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    趣喜堂茶事奇譚(うんちく小説シリーズ)

    趣喜堂茶事奇譚/名犯人談戯(その2)

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     井森を除くぼくたちはクジを引いた。

     ぼくが一番だった。

    「そうだな……ぼくの考える名犯人のチャンピオンは、イーデン・フィルポッツの『赤毛のレドメイン家』の犯人だ」

    「はっ!」

     馬庭さんが失笑した。

    「あのミステリは、駄作ではないんじゃないかね。あれを傑作と認めているのは、昔の人間ばかりだぞ。トリックも、犯人も、まるわかりじゃないか。メースンの『矢の家』よりもわかりやすいだろう、きみ」

     ツイスト博士が、柔らかい声で馬庭さんを制した。

    「まあ、今の段階から、そこまでけんか腰にならなくても。で、きみは、どう『赤毛のレドメイン家』を弁護するんだね?」

     ぼくはしばし唇をなめた。

    「そうですね。なんといっても、あの小説のキモは、トリックでもロジックでもなく、いわんや動機でもなく、結末で犯人の語る、いわば『悪の哲学』にあるというのがぼくの意見です」

    「あのくらいのことは、きょうびのミステリの犯人だったらべらべらしゃべるぞ」

    「馬庭さん、そうはおっしゃいますけどね。時代背景から考えたら、あれだけの自己主張を犯人にさせるのは、そうとう革新的だったと思いますし、そして、現代のミステリにおける『悪の論理』の源流があそこにあることを思えば、やっぱり単なる駄作、というのは見当違いもいいところだと思います」

    「そうはいうけど、おれにはあれは『単に厚いだけの本』にしか思えないがなあ」

    「厚いだけじゃないですよ。抜群のリーダビリティがあるじゃないですか。本のページをめくったら、どうしても続きが読みたくなります。犯人の見当がついても読みたくなるんです。あの面白さは特筆すべきです」

    「じゃあきみは、乱歩がいった、あの『絢爛たる万華鏡』を感じたのか?」

    「感じました。あの結末で犯人が述べた告白が、何日かしてから、腑に落ちたというか、ずしっと心に来たのを感じました。あんな体験、ミステリではあれだけです」

    「なるほど。哲学なんかに手を出す人間は、そう考えるのか」

     馬庭さんが静かにいった。

    「これ以上話すと、未読だろう井森くんに気の毒だ。それじゃ、クジを引こうか。次は誰の番かな?」

     舞ちゃんだった。

    (この項・続く)
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    わたしは「闇からの声」に手を出しました。

    犯人の男がとんでもなくいやなやつだったことを覚えています。

    乱歩がべた褒めでしたね。
    そうか『絢爛たる万華鏡』だったか。

    フィルポッツは「灰色の部屋」にも手を出しましたが
    もはや思い出せませんです。
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