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    「ショートショート」
    SF

    火炎惑星

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    「カカァ、帰ったぞォッ! 亭主が仕入れから帰ったぞォッ! ふう、重かった」

    「帰ったぞじゃないよ。お前さん、道具屋でしょ。道具屋ってのはね、ものを仕入れるのが商売じゃないんだからね。仕入れたものを売って、おあしに変えておまんまをいただくのが商売なんだからね。それに、重い、なんて、何を仕入れてきたんだい。どうせお前さんのことだから、くだらないものを……なんだいこの変な石は」

    「すげえだろう。時代がついている」

    「バカッ! これは時代じゃなくて埃だろッ! もう、あんたはバカだバカだと思っていたけれど、なんだいこれは。小汚い石じゃないか。こんなもの、漬物石にもならないよっ!」

    「そ、そんなこたァねえよ。だいたい、おれにこの石を売ってくれたやつぁ、三分のところを一分でいいって……」

    「バカバカバカバカ! こんなものに、一分も払ったのかい! まったく、あきれたねえ……」

    「ふん、こんな石でもな、埃をはたけば見違えるようになるんだ! 定吉! 定吉! ちょっとね。表に出てね、伯父さんが買ってきたこの石をはたいておいで!」

    「へえい。うわあ、すごい汚れだ。ぱたぱたぱた。げほげほ。健康に悪いね。ぱたぱたぱた。げほげほ……」

    「これ」

    「あっ、お侍様」

    「許せよ。主人はおるか」

    「た、ただいま。伯父さん、伯父さん!」

    「なんだい、なんだい、大声出して……こ、これはいらっしゃいまし……」

    「その石はその方の店のものであるか?」

    「へ、へえ……」

    「これはどうしても殿にお見せせねばならぬ。その方、屋敷へ参れ。屋敷はわかるな?」

    「どちらさんのお屋敷で? ……へい。へい。よく存じております。へい。すぐにうかがいやすんで。カカァっ! カカァっ! 売れたぞっ!」

    「バカだねえ。だからあんたはバカだといわれているんだよ。あのお侍、お前さんを殿様に見せてこういうつもりだよ。『殿、このようなむさいものを売っていたバカな道具屋がおります。この顔をご覧ください。まことにバカな面をしております』するってえと殿様は大笑いして、『おお、このようなバカな顔はみたことがない。これが世にいう、夏に咲く『バカ顔』というものか。褒美を取らす』って……お前さん、なにをしてるのさ。早くお屋敷に行ってご褒美をもらっておいで! ご褒美をもらってくるまで、おまんまは食わせないからねっ!」

    「おまんまが食えねえなんて、そりゃねえだろう」

    「お前さん、口でいってもわかるわけないから、食べ物で教えるんだよ」

    「犬畜生じゃねえや! ……まったく、ひどい女もいたもんだ。ええと、このお屋敷の裏口……と。えー、お頼み申します。お頼み申します」

    「なんだ、その方?」

    「へえ。道具屋の……」

    「おお、聞いておるぞ。奥へ通れ」

    「へい。へへっ。お屋敷なんか外から拝むものだとばかり思っていたけれど、中はこんな具合になっていたのか。ええと、あのお侍は、と……」

    「おお、道具屋か」

    「へい」

    「殿がお待ちじゃ。あの石は持って参ったろうな」

    「へえ。持ってめえりやした。忘れるわけはございやせん」

    「よし。それでは、その方はこちらに控えておれ……殿! 殿! 道具屋でございます!」

    「おお。待ちかねた。それで、石は、石はどれじゃ」

    「はっ。これにて」

    「おおっ。これは。道具屋、いかほどで売る?」

    「へっ? か、買っていただけるんですかい?」

    「なんじゃその顔は」

    「へえ。ですから、『バカな顔』をご覧にいれて、『これが夏に咲くバカ顔か、面白い』と、ご褒美をいただけるものかと……」

    「はっはっは。おかしなことを申すやつじゃ。それで、いかほどで売るのじゃ?」

    「ええっと……このくらい!」

    「両手を広げただけではわからぬ。その方、これをいかほどで仕入れた」

    「へ。……へえ。三分のところを一分で」

    「まことであろうな」

    「へえ。嘘なんか申しておりやせん。このまま手ぶらで帰ったら、カカァにおまんまを食わせてもらえなく……」

    「はっはっは。あっぱれな正直者じゃ。よいよい。三百金で買い取ろう」

    「さ、三百金? 三百金って、ええと……」

    「わからん奴じゃな。三百両じゃ」

    「三百両……三百両……うわーん」

    「泣くやつがあるか。それで、売るのか、売らんのか」

    「売ります! 売ります、売りますとも! で、どうして、この一分の石に三百両も?」

    「うむ。その方が知らなくとも無理はない。これは、『火炎惑星』と申してな。この石を包む埃に火をつけると、埃が暴れて踊り狂い、それはそれは面白き景色を示す。よほどの目利きでも、知らぬ者が大半であろう。しかもこれはまだ火がついておらぬ。余もまだ見たことのない貴重な品じゃ。大儀であった、道具屋。帰るがよい」

    「あ、さ、三百両も。たしかに。たしかにいただきました。それじゃ、あっしは、これで……へえーっ、知らなかったね。でも、これだけあれば、カカァも目ェ回して座りしょんべんしてバカになっちまうぞ。そうしたら、同じバカだから、バカとはいわせねえぞ……カカァ、いま帰ったぞ!」

    「早かったわねえ。で、お前さんのバカ顔で、いくらの褒美をもらったんだい」

    「バカ顔じゃねえや。喜べ、あの石、売れたぞ」

    「売れた? それで、二文かい、三文かい」

    「これから見せるから、おい、そこの柱にしがみついて歯ぁ食いしばっておけよ。そうしないと、目ェ回して座りしょんべんしてバカになっちまうからな。まず、ほら、五十両」

    「五十両!」

    「まだまだ出るぞ。もう五十両、それから五十両。これで百五十両だ」

    「うわーん」

    「泣くやつがあるか。まだ出るぞ」

    「まだあるのかい!」

    「ほら、五十両、五十両、五十両で、三百両だ」

    「お、お前さん、水、水……」

    「ほら、飲め。でも、あまり飲みすぎるなよ。飲みすぎると、目ェ回して……」

    「しないよ座りしょんべんなんか。あんた、あの石、どこで仕入れてきたんだい」

    「太陽系、というところから、その三番惑星を。ついでに二番惑星も仕入れてくるんだったなあ」

    「二番惑星は売れないよ。ご禁制(金星)の品じゃないか」

     おあとがよろしいようで……。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    たいていの本には入っているでしょうね。名品ですからねえ……。

    NoTitle

    「火焔太鼓」かーっ!
    ありがとうございます。

    確か、入ってる本もってたはず…

    Re: ひゃくさん

    落語の名作中の名作、「火焔太鼓」です。

    五代目古今亭志ん生の大得意としていたネタでした。それゆえ後の世の人がやりにくく……(^^)

    探してみたらやっぱりありましたねえ、動画サイトに志ん生の高座が。いいのかなあ著作権とか。文化遺産として積極的に国が残すべきだとは思うんですけれど。

    NoTitle

    うまいっ!座布団5枚!(笑)

    これはいいですねー(個人的には、いままで読んだ中で一番好き)。

    > 夏に咲く『バカ顔』

    それ、夏になったら使わせてもらいます(笑)

    ちなみに、これってオリジナルはなんでしたっけ?

    Re: ダメ子さん

    立ち込めた煙が、もう、くせえ(木星)のなんの……

    な、なんて残酷…と怒声(土星)が

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    おはようございます^^

    あはは~~

    この話のオチも面白かったですが

    皆さんの考えたオチも楽しかった^^

    皆さん、さすが!(笑)

    Re: 西幻響子さん

    落語は好きですが、寄席は遠いしテレビはちょうどの時間にやってないし。

    コミケで同人誌を買ってきて読むくらいです。

    おかげで「聴いたことはないが読んだことのある」ネタばかりが増えて(笑) 本末転倒(笑)。

    うわ、SFがなんと落語に・・・これは凄い。

    ポールさん、落語がお好きなんでしょうか?この会話のリズムとか絶妙です。それに、ポールさんの頭の中、アイデアの宝庫みたいですねぇ。羨ましい。

    ※おかげさまで体力、回復いたしました。ポールさんにいただいた、ありがたーいコメントのおかげです ^^

    Re: kyoroさん

    これを演じるには、もっとギャグを入れなければならないでしょうねえ。それから、最後の部分の考えどころをもっとわかりやすくするような工夫がいるでしょう。

    この小説版では、もともとの噺をかなり端折ってますからねえ。うーむ。

    トンデモ落語会、行きたいなあ……(遠い目)

    こんにちは

    「火炎太鼓」がポールさんの手で、見事に生まれ変わりましたね。ワタシも落語大好きなんです。
    どこぞの落語家に「火炎惑星」、演じて欲しいものですね~

    Re: ぴゆうさん

    無理です。(きっぱり)

    第三惑星は、その上に積もっていたホコリごと買い取られ、殿様により火がつけられてしまいましたので。

    石の上でホコリが起こした核戦争は、超越的存在にとってはさぞや見ごたえのある景色だったでしょう。

    実はものすごくブラックな考えオチで……(^^;)

    誰も突っ込んでくれないんだもん自分で解説するしか(汗)

    「そりゃお前さん、地球がいいよ」
    「なぜだい?」
    「商売にはツキが大事、地球には月がついてくるもの」

    こんなんはどうですかね?

    Re: 矢端想さん

    「わたしがSFといったらSFだ」(笑)

    Re: たかのゆき先生

    ご心配ありがとうございます。

    震度4なんてもう慣れっこですとほほ(^^;)

    でも身体が身を隠す机を求めてしまうのでありますとほほほ。

    Re: naonyanさん

    順番は違ってませんよ。

    ただ、「冥」が消えただけで……(^^;)

    座布団ありがたくいただいておきます。齢のせいかもう腰が冷えて冷えて(^^;)

    あっ! これ「SF」だったんだ!!

    こんばんは

    先ほど大きな地震がありましたが大丈夫でしたか?

    座布団10枚!!
    \(^o^)/

    アタシが子供の頃は水金地火木土天海冥って習ったんだけど、今は順番が違っているんだよね。
    ふとそんなことを思ったよ。

    Re: 面白半分さん

    ムチャいわんといてください(^^;)

    オチをひとつひとつ真剣に考えてしまったではないですか(笑)

    水星でつまづいて、我に返るまで時間が(笑)

    Re: 矢端想さん

    「買うなら四番惑星がいいよ。稼いで(火星で)おいで」

    というオチも考えたのですが、ちと苦しいかな、と。

    話によれば、昭和初期に志ん生師匠が改作を加えられる前の原作では、あまりにうるさいので殴りこんできた町の連中で家も金もしっちゃかめっちゃかにされる、という夢も希望もないオチだったそうであります。ほんとかどうかは知りません。なにせ落語家は、「息でもするようにウソをつく」連中だそうなので……。

    てやんでい。べらぼうめ。
    うまいじゃねえか。

    ポール・ブリッツさんなら
    どの惑星でも
    オチに持ってこられるような気がしてます。


    お見事でございましたっ!!拍手拍手。

    原作に匹敵するどんなオチを持ってくるかハラハラワクワクしてたら・・・なーんだ。(←ヒドイ)
    いえいえ、このオチ見事!さすがポールさん!文句を言ってはバチが当たる・・・でもなあ、原作オチのキレが良すぎるんだな・・・。そこは酷。

    「おじゃんになる」惑星なんてないものなあ・・・。

    Re: 秋沙さん

    「天王星」という字をよく見てみましょう。いわゆる「天子さま」とは字が違いますね。この超越的存在にとっての「天子さま」がなんなのか、考えると頭の線が焼き切れてしまいそうですが(^^;)

    だいいち、そんなことをいったら、仏教でいう「四天王」も、大阪の「天王寺」も、東京の「天王洲」も畏れ多くて……ということになってしまいます。

    落語のオチにはなりませんけれど、いや上方落語なら(自重しろわたし)

    ご金星・・・ですか(^^;

    では、第七惑星はこの時代にはどういう扱いなんでしょうかね(^^;
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