「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
2 闇は千の目をもつ(完結)
闇は千の目をもつ 1-4
「死んだ」
わたしはつぶやいた。
「このかた、ナイトメア・ハンターといってましたわね」
電話を終えたバーテンダーが、カウンターを回ってこちらへやってきた。
「そうだ」
額の汗をぬぐう。
「君」
いいかけて、わたしはこのバーテンダーの名前を知らないことに気づいた。
「君、名前はなんていうんだい」
「ユミコです。ツヅキ・ユミコ」
「ツヅキさんか」
「ユミコと呼んでください」
「じゃ、ユミコさん。君がいっていた、わたしに取り憑きかねない危険というのは、この人のことか?」
ユミコは首を振った。
「わかりません。ただ……」
「ただ?」
「このかたが来られたときに、なにかが一歩動いたような感じがしました」
「一歩?」
「一歩というか、歯車のひと回りというか」
なんと答えればいいかわからない。
「後戻りができなくなった、というような感じ?」
「そうです。その通りです」
ユミコはうなずいた。
「幕は上がってしまったわけか」
わたしはため息をついた。
観念してしゃがみこみ、床に落ちた本を拾い上げる。
「これを、わたしにか」
革で装丁された重みのある本だった。表紙にはインクでタイトルとおぼしきものが殴り書きされている。
『闇は千の目をもつ』
そう読めた。
「なんだい、こりゃあ」
ユミコに見せた。
「ミステリとかホラー小説とかのタイトルにありそうな名前ですね」
「覚えは?」
「ありません」
わたしもなかった。ページを繰ってみる。
「なにが書かれてありました?」
「読むかい?」
ユミコに手渡す。ユミコもページをめくったが、数ページでわたしのほうを向いた。口がOの字を描く。
「なにも書いてないじゃありませんか」
「そういうことだ」
わたしはうなずいた。
「この誰とも知らない男は、このバーにわたしを訪ねてきた。それも、なにも書いていない本を手渡すという、そのためだけに」
わたしはカウンターのグラスを取り上げ、すすった。酒は酒だった。
わたしはつぶやいた。
「このかた、ナイトメア・ハンターといってましたわね」
電話を終えたバーテンダーが、カウンターを回ってこちらへやってきた。
「そうだ」
額の汗をぬぐう。
「君」
いいかけて、わたしはこのバーテンダーの名前を知らないことに気づいた。
「君、名前はなんていうんだい」
「ユミコです。ツヅキ・ユミコ」
「ツヅキさんか」
「ユミコと呼んでください」
「じゃ、ユミコさん。君がいっていた、わたしに取り憑きかねない危険というのは、この人のことか?」
ユミコは首を振った。
「わかりません。ただ……」
「ただ?」
「このかたが来られたときに、なにかが一歩動いたような感じがしました」
「一歩?」
「一歩というか、歯車のひと回りというか」
なんと答えればいいかわからない。
「後戻りができなくなった、というような感じ?」
「そうです。その通りです」
ユミコはうなずいた。
「幕は上がってしまったわけか」
わたしはため息をついた。
観念してしゃがみこみ、床に落ちた本を拾い上げる。
「これを、わたしにか」
革で装丁された重みのある本だった。表紙にはインクでタイトルとおぼしきものが殴り書きされている。
『闇は千の目をもつ』
そう読めた。
「なんだい、こりゃあ」
ユミコに見せた。
「ミステリとかホラー小説とかのタイトルにありそうな名前ですね」
「覚えは?」
「ありません」
わたしもなかった。ページを繰ってみる。
「なにが書かれてありました?」
「読むかい?」
ユミコに手渡す。ユミコもページをめくったが、数ページでわたしのほうを向いた。口がOの字を描く。
「なにも書いてないじゃありませんか」
「そういうことだ」
わたしはうなずいた。
「この誰とも知らない男は、このバーにわたしを訪ねてきた。それも、なにも書いていない本を手渡すという、そのためだけに」
わたしはカウンターのグラスを取り上げ、すすった。酒は酒だった。
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~ Comment ~
>佐槻勇斗さん
このバーテンダーさんは、重要人物として設定した割りになかなか活躍しない人です(^^) シリーズ5で活躍するはずなのですが、5を書けるのは早くても7年先なもので……。
この本については、あとからゆるゆると。ふふふ。
どうか本作もお楽しみくださいであります。
このバーテンダーさんは、重要人物として設定した割りになかなか活躍しない人です(^^) シリーズ5で活躍するはずなのですが、5を書けるのは早くても7年先なもので……。
この本については、あとからゆるゆると。ふふふ。
どうか本作もお楽しみくださいであります。
初っぱなから桐野先生すごい事件に巻き込まれてしまいましたねー
バーテンダーさんやるなァwww
にしても、なにも書かれていない本、闇は千の目を持つ……
うーん、一体なんなのでしょう?
本の中に入れってことなのかな??うーん。。
読むのが遅い佐槻ですので、じっくりお付き合いさせていただきたいと思います(^ω^;)
それでは失礼します。
バーテンダーさんやるなァwww
にしても、なにも書かれていない本、闇は千の目を持つ……
うーん、一体なんなのでしょう?
本の中に入れってことなのかな??うーん。。
読むのが遅い佐槻ですので、じっくりお付き合いさせていただきたいと思います(^ω^;)
それでは失礼します。
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Re: 有村司さん
本人は書け書けとうるさいんですが(笑)