ささげもの
祭歌さんブログ二周年記念掌編!!
ロストフ星系第一惑星「ロストフ1」は、氷の惑星だった。
そこに進出した人類は、固体の状態で多量に存在する水銀を採掘し、マスドライバーで衛星軌道に打ち上げ、骨組みに推進装置がついただけの貨物船で、後方の惑星に送っていた。
「監督官どの」
データ・ボードを手にした副官が、かちりと耐寒ブーツのかかとを合わせて敬礼した。
「採掘班が、奇妙なものを発見しました」
「奇妙なもの?」
「はっ。奇妙なのですが……生物らしいのです」
「生物?」
監督官は、驚いて副官を見た。
「この惑星に? そいつは生きているのか?」
「はっ。聴音機を使ったところ、微弱ですが、内部より、若干のノイズは混じるものの規則正しいパルスが検出されました。内臓のそれだと思われます」
「知性はありそうか?」
「まだなんとも。外見は、これです」
データ・ボードを副官が指でなぞると同時に、壁のスクリーンが画像を映し出した。
「ウサギを無機質にデフォルメしたように感じられるな……」
「はい。採掘班は、これを『灰色うさぎ』と呼んでおります」
「この寒さに耐えるのだ、そうとうの断熱効果のある外殻をしているのだろうな」
「はあ。それなのですが……」
「なんだ」
「この生物の外殻を、レーザー式分析器で分析してみると、低温より、むしろ高熱に耐えるような物質であることがわかりました」
「高熱?」
監督官は、首をひねった。
「この惑星は、あの小さな恒星からかなり離れた距離を公転している。近日点に入ったとしても、とうてい高熱などとは……」
監督官がそうつぶやいたときだった。
サイレンとともに、真っ赤な光が基地内で点滅し始めた。
「どうした!」
監督官はヘッドセットのマイクに叫んだ。
「恒星観測衛星基地より非常事態! 恒星が! ロストフが! 爆発的なフレアを吹き上げはじめました! そのエネルギー指数、比較級数的に上昇中! わあっ!」
「どうした! どうした! 応答せよ!」
副官は、データ・ボードを操作し、現在の、この星系内における熱エネルギー分布を調べた。
「ロストフ、巨大化を始めました……。恒星観測衛星基地は、フレアに飲み込まれたものと思われます……。どこまでロストフが大きくなるかは、見当がつきません。われわれの常識を超えています……」
「どこまでロストフが大きくなるかだって?」
駐在員たちに、即時の集合と、そして速やかな脱出をうながすための命令を下しながら、監督官はつぶやいた。
「決まっている……この星が、水銀の大気に覆われた、『灰色うさぎ』の外殻が必要になるほどの高温になるまでさ……」
灰色うさぎはやってきた。すべてを終わらせる短い春を引き連れて。そしてその後には……長い長い、灼熱地獄の夏がやってくるのだ……。
※ ※ ※ ※ ※
元ネタはこの詩。二周年おめでとう! まさかあの詩が、光瀬龍先生のような宇宙SFになってしまうとは夢にも思うまい(笑)。
そこに進出した人類は、固体の状態で多量に存在する水銀を採掘し、マスドライバーで衛星軌道に打ち上げ、骨組みに推進装置がついただけの貨物船で、後方の惑星に送っていた。
「監督官どの」
データ・ボードを手にした副官が、かちりと耐寒ブーツのかかとを合わせて敬礼した。
「採掘班が、奇妙なものを発見しました」
「奇妙なもの?」
「はっ。奇妙なのですが……生物らしいのです」
「生物?」
監督官は、驚いて副官を見た。
「この惑星に? そいつは生きているのか?」
「はっ。聴音機を使ったところ、微弱ですが、内部より、若干のノイズは混じるものの規則正しいパルスが検出されました。内臓のそれだと思われます」
「知性はありそうか?」
「まだなんとも。外見は、これです」
データ・ボードを副官が指でなぞると同時に、壁のスクリーンが画像を映し出した。
「ウサギを無機質にデフォルメしたように感じられるな……」
「はい。採掘班は、これを『灰色うさぎ』と呼んでおります」
「この寒さに耐えるのだ、そうとうの断熱効果のある外殻をしているのだろうな」
「はあ。それなのですが……」
「なんだ」
「この生物の外殻を、レーザー式分析器で分析してみると、低温より、むしろ高熱に耐えるような物質であることがわかりました」
「高熱?」
監督官は、首をひねった。
「この惑星は、あの小さな恒星からかなり離れた距離を公転している。近日点に入ったとしても、とうてい高熱などとは……」
監督官がそうつぶやいたときだった。
サイレンとともに、真っ赤な光が基地内で点滅し始めた。
「どうした!」
監督官はヘッドセットのマイクに叫んだ。
「恒星観測衛星基地より非常事態! 恒星が! ロストフが! 爆発的なフレアを吹き上げはじめました! そのエネルギー指数、比較級数的に上昇中! わあっ!」
「どうした! どうした! 応答せよ!」
副官は、データ・ボードを操作し、現在の、この星系内における熱エネルギー分布を調べた。
「ロストフ、巨大化を始めました……。恒星観測衛星基地は、フレアに飲み込まれたものと思われます……。どこまでロストフが大きくなるかは、見当がつきません。われわれの常識を超えています……」
「どこまでロストフが大きくなるかだって?」
駐在員たちに、即時の集合と、そして速やかな脱出をうながすための命令を下しながら、監督官はつぶやいた。
「決まっている……この星が、水銀の大気に覆われた、『灰色うさぎ』の外殻が必要になるほどの高温になるまでさ……」
灰色うさぎはやってきた。すべてを終わらせる短い春を引き連れて。そしてその後には……長い長い、灼熱地獄の夏がやってくるのだ……。
※ ※ ※ ※ ※
元ネタはこの詩。二周年おめでとう! まさかあの詩が、光瀬龍先生のような宇宙SFになってしまうとは夢にも思うまい(笑)。
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~ Comment ~
ありがとうございます!
夢にも思いませんでした(笑)!
灰色うさぎ……! つ、強い! まさかあんななんかよくわからん生物が、こんな強烈な堂々たる生物(?)だったなんて……!wwww し、しかも、内容まで使ってくださって、あわわわ、ありがとうございますー!
も、もしよろしければ、うちで飾ってもよろしいでしょうか……??
灰色うさぎ……! つ、強い! まさかあんななんかよくわからん生物が、こんな強烈な堂々たる生物(?)だったなんて……!wwww し、しかも、内容まで使ってくださって、あわわわ、ありがとうございますー!
も、もしよろしければ、うちで飾ってもよろしいでしょうか……??
- #5503 歌
- URL
- 2011.10/29 22:14
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Re: 歌さん
あまりといえばあまりな内容に絶交されてしまったらどうしようとガクブルしてましたが、喜んでもらえてうれしいです。
ガクブルしていたのに歌さんのブログにコメントしたのは、書いたものはやっぱり読んでもらいたいという気持ちゆえで……(^^)
いくらでもさらしものにしてやってください(^^)