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    ホームズ・パロディ

    五つのナポレオン

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     その青年がホームズのところにやってきたのは、八七年のことだったろうか。私、医学博士ジョン・H・ワトスンは、犯罪記録に参照記録をつけている偉大なるシャーロック・ホームズをほっといて、海洋冒険小説に夢中になっていたのだが。

     ドアが叩かれて、私は不承不承立ち上がった。

    「こんなときに、君の友達かね、ホームズ」

    「いたとしても、こんな日に、友達なんか呼ばないね。ということは、依頼人ということさ、ワトスン君。どうぞ、開いてますよ!」

     入ってきたのは、身だしなみの良い、二十を越えたくらいの青年だった。

    「シャーロック・ホームズさんですね。僕が頼れるのは、この世界でも、もうあなたくらいのものなのです。それほどに、僕の家に舞い込んできたものは、奇妙奇天烈なものなのです」

    「ほほう」

     ホームズは、いくらか気を惹かれたようだった。

    「話してください」

     青年は語りだした。それは、実に奇妙な物語だった。

    「僕の名前は、ジョン・オープンショーといいます。サセックスに住んでいますが、僕にはジョセフという父と、イライアスという伯父がいました。その、アメリカ帰りの伯父から、この奇妙な物語は始まるのです」

    「ほう……」

    「K・K・Kとサインのある郵便物を受け取ってから、伯父はおかしくなってしまったのです」

    「K・K・Kですって!」

    「ご存じなのですか?」

     ホームズは姿勢を正した。

    「オープンショーさん、あなたは、かなり恐ろしい運命の渦中にいる、と考えなくてはなりません。手紙の中を当ててみましょう。オレンジの種が五粒入っていたんですね」

    「オレンジの種? いいえ。もっと奇妙なものです」

    「え?」

    「伯父のもとには、ばかでかい、模写用のナポレオンの彫像が五つ送られてきたのです。芸術家のドヴィーヌが作った彫像をもとにしたものだということはすぐにわかりましたが、石膏で作られた安物です。それが家に届いて以来、伯父の様子がおかしくなってしまったのです」

     私も海洋小説を閉じて、青年の話を聞いていた。これはまた奇怪な事件だ。

    「伯父さんがおかしくなったとは、どういうことなのですか?」

    「伯父は、そのナポレオンの像を片端から火かき棒でたたき壊すと、丹念に破片を調べました。そして真っ青になると、屋根裏部屋から何かの書類を持ち出して、焼き捨ててしまったのです」

    「それは奇妙ですね」

     ホームズの答えに、青年はうなずいた。

    「奇妙なだけではないのです。それからしばらく後に、伯父は変死してしまったのです」

    「変死?」

    「ええ。『まだらのひも』という謎めいた言葉を残して」

    「面白い。これは面白い」

     ホームズは立ち上がって、部屋をうろつきまわり始めた。興奮しているのがよくわかる。

    「そして、父のもとにも、五つのナポレオン像が送られてきたのです」

     青年は悲痛な顔をしていた。

    「父は笑い飛ばしていましたが、それでも、どこかこの差出人不明の郵便物を不気味に思っていたようでした。そして、父の不安は当たってしまったのです。父もまた、変死してしまったのです。『ライオンのたてがみ』という言葉を残して。それが二年八ヶ月前です」

    「ほう!」

    「そして今日、僕のところにも、とうとう、五つのナポレオン像が送られてきたのです! 僕はとっさに窓の外を見ましたが、あやしいものといえば、自転車に乗った人間が去っていく姿だけでした。ホームズさん、僕はどうすればいいのでしょう!」

    「急ぎましょう。なにがあるのかわからない。後は、あなたの家に行くまでの道々、話すことにしましょう。失礼ですが、あなたのお屋敷は?」

    「はい。ウィステリア荘といいます」

     私は身支度を整えながら、今朝がた見かけた、唇のねじれた男のことを思い出していた。モリアーティーが生きているのだろうか。これはホームズにとって最後の事件に、最後のあいさつになろうというのか……。



    ……………………



    「お父さん」

     キングズリーは父親の書いた原稿を読んで頭を抱えた。

    「これじゃ、めちゃくちゃで意味をなしてませんよ。いくら長編のアイデアが浮かばないからって、これはないですよ」

    「霊だ……」

     父親、アーサー・コナン・ドイルはぶつぶつとつぶやいた。

    「霊が、私にこの小説を完成させろというのだ……」

    「とにかく、お父さん。この原稿は没にして、別の話を書いてください。まったく、霊だなんて。この戦争が終わったら、お父さんも、霊なんてことは考えなくて済むような平和が来ますよ」

     そういい残して、キングズリーは世界大戦へ出征していった。彼はソンムの戦いで負傷、その後のスペイン風邪の大流行により死亡した。

     これ以来、ドイルは心霊主義に傾倒していった。

     しかし、この原稿は、霊を怒らせると思ったのか、発表はされずに廃棄されたそうである。
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    おはようございます(^^)

    もう、根がバカなのか、こういうドタバタ大好きだったりします。

    真面目な話も真面目な話で面白いですけど。

    どちらの系統の話も書くのが難しいですけどね(^^;)

    こんばんは^^

    ふふふ。

    私は、ホームズを完読してませんが、
    あ。――って思いながら読みました^^b
    最後、そう締めましたか^^

    そう言えば、最近。。。
    コナンと言えば『江戸川コナン』になってしまいましたね~


    今日はこの辺で、私も3つ応援して帰りますね^^
    また来ます^^

    Re: ひまりさん

    わたしはそのとき書いている小説のジャンルを変えるたびにランキングも変えてしまうので、我ながらまるで「転がる石に苔は生えない」を地で行くかのようです。(英国のもとのことわざでは、苔とは財産のことであり、あっちこっち転職転居を繰り返す人間に金は貯まらない、という意味だったそうで)

    ひとつのジャンルを突き詰めて書いたほうが研鑽になると思うのですが、ついあれも書きたくこれも書きたく(^^;)

    難儀な性格であります。

    内容とそれますが

    私はお引っ越しまえまで、このランキングだったんですよ^^
    今はひっそりと本のその他に、行きました。

    がんばったけど、ここは激戦区でね~

    なので、今日も3ぽち応援しましたよ。
    健闘祈ります☆☆☆

    Re: ぴゆうさん

    うーん。

    すみません、お気に召さない作品をお見せいたしまして。

    シャーロック・ホームズネタで、ひたすらバカバカしくぐちゃぐちゃなデタラメのごった煮を書きたかったのであります。「五つのオレンジの種」ではなく、五つのナポレオンの像が送られて来たらマヌケだよね、と思ったのがその発端。だったらついでに、「あやしい自転車乗り」も入れちまおう、あれも入れちまおう、これも入れちまおう、と悪ノリ大会になってしまいまして(汗)

    ちなみに、晩年のドイルが心霊主義の熱心な信者だったというのはほんとうのことであります。「インチキ心霊術師にだまされた有名人」を書くと、真っ先に名前が挙がる人でもあります。

    息子のキングズリーが第一次大戦で負傷したのちに流感で死んだのもほんとうのことであります。

    ドイルにはほかにも子供がいましたが、みんな心霊主義の信者になり、子孫を残さず亡くなっております。

    脱線しますが、早川書房が、戦後、ホームズを全編翻訳しよう、として、若き日の都筑道夫先生が、当時まだ版権の切れていなかった最後の短編集の翻訳権をイギリスに問い合わせたところ、ドイルの版権を管理していた子供の一人が、「父の霊が英国と戦争をした日本には版権を許すなといっている」と断ってきた、という話も伝わっております。今は著作権が切れているため、どこでも訳出できますが、当時はそんなこともあったのであります。

    それも含めてのウケ狙いの話だったのですが……スミマセヌ。

    何が言いたいのけ?
    ポールが続きを書いているのかと思えば・・・
    コンニャローーーー
    v-294して帰ってやる!
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