そんな女なんか、このあたりには掃いて捨てるほどいるよ。なに? ものすごい根性悪? お客さんもわかってないねえ。そんな女、このあたりには掃いて捨てるほどいるってば。剣の達人? それだけじゃあねえ……そんな女なんて、このあたりには掃いて捨てるほどいるからねえ」
『帝国』首都、『敬都』の酒場で
「覚えてる覚えてる。忘れようがないって、あんな女。三十年前だったか、剣を抜いて、わしのこの酒場で大立ち回りをやったんだよ。そのときに左手の小指を一本なくしてね……。え? 手の指は十本揃っていた? じゃ、おれが覚えていた女とは違うなあ。似顔絵かなにかないの? これ? これじゃ、さっぱりわからない。うーん。顔をこう見せてくれたら、わかるんだけどなあ」
『帝国』首都、『敬都』の『帝国大学校』にて
「ガラですか? 先輩からあの裏切り者の女について聞いたことはあるけど、また聞きのさらにまた聞きみたいなものですから……アグリコルス博士と行動を共にしていたかた……あのですね、三十年前ですよ。みんな鬼籍に入っています。すみませんねお役に立てなくて」
『帝国』北方の小村で
「このあたりで、船の船長をしていた人の奥さん……? 名前は? ああ、このかたですか。それなら覚えてますよ。でも、二十年前に、ご病気で亡くなられて……。お子さんがいなかったので、家は絶えてしまいました。家財道具もそのときに全部処分されてしまったはずです。今は、大工の一家が使っていますよ。ええ、三年前に越してきたかたです。よその人ですが、それはよく働く人で……。話が逸れてしまいましたね。お力になれなくてすみません。でも、なんで、わざわざそのかたを? ナミ? ガラ? あの有名な歌の悪役が、このあたりを訪れた? ……そんなまさか、嘘でしょう。ははは、あんな目立つ格好の女がやってきたら、それこそ末代までの語り草ですよ。変装して来たのなら、わかるはずもないですけど」
『帝国』辺境地帯の鍛冶屋にて
「武器? ああ、作るよ。それくらい作れないと、このあたりじゃやっていけないよ。でも、おれが洟垂れの小僧で、うちの親父が店をやっていたころに、レイピアを作れっていってきたやつがいてね。こんなところでそんなしゃれた武器が作れるわけがないだろう、って、追い返しちまったことがあってね。そのとき脇にいた小さい女の子? そこまではとても覚えちゃいないさ。ところで、あれ以来気になっているんだが、レイピアって、いったいなんなんだ? 刀なのか?」
『帝国』辺境警備兵の報告書
「スワルヴェ族の集落は制圧。ただし、捕虜は取れず。皆、逃走した模様。逃走方向不明。その他報告に値するようなことなし」
アクバ・アルクマーがくずかごに捨てた原稿より
……結局、わたしは、終末港に現れる以前のナミの行動を、ほとんどつかむことができなかった。アグリコルス博士が知っているガラと、われわれの知るナミとは、別人でないかとさえ思えるくらいだ。ナミが、どこで生まれて、どんな道をたどってあのような女になったのか、さっぱりわからない。最近では、わたしはこうも考えるようになっている。あの女は、わたしたちに、あの恐るべき冬の到来を告げに来た、災いの神の使者であり、一瞬の幻覚のような(以下白紙)
終末港にあるナミの墓に刻まれた墓碑銘
『ナミ 極悪人にして聖女』
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Re: 矢端想さん
なにせ一筋縄ではいかん女ですから……。
後世の歴史家が頭を抱えるんだろうなあ。
後世の歴史家が頭を抱えるんだろうなあ。
NoTitle
ナミの過去については以前ミズマ。さんが書いちゃってますからね。あれは「正伝」認定ですよ。
Re: limeさん
現代に生きていたら、まず確実にキャリアウーマンになって、ちょっとした企業の社長として部下をこき使っていたでしょうな。それも極貧から這い上がるタイプ。
シャネルのスーツとか着ると似合いそうであります。というか、わたしの小説に出てくる女性って、シャネルのスーツを軍服みたいに着そうなやつばかりじゃないか(笑)。
シャネルのスーツとか着ると似合いそうであります。というか、わたしの小説に出てくる女性って、シャネルのスーツを軍服みたいに着そうなやつばかりじゃないか(笑)。
Re: ミズマ。さん
一日分は先約があるので(笑)
これから知恵を絞らんと(^^;)
ナミの過去は……こういうことに関してはあの女、嘘しかしゃべらなそうだからなあ(笑)
これから知恵を絞らんと(^^;)
ナミの過去は……こういうことに関してはあの女、嘘しかしゃべらなそうだからなあ(笑)
NoTitle
結局ナミって、どっちだったんでしょうね。
本当は聖女?
でも、最後は間違いなく優しい女だったと思うし。
こんな荒んだ世界に生まれなかったら、ナミはもっと「いい女」として生きたかもしれませんね。
本当は聖女?
でも、最後は間違いなく優しい女だったと思うし。
こんな荒んだ世界に生まれなかったら、ナミはもっと「いい女」として生きたかもしれませんね。
ややっ、ここでナミ嬢の登場ですか!
彼女の背景はすごく気になりますが、掘り起こしたらロマンがなくなる類いですよね。
さて、あと2日ですね(ですよね?)。
大トリは誰かなぁ、っと。
彼女の背景はすごく気になりますが、掘り起こしたらロマンがなくなる類いですよね。
さて、あと2日ですね(ですよね?)。
大トリは誰かなぁ、っと。
- #5207 ミズマ。
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- 2011.09/28 07:52
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Re: 鍵コメさん