ホームズ・パロディ
一毛連盟
ベーカー街にその奇妙な東洋人が訪ねてきたのは、ホームズが銀行破りの事件を見事解決してからそれほど経っていないときだった。
「ええと、もう一度お名前を」
「はい。わたし、ナミヘイ・イソノと申します。日本人です」
「ほほう、日本人ですか」
私とホームズは、その東洋人をしげしげと見た。中国人やインド人はこの大英帝国の貴重な労働力として何度か見たことはあるが、日本人は初めてだ。
そして、その禿頭には……私は、笑い出したくなるのを必死にこらえた。
「それで、イソノさん、どういったご用件で?」
「はい」
イソノ氏は頭を指差した。
「私のこの頭の毛のせいで、奇妙なことに巻き込まれてしまいまして」
「奇妙なこと?」
「ええ。『一毛連盟』という、頭に毛が一本しかない人間で作っているという団体の代表と名乗る人物が、私のこの頭の、一本しかない毛はまことにすばらしいから、ぜひ、われわれのところで簡単な仕事をしてくれと。高給を約束しよう、と」
私とホームズはその東洋人の頭をまじまじと見た。そこには、一本の毛が、まるで風に揺れる柳のように、ひょろっと生えていたのである。
「たしかに奇妙な話ですね」
ホームズのあいづちに、イソノ氏はうなずいた。
「そうでしょう。私たち日本人は、親から慎みの心を深く教育されています。ですから、そのような怪しげな話に、そのまま乗るような真似はできません。しかし、遠い異国の地で、頼るものもなく……ふと聞きつけたのが、ホームズ先生のお噂なのです。どうか、お力になってはいただけないでしょうか」
「いいでしょう。まずは、あなたの身辺のことからお聞きします……」
いくらかの質問をして、イソノ氏が帰って行ったとき、私はそっとホームズにささやいた。
「どう思うね、ホームズ」
ホームズはパイプをふかした。
「どう思うもこう思うも、ワトスン君、君はあの東洋人の頭をよく観察したかね」
「観察したとも」
「それでは、例の『一毛連盟』とかいうものについての感想をうかがおうか」
「私は、まだあの『赤毛連盟』についての話を公開していないよ、ホームズ。だから、今度の『一毛連盟』は、あんな悪党とはなんの関係もない、と思うね」
「ワトスン君。君は、まだ、観察眼と理性をよく働かせていないようだね。さっきの東洋人の頭を、よく思い出すことだよ」
私は首をひねった。
「東洋人の頭? あそこには一本の立派な毛が生えていただけで……」
そこで、私はあっと声を上げた。
「あの東洋人の側頭部にも黒々とした毛があった!」
「そういうことだ、ワトスン君。『一毛連盟』など、いんちきもいいところさ。おそらく、どこかの犯罪組織から、あの実現一歩手前まで行った計画の一部を漏れ聞いた間抜けな悪党が、自分もその真似をしよう、と企んだに違いない」
「なるほど」
「もしかしたら、僕たちの行動で、あの計画がつぶされたことを知った何者かが、誰かに計画を売ったのかもしれないな。その裏に、あのモリアーティー教授がいたとしても、僕はちっとも驚かないよ」
「その誰かって誰だい」
「それはこれから調べるんだよ。さあ、ワトスン君、身支度をしたまえ。これからしばらく忙しくなるぞ!」
その後の私たちの行動についてはくだくだしく述べるまでもあるまい。私たちは、また一軒の銀行を悪の手から守ったと書くだけで充分だ。
刑事たちとともに悪党を捕まえた後、ベーカー街のいつもの部屋でくつろいでいると、扉にノックの音がした。
「どうぞ。開いてますよ。どなたですか?」
ドアを開けて入ってきた白服のそいつは、私たちにこういった。
「ぼく、オバケのQ太郎っていいますが、『三毛連盟』とかいうのが……」
私とホームズはぐったりと疲れきって卒倒した。
「ええと、もう一度お名前を」
「はい。わたし、ナミヘイ・イソノと申します。日本人です」
「ほほう、日本人ですか」
私とホームズは、その東洋人をしげしげと見た。中国人やインド人はこの大英帝国の貴重な労働力として何度か見たことはあるが、日本人は初めてだ。
そして、その禿頭には……私は、笑い出したくなるのを必死にこらえた。
「それで、イソノさん、どういったご用件で?」
「はい」
イソノ氏は頭を指差した。
「私のこの頭の毛のせいで、奇妙なことに巻き込まれてしまいまして」
「奇妙なこと?」
「ええ。『一毛連盟』という、頭に毛が一本しかない人間で作っているという団体の代表と名乗る人物が、私のこの頭の、一本しかない毛はまことにすばらしいから、ぜひ、われわれのところで簡単な仕事をしてくれと。高給を約束しよう、と」
私とホームズはその東洋人の頭をまじまじと見た。そこには、一本の毛が、まるで風に揺れる柳のように、ひょろっと生えていたのである。
「たしかに奇妙な話ですね」
ホームズのあいづちに、イソノ氏はうなずいた。
「そうでしょう。私たち日本人は、親から慎みの心を深く教育されています。ですから、そのような怪しげな話に、そのまま乗るような真似はできません。しかし、遠い異国の地で、頼るものもなく……ふと聞きつけたのが、ホームズ先生のお噂なのです。どうか、お力になってはいただけないでしょうか」
「いいでしょう。まずは、あなたの身辺のことからお聞きします……」
いくらかの質問をして、イソノ氏が帰って行ったとき、私はそっとホームズにささやいた。
「どう思うね、ホームズ」
ホームズはパイプをふかした。
「どう思うもこう思うも、ワトスン君、君はあの東洋人の頭をよく観察したかね」
「観察したとも」
「それでは、例の『一毛連盟』とかいうものについての感想をうかがおうか」
「私は、まだあの『赤毛連盟』についての話を公開していないよ、ホームズ。だから、今度の『一毛連盟』は、あんな悪党とはなんの関係もない、と思うね」
「ワトスン君。君は、まだ、観察眼と理性をよく働かせていないようだね。さっきの東洋人の頭を、よく思い出すことだよ」
私は首をひねった。
「東洋人の頭? あそこには一本の立派な毛が生えていただけで……」
そこで、私はあっと声を上げた。
「あの東洋人の側頭部にも黒々とした毛があった!」
「そういうことだ、ワトスン君。『一毛連盟』など、いんちきもいいところさ。おそらく、どこかの犯罪組織から、あの実現一歩手前まで行った計画の一部を漏れ聞いた間抜けな悪党が、自分もその真似をしよう、と企んだに違いない」
「なるほど」
「もしかしたら、僕たちの行動で、あの計画がつぶされたことを知った何者かが、誰かに計画を売ったのかもしれないな。その裏に、あのモリアーティー教授がいたとしても、僕はちっとも驚かないよ」
「その誰かって誰だい」
「それはこれから調べるんだよ。さあ、ワトスン君、身支度をしたまえ。これからしばらく忙しくなるぞ!」
その後の私たちの行動についてはくだくだしく述べるまでもあるまい。私たちは、また一軒の銀行を悪の手から守ったと書くだけで充分だ。
刑事たちとともに悪党を捕まえた後、ベーカー街のいつもの部屋でくつろいでいると、扉にノックの音がした。
「どうぞ。開いてますよ。どなたですか?」
ドアを開けて入ってきた白服のそいつは、私たちにこういった。
「ぼく、オバケのQ太郎っていいますが、『三毛連盟』とかいうのが……」
私とホームズはぐったりと疲れきって卒倒した。
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~ Comment ~
ポール・プリッツさんのホームズの所にはバラエティ豊かな依頼人が集まりますね!
こちらを「赤毛組合」以前の事件としたら・・・
卒倒したホームズは、「赤毛」で失敗しませんかね?
「赤毛」と同じような内容の短編に「3人ガリデブ」というのもありましたね。
こちらを「赤毛組合」以前の事件としたら・・・
卒倒したホームズは、「赤毛」で失敗しませんかね?
「赤毛」と同じような内容の短編に「3人ガリデブ」というのもありましたね。
Re: ぴゆうさん
わたしとしては使い勝手は悪くないと思うんですが。
そのうちきっと慣れると思いますです。
そのうちきっと慣れると思いますです。
マナガツオかな?
なんの魚かな。
すごく綺麗な魚が悠然と泳いでいるのがいいよね。
前は右側にポチボタンがあったから、慣れるまでなんだろうね。
なんの魚かな。
すごく綺麗な魚が悠然と泳いでいるのがいいよね。
前は右側にポチボタンがあったから、慣れるまでなんだろうね。
- #5277 ぴゆう
- URL
- 2011.10/08 13:04
- ▲EntryTop
Re: ぴゆうさん
鬼太郎は、針の髪の毛を飛ばしたら、つるっぱげになってしまいますからねえ。
難しいところであります(笑)
変えてみましたが、このテンプレはどうですか? 今のところわたしは気に入っていますが。
難しいところであります(笑)
変えてみましたが、このテンプレはどうですか? 今のところわたしは気に入っていますが。
Re: 秋沙さん
だめですO次郎はホームズ並みに頭がいいから、あんなやつを誘ったら計画が頓挫してしまいます(笑)
「バケラッタ」しかしゃべれないからコミュニケートもとりにくいし。(笑)
「バケラッタ」しかしゃべれないからコミュニケートもとりにくいし。(笑)
Re: ミズマ。さん
そのネタも考えましたが、午後の十時過ぎにパソコンに向かって、シンデレラみたいに十二時の鐘を恐れながらキーを叩いていたもので、長くなってしまうそのアイデアは却下しました(^^;)
自転車操業であります(^^;)
自転車操業であります(^^;)
Re: そのちーさん
「緑毛連盟」というのも考えましたが、新井素子先生の信者からボコボコにされるのもなんだなあ、と(笑)
オバケのQ太郎は、藤子先生が連載を開始した時には毛が十本くらい生えていた、というのは一部では有名な話です。われわれがよく知るデザインとはまったく違い、これをオバQだといわれたらまず初見の人は信じられないと思います。
オバケのQ太郎は、藤子先生が連載を開始した時には毛が十本くらい生えていた、というのは一部では有名な話です。われわれがよく知るデザインとはまったく違い、これをオバQだといわれたらまず初見の人は信じられないと思います。
タイトル見た瞬間からじわじわとした予感がありましたがwww
なにやってんのモリアーティ教授www
……はッ、まさかヤツの狙いは次々と「~連盟」の事件を起こしてホームズ氏を疲弊させること、なわけないかぁ。
なにやってんのモリアーティ教授www
……はッ、まさかヤツの狙いは次々と「~連盟」の事件を起こしてホームズ氏を疲弊させること、なわけないかぁ。
- #5263 ミズマ。
- URL
- 2011.10/07 07:58
- ▲EntryTop
ばぁぁぁぁああああかもん!!!wwwwwwwwwwwww
そう言えば毛が少ないキャラクターっているなぁ。
でもオバQは今度こそちゃんと毛が三本ですよwwwww
間違いないwwwwwww
そう言えば毛が少ないキャラクターっているなぁ。
でもオバQは今度こそちゃんと毛が三本ですよwwwww
間違いないwwwwwww
- #5262 そのちー
- URL
- 2011.10/07 00:26
- ▲EntryTop
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Re: シャオティエンさん
「3人ガリデブ」は……ドイル先生疲れていたんだきっとそうだ(^^;)