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    ささげもの

    黄輪さん大長編小説読了記念短編・その1

     ←実力がなかったといえばそれまでだが →黄輪さん大長編小説読了記念短編・その2
    「あのね、シリン、私はそれほどヒマじゃないのね。わかるね?」

     ゴールドコーストの街を、奇妙な二人連れが歩いていた。

     二人のうち、狐獣人の女は、いささか困惑気味だった。頭には大きな三角帽をかぶり、ぼろぼろのマントを着たその姿は、いかにも怪しげである。

    「だいたいだね、飲み屋だなんてものは、開店してはつぶれるものでね……」

     この街でも人気の女闘士である、虎獣人のシリン・ミーシャは、狐獣人の女の袖にすがった。

    「モールはん、いけずいわんといてえな。あんさんだけが頼りなんや。あんさん、よその国の言葉もぺらぺらやろ。だから、あの辺境民族の店を、看板だけでもいいから探してもらいたいんや」

     その筋では、大魔法使い、賢者、とも呼ばれているモールはぶつぶついった。

    「それはいいが、こんな迷路のような飲み屋街をうろつきまわってどれくらいになるやら……もう、陽もかげり気味ね。このままじゃ、徹夜ものだね。なんでそんなにこだわるのね。もしかして、一万二千クラムを酔っぱらって置き忘れた、というのは本当の話なのかね」

    「だから、いけずいわんといて、ゆうとるやろ。とにかく、あの店を見つけたら、いつかダーリンと飲みに行くんやから」

    「君につきあわされるほうは大変だね……。待て、シリン。そこを動いちゃダメね」

     モールは何の変哲もない行き止まりの袋小路でシリンを止めた。

    「どないしたん?」

    「世界を閉じている膜にひずみがあるね。因果律がもろくなっているね……」

     シリンは慌てたようだった。

    「え? え? うち、どないしたらええやん?」

    「今はとにかく動かないことね。このひずみは、思ったより深そうだね……向こうに潜る必要があるね」

    「わかりやすく説明してえな」

    「ひとつの樽の真ん中に木の板で仕切りを作って二つに分け、その一方にワインを、もう片方にビールを入れたとするね。普通はそのままで混ざることはないけど、万一板に節穴が開いていたとするね。そうすると、どうなるね?」

    「ビールとワインのちゃんぽんができるわ……」

    「そういうことね。節穴からゆっくりと、しかし確実に中の液体が染み出し、やがては二つの液体はそっくり混ざってしまうね。時間はかかるが、確実なこと。この世界の膜のほころびも同じことね……今はわずかだけど、少しずつ、われわれの見たこともない異世界と、われわれの世界が混ざり合い、やがてはなにをもってしても分離不能な混沌状態になってしまいかねないね……」

    「ど、どうすりゃええのん?」

     説明をたぶん理解していないだろうシリンに対し、モールはため息をついて答えた。

    「向こうに潜り、この穴を塞がなくてはならないね。君にも来てもらうね、シリン・ミーシャ。なにが待っているかわからない以上、君の戦闘能力は貴重だからね」

    「わかった」

     生き死にがかかるとシリンは腹を決めるのも早かった。

    「うちの命、モールはんに預けるさかい、早いとこ、その異世界に行って水漏れを直そ。店探しは、それからや」

    「よくいったね。だったらこの手を握るね。潜るからね」

     モールはシリンの手を握り、なにやら唱え、ゆっくりと一歩踏み出した。周囲から見ているものがあれば、ふたりは霞のように消えたと思えるだろう。

     シリンは、なにか悪酔いでもしているときのような感じを覚えた。周りが極彩色のようで、無色のような、ぐらぐらする感覚。そして、ひとつのドアだけが、実感を伴ってそこにあった。

    「うちらの世界とつながっているのはこのドアね。間違いないね」

     モールはドアに手をかけた。

     がらんがらんがらん、と鐘が鳴る音が聞こえた。中にいる者たちが、驚愕に満ちた表情で、モールたちのほうを見るのがわかった。

     シリンはいった。

    「モールはん。この店やねん」
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    ~ Comment ~

    Re: 黄輪さん

    今回はちょっと政治ネタというか、文化ネタ入ります。

    腹を立てる人は腹を立てるかもしれませんが……。

    おぉ、シリンふたたび。
    今度はモールと一緒にですね。
    しかし次元を飛び越えるとは……、うちの二大ジョーカーには不可能なしですねw
    趣喜堂との絡みも楽しみです。
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