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    「ショートショート」
    SF

    独裁者の末路

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     わたしの住む村にひとつしかない街頭テレビが、レーザー光飛び交う激しい銃撃戦を映し出したのは、その日の朝のことだった。

    「ぶったまげたなあ、もう」

     わたしの隣人である、キノコ牧場を経営している男が、呆然としてつぶやいた。キノコ牧場というのは、小山ほどもあるナメクジ状の粘菌生命体、『ウォーキング・マッシュルーム』から、定期的に生えてくる植物状の子実体を切り取り、まとめて束にして市場に下ろす仕事である。胞子嚢ごと鍋に入れてとろ火で煮ると、三十分としないうちにそれはそれはうまい極上のスープが取れる。この星の名産である。

    「あの皇帝陛下のお膝元で暴動と銃撃戦が起きるとはねえ」

     その言葉には、どこかほっとしたものがあった。銀河帝国皇帝・アフォリウス三十三世は、愚昧なくせに政治的にやたらと立ち回りがうまい、悪質きわまる独裁者だった。その独裁ぶりは、元老院で弾劾演説をしたわたしをこの辺境惑星に流刑に処したことでもわかるだろう。老境を迎えて隠退しようとしていたわたしとしては、この星とこの村が気に入った、というのはしっぺ返しとしてはちょうどいい運命の皮肉である。

    「まだ大勢が決まっていないんだ、めったなことはいうもんじゃない」

     わたしは、テレビから目を離さずにいった。

     そうだ。あの悪知恵だけは働くものの、どうしようもなく愚昧な男のことだ、どれだけ人類に害を及ぼすかわかったもんじゃない。



     三日目、ぼそぼその合成酵母パンを食べていたわたしのもとに、隣の男が駆け込んできた。

    「どうした」

    「いやあ、ぶったまげただ。アフォリウス三十三世、とうとうやっただよ。帝都ごと、星を丸ごとぶっ飛ばしちまっただ。最大級の反物質爆弾を、惑星の内核にぶち込んじまったんだからなあ」

     わたしは目を覆った。銀河帝国の長い歴史の中で、幾多の内乱はあったものの、この人類をまとめる礎石だったあの美しい星が……。

    「で、アフォリウス帝は?」

    「逃げただよ。散り散りになって逃げる、帝国海軍の船の一隻に紛れて雲を霞だそうだよ。いや、無責任な皇帝もあったもんだよ」

    「ふうん……」

     独裁者の末路はこんなものなのか。わたしは酵母パンを飲み込むと、回想録の続きを書きに、粗末な一室へ向かった。

    『帝国の混乱、ここから始まる』

     そうノートに書いてペンを置いたわたしは、自分がどれだけ正鵠を射たことを書いたのか、まだまったく気がつかなかった。



     七日後、わたしは山に入って山菜を取っていた。苦くてまずくて、たいていの村の住民はごみ同然にして放っておくものの、ビタミンやミネラルが異様に豊富なこの山菜は、わたしの日々の糧にはなくてはならないものになっていた。

    「いやあ、ぶったまげただ! 皇帝陛下、生きておいでだそうだ!」

     わたしは後ろを振り返り、隣の男にいいきかせた。

    「だからといって、もう大勢は決まっている。皇弟が、ヴァクアリウス四十八世として即位してしまった以上、先帝が生きていても、帝国法で、賊軍は先帝のほうだ」

    「いや、そうじゃねえんで。先帝陛下は、実はヴァクアリウス帝の皇太子殿下に化けていたそうなんだ。皇太子殿下のいる星では、反ヴァクアリウス派による無人艦隊が動き出したそうだよ」

    「軍隊を無人化しすぎたせいだな。誰でも簡単に反逆者になれる。しかし、皇太子の軍とヴァクアリウス帝の直属部隊とでは、規模に差がありすぎるだろう。そうなると、たとえ……」

    「それだけでもねえんで」

     男は、唾を飛ばしてまくしたてた。

    「ヴァクアリウス帝の親衛隊の将軍のひとりや、帝国辺境の領主たちも、先帝陛下と同様、ヴァクアリウスに反旗をひるがえしたみたいなんで。次々とお手討ちにあっているようだよ」

    「どういうことだ?」

     わたしは首をひねった。

    「さっぱりわかんねえ。ただ、さらされる首は、先帝陛下に生き写しだあ」

    「影武者……か? しかし、ヴァクアリウスも、影武者なんか配下に置かないだろう」

     わたしの頭には困惑だけが残った。



    「たいへんだたいへんだたいへんだよう。ヴァクアリウス陛下からお触れだよう」

    「どんなことをいってきたんだ」

     最近のヴァクアリウスの治世の手腕を見る限り、期待しないほうがいいことを悟っていたわたしは、諦め顔で尋ねた。

    「アフォリウス帝が、貴族たちの間に、自分の遺伝子とそっくりの、情報まで確実にコピーする、クローンを作るようなウイルスをばらまいていたことがわかったんだよう」

     わたしは耳を疑った。

    「なんだって?」

    「それで、ヴァクアリウス陛下のお触れによると、おらたち庶民も、ヴァクアリウス陛下から、予防接種を受けるようにということだよう」

    「陛下にしては穏健だなあ」

    「そうでもないだよう」

     隣のキノコ牧場主の次の言葉を聞いて、わたしは絶望感と無力感に駆られた。

    「噂じゃ、その予防接種のワクチンは、実はアフォリウス帝がばらまいたクローンウイルスを、ヴァクリアウス陛下の遺伝子をコピーするために作り替えられたものだそうで、このままでは、おらたちみんなヴァクリアウス帝になっちまうだよう。それに噂じゃ、アフォリウス帝のほうでも、アフォリウス帝のウイルスをばらまく無人衛星をあっちこっちに飛ばしているようで……」

     わたしは自室に置いてあるレーザー銃を思い出した。自分の頭は、吹っ飛ばせるうちに吹っ飛ばしたほうがよさそうだ……。



    ……………………



    「……はい。これが、かつてこの宇宙を独裁的に支配していたやつの物語。そしてこれが生き残り。アフォリウスなのかヴァクアリウスなのかは知らないが、遺伝子的に全く同じな、近親交配でどんどん退化し、今ではこんなあさましい姿に。さて、これより火の輪くぐりの芸をお見せいたします。さあ、この宇宙を独裁的に支配していた、『人類』という種の末裔の、見るも無惨に退化した、哀れな姿をぜひご覧ください。お代はこちら。はいテンツクテンツク……」
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    盛者必衰のことわりをなんとやらです(笑)

    それにしてもわたし、人類を退化させるの好きだなあ(^^;)

    おはようございます^^

    面白かったです!

    独裁者の末路――どうもっていくんだろうと思ったら~
    哀しく滑稽な末路でした。

    あぁ。。。

    Re: LandMさん

    どうせ百万年もしたら、現生人類なんて、進化した連中にとってかわられるか、そのまま自滅するかして絶滅してるでしょうがね……とすぐに思ってしまうSFファンです(^^;)

    SFとクローン。
    そして繁栄と衰退が凝縮された作品ですね。
    なんにしてもどのように人が滅びるのかは・・・・、まあなってみないとわからないですけどね。

    Re: 秋沙さん

    いや、うっかりしていると、秋沙さんのPCも、妙なクローンを作り出すウイルスがやってきて……。

    なんちゃって(^^)

    Re: ぴゆうさん

    もちろん時事問題がもとになってます(^^)

    ライブで作れたらもっと気持ちがよかったんですがねえ。

    それにしても、新聞や週刊誌に書いている、時事問題をギャグにした4コマの作者はさぞやたいへんだろうなあ……。

    Re: るるさん

    まあ作者のわたしもアフォでヴァクァですから(^^;)

    Re: ひまりさん

    もうなんでもかんでも書くよろず創作ブログで(^^;)

    いちおうミステリとSFとギャグが中心です。

    五分あれば読める作品ばかり書いているので、お暇でしたらぜひショートショートなどを……(^^)

    Re: 矢端想さん

    愚劣で非道な皇帝の名前を考えたら、「アフォリウス」という言葉が頭に。対になる存在を考えたら、「ヴァクアリウス」という言葉が頭に。

    我ながらなんと貧困なネーミングセンス……(^^;)

    なはははは(^^;)
    ありそでなさそでありそなお話ですな。

    ま、独裁者も所詮は人間。
    思いついたことは、他の誰かも思いついているってのがほとんどって事ですかね。
    んでもって、しまいにはコピーをいっぱい作っちゃうってか(^^;)
    ヴァカとアフォ、どこぞの国にもいそうですねぇ。

    最初にタイトルを見た時は、今時の話題にぴったりなと思った。
    時事問題ですかなナンテ。
    カダフィも作っとけば良かったのにね。
    でも、本当は影武者かも知んない。
    だってあの状態じゃ、本物かどうか怪しい。
    わざとらしいじゃない金の銃を持っていたなんて。
    ムムム
    妄想が止まらないやんけ!
    ここにもアフォヴァカリーノ・ド・ぴゆうがいた。

    つまり矢端兄さんのいうとおりってことですかいな

    おはよう^^

    実は初めて内容を読みましたよ^^

    SFだっだんですね・・・☆

    面白いし、これだけの長文を毎日更新しているのはすごいね!

    アフォとヴァクァが争うとロクなことにならないという寓話ですな。
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