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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:9 ペンは剣より

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    ペンは剣より



     流行らない私立探偵であるエドさんの目の前で、その人品いやしからぬ老紳士は、深く溜め息をつきました。

    「すると、頼みたいことというのは」

    「失踪した、わたしの新聞の編集長、カッフ氏を見つけてほしいのだ。内密に」

    「いっちゃなんですが、無理ですよ、ストークス卿。むしろ警察に頼む事柄です」

    「警察が当てにならんのだ。ここに来たのも、流行らなくて誰も目をつけないような、それでいて誠実で信頼できる探偵を、と考えた末なのだからな」

    「そりゃどうも」

     エドさんは、そうとだけ答えました。ストークス卿の出している新聞は、権力者の犯罪を暴き立ててやまないことで有名でした。カッフ編集長は、そこの名物編集者で、最近、何かとても大きなスクープをつかんだらしいのですが、突然失踪してしまったのです。

    「彼は頑固な男だ。身に危険が及んでいる可能性は大きい。何としても救わないと」

    「わたしに何かできますかねえ。とりあえず、メモを」

     エドさんは、ボールペンを取り上げて、メモを取ろうとしました。「あれ?」手が止まりました。インクが切れていたのです。

    「よかったら、これを使いたまえ」

     ストークス卿は、新聞社の社名入りのボールペンを渡しました。

     ストークス卿が帰るまでに、エドさんはいくつもの質問をしました。そのメモを見ながら、ひとりになった探偵事務所で、こちらもストークス卿に負けないくらいの大きな溜め息をつきました。

    「無茶だよ……」

     そのときです。部屋のどこからか、「ペンは剣より強し、ペンは剣より強し」と繰り返す声が聞こえてきました。びっくりしたエドさんは、声の主を探しました。

     声の主は、すぐにわかりました。ボールペンが、しゃべっていたのです。

    「あの人も、変ないたずらするなあ」

     エドさんは、しゃべるからくりを見つけようと、ボールペンをためつすがめつしましたが、そういう機械が入っている様子はありません。ボールペンの言葉に、なんとなく後ろめたくなったエドさんは、メモの整理をはじめました。すると、声はやみました。

     次の日から失踪事件の調査を本格的に始めたエドさんは、ボールペンがしゃべる法則を見つけました。エドさんが、調査をあきらめて打ち切ろうかと考えるたびに、「ペンは剣より強し」としゃべるのです。エドさんは、このボールペンを捨てようかと思いました。しかし、なぜかこの言葉を聞くたびに、やる気のようなものが湧いてくるのです。結局、捨てられませんでした。

     ボールペンの奇妙な叱咤激励もあって調査は進みました。二週間後には、エドさんはストークス卿たちと共に、目立たないビルの一室で、双眼鏡を片手に、これまた目立たない工場を見下ろすところまで来ていました。

    「記者さんたちは手配していただけましたか。一個連隊くらい欲しいのですが」

    「一個連隊とまではいかんが、信頼できるものは揃えたつもりだ。しかし、本当にあの工場にカッフ君はいるのか」

    「証拠の写真だったらさっきお見せしたでしょう。や、面白い人が出てきましたよ」

     エドさんから双眼鏡を受け取って目に当てたストークス卿は、ぴくっとしました。

    「エバンズ議員じゃないか! スミス君、早く撮りたまえ。現職議員が報道関係者をさらうとは、全く、何と汚らわしい話だ……」

     ストークス卿にいわれて、横で望遠レンズつきカメラを構えていたスミスという記者が、慌ててシャッターを切りました。

     エバンズ議員を乗せた車が走り去ってしまうと、それを待っていた記者たちが、隠れていた場所からわらわらと現れました。勇敢な記者たちは、スクラムを組むように、工場に突っ込んでいきました。二十分後、一人の記者が工場から出てきて、円を描くように、大きく手を振りました。カッフ編集長を見つけたという合図です。

    「ありがとう。全て、君のおかげだ。社を挙げて、感謝する。これは、わたしからの気持ちも込めてだ」

     ストークス卿はポケットから小切手帳を取り出して、万年筆でさらさらとサインをしました。受け取ったエドさんは、目を落として、思わず口笛を吹きました。

    「もらいすぎみたいなものですよ」

     そう呟くと、胸の内ポケットに入れたボールペンを、そっと撫でました。ボールペンは、二度としゃべることはありませんでしたが、エドさんは、インクが切れた後でも、このペンを大事に扱うのをやめませんでした。

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    ~ Comment ~

    Re: クロエさん

    残念ながらこのペンは叱咤激励してくれるだけで、知恵を絞って書くのは自分自身なんです(^_^;)

    ある意味……編集者?(笑)

    ポールさん。

    今晩は。ポールさん。

    倒れるまでの使命感 さすがポールさんですね~。
    そう言うときは 無理しないで下さいね♪

    皆様のコメントに多く書かれていましたので
    割愛しますが…
    私は エドさんの ペンが欲しいな~。(笑)
    詩がスラスラ書ける…(笑)

    またお邪魔させて下さいね♪

    Re: fateさん

    昨日は疲れからか、相互さんとブロともさんのネット巡回をし終わった後ぶっ倒れ、丸一日ぐーすか寝てました。そんなわけでコメント遅れすみません(汗)

    エドさんの世界は一種のアニミズムですからねえ。ものが口をきいてもおかしくない世界……いやおかしいか(^^;)

    これ、前作と同じコメントになりそうです。

    ペンの気持ちを受け取りました(^^)

    Re: YUKAさん

    アメリカのインディアナポリスには、エドさんよりもはるかに優秀で誠実な人柄なのにちっとも流行っていない、アルバート・サムスンという私立探偵が住んでおります(笑)

    マイクル・Z・リューイン先生、もうああいう名作は書いてくれないのかなあ……。

    こんばんは^^

    言葉を紡ぐのは怖いことでもありますね。
    人を楽しませるものなら、言う事ないですが。。。

    こんなに優秀なのに
    流行ってないんだぁとヘンなところに食いつきました(笑)

    Re: 有村司さん

    恐縮です(^^)

    妙なものがしゃべるのはわたしも好きなシチュエーションです。

    とはいえ毎回、妙なものをしゃべらせてもネタ詰まりするだけですので、これからはそうではない話も多くなりますが……(汗)

    もはや中毒…^^;

    こんばんは!

    朝晩の「エドさん詣で」が日課になりつつあります。
    エドさんは「児童文学」とのことですが、いい大人のワタシが拝読しても、いつも唸らされています。

    特に、「常識ではあり得ないものが喋る」というのが楽しくて…(時には怖いオチで)

    ワタシのそばにも叱咤激励してくれるペンがないものでしょうかね?^^

    いや最近文章を書くといえば専らパソコンではありますが…。

    Re: ぴゆうさん

    これを書いたときは、「ちょっと変な正義感にかられすぎてやしませんか」という評価をいただきました。

    これは児童向けなので、変でもなんでも「正義」を追求するべきじゃないか、と今でも思ってます。

    NoTitle

    スゴい言葉だよね。

    正しく使われているからこそ重みがある。

    噂やでっちあげの片棒を担いでいては、凶器でしかない。

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