「ショートショート」
SF
ナンジャラゲ
人類にとっては歴史上初の異星文明との接近遭遇、いわゆるファースト・コンタクトを果たしたばかりだというのに、その異星人は、ちょっとピリピリしていた。
「ナンジャラゲ、知ッテマスカ?」
なめらかな日本語でそう問われた外務大臣のおれは、硫酸を飲み下したような顔になっていたに違いない。
「ナンジャラゲ?」
「ソウデス。ナンジャラゲ、危険デス。タイヘン、危険デス」
「ナンジャラゲって……目で見えるものなのですか?」
異星人は首を振った。
「ナンジャラゲ、見エマセン。嗅ゲマセン。聞コエマセン。専用ノ測定器デ計測シナケレバ、我々ニモワカリマセン」
「放射線のようなものですか?」
「放射線、見エマス。ナンジャラゲ、見エマセン。放射線、ソレホド危険デハアリマセン。ナンジャラゲ、危険デス」
「はあ……」
「デモ、安心シテクダサイ。ナンジャラゲ、自然界ニハ、ホンノワズカシカ、存在シマセン。シカシ、人工的ニ作リ出スコトモデキ、ソノヨウニシテ大量ニデキタナンジャラゲハ、非常ニ危険デス。致命的ニ危険デス」
「はあ……」
「スグニ船カラ、測定器ガ届キマス。ソウスレバ……」
と、異星人がいったときだった。異星人の身体が硬直した。
「え?」
「ナンジャラゲ! ナンジャラゲ! ナンジャラゲ!」
そう叫ぶと、異星人は動かなくなった。
「死んだ……のかな?」
おれはぴくりともしない異星人を気味悪げに見た。
おれは考える。あの異星人が死んだのは、地球に存在するナンジャラゲの影響だろう。宇宙船が逃げるように飛び去って行ったことを考えても、ナンジャラゲは実在するのだ。
とすると、おれたち人類は、あるべき姿から、ナンジャラゲの力によって歪められてきたのだろうか。ナンジャラゲがなければ、おれたち人類は、もっとすばらしい文明なり身体なり世界なりを手にすることができていたのだろうか。
もっとも、そんなことなど、政治家のおれが考えても仕方がないことだ。
なぜなら、地球は、そんな些細な問題など、吹き飛ばしてしまうような問題に襲われていたからだ。
異星人が、ナンジャラゲの飛散を抑えるために、地球の周りをチェルノブイリの際の石棺のようなもので覆ったのかって?
違う。
地球は、やつら異星人どもの、「ナンジャラゲ汚染物質」の廃棄所、ゴミ捨て場になってしまったのだ。
科学技術が違いすぎ、おれたち人類はなにもできないまま、ナンジャラゲ汚染物質に埋もれていくのだ。ナンジャラゲは人類に何の影響も与えなかったとしても、汚染されたといわれる、ガラクタというか、産廃というか、とにかく持ち込まれて投下されてくる形あるものは、その質量だけでも、おれたちにとっては絶滅を意味した。
ほら、今日も、大量のナンジャラゲ汚染物質を満載した宇宙船が、太陽系に飛んでくる……。
「ナンジャラゲ、知ッテマスカ?」
なめらかな日本語でそう問われた外務大臣のおれは、硫酸を飲み下したような顔になっていたに違いない。
「ナンジャラゲ?」
「ソウデス。ナンジャラゲ、危険デス。タイヘン、危険デス」
「ナンジャラゲって……目で見えるものなのですか?」
異星人は首を振った。
「ナンジャラゲ、見エマセン。嗅ゲマセン。聞コエマセン。専用ノ測定器デ計測シナケレバ、我々ニモワカリマセン」
「放射線のようなものですか?」
「放射線、見エマス。ナンジャラゲ、見エマセン。放射線、ソレホド危険デハアリマセン。ナンジャラゲ、危険デス」
「はあ……」
「デモ、安心シテクダサイ。ナンジャラゲ、自然界ニハ、ホンノワズカシカ、存在シマセン。シカシ、人工的ニ作リ出スコトモデキ、ソノヨウニシテ大量ニデキタナンジャラゲハ、非常ニ危険デス。致命的ニ危険デス」
「はあ……」
「スグニ船カラ、測定器ガ届キマス。ソウスレバ……」
と、異星人がいったときだった。異星人の身体が硬直した。
「え?」
「ナンジャラゲ! ナンジャラゲ! ナンジャラゲ!」
そう叫ぶと、異星人は動かなくなった。
「死んだ……のかな?」
おれはぴくりともしない異星人を気味悪げに見た。
おれは考える。あの異星人が死んだのは、地球に存在するナンジャラゲの影響だろう。宇宙船が逃げるように飛び去って行ったことを考えても、ナンジャラゲは実在するのだ。
とすると、おれたち人類は、あるべき姿から、ナンジャラゲの力によって歪められてきたのだろうか。ナンジャラゲがなければ、おれたち人類は、もっとすばらしい文明なり身体なり世界なりを手にすることができていたのだろうか。
もっとも、そんなことなど、政治家のおれが考えても仕方がないことだ。
なぜなら、地球は、そんな些細な問題など、吹き飛ばしてしまうような問題に襲われていたからだ。
異星人が、ナンジャラゲの飛散を抑えるために、地球の周りをチェルノブイリの際の石棺のようなもので覆ったのかって?
違う。
地球は、やつら異星人どもの、「ナンジャラゲ汚染物質」の廃棄所、ゴミ捨て場になってしまったのだ。
科学技術が違いすぎ、おれたち人類はなにもできないまま、ナンジャラゲ汚染物質に埋もれていくのだ。ナンジャラゲは人類に何の影響も与えなかったとしても、汚染されたといわれる、ガラクタというか、産廃というか、とにかく持ち込まれて投下されてくる形あるものは、その質量だけでも、おれたちにとっては絶滅を意味した。
ほら、今日も、大量のナンジャラゲ汚染物質を満載した宇宙船が、太陽系に飛んでくる……。
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Re: 矢端想さん
このショートショートは、ニュースで見た、「放射能汚染が疑われる震災後のガレキ」からアイデアをふくらませました。不謹慎でゴメンナサイ……。
でもあのガレキ、どうするんだろう。東京都が全部引き取る……わけがないよなあ。1万トンは少なくない量だが、ガレキの総量はふたつみっつケタが違うし。人体に深い影響はないとは思うけれど、いったん放射能に対する風評被害がたつとどうなることかをこの半年の間にまざまざと見せつけられれば、どこの自治体も難色を示すだろうしなあ。
どこの地域が、この小説の「地球」みたいな目にあうことになるのか、考えるだけで暗澹となります……。
でもあのガレキ、どうするんだろう。東京都が全部引き取る……わけがないよなあ。1万トンは少なくない量だが、ガレキの総量はふたつみっつケタが違うし。人体に深い影響はないとは思うけれど、いったん放射能に対する風評被害がたつとどうなることかをこの半年の間にまざまざと見せつけられれば、どこの自治体も難色を示すだろうしなあ。
どこの地域が、この小説の「地球」みたいな目にあうことになるのか、考えるだけで暗澹となります……。
ナンジャラゲは存在し得ます。
物理的な科学機器で測定できないものは、存在しないと断定してしまうのが、人類の傲慢さです。「霊」の類とか。
発見されるまで放射能も電波も赤外線もこの世になかったのですから。
白状します。「ナンジャラゲ」って最初、「トオリマ」的地口オチかと思いました。ゴメンナサイ…。
物理的な科学機器で測定できないものは、存在しないと断定してしまうのが、人類の傲慢さです。「霊」の類とか。
発見されるまで放射能も電波も赤外線もこの世になかったのですから。
白状します。「ナンジャラゲ」って最初、「トオリマ」的地口オチかと思いました。ゴメンナサイ…。
Re: るるさん
「ナンジャラゲハ、ナンジャラゲデス。ナンジャラゲヲ、ナンジャラゲトイワズシテ、ナニヲ、ナンジャラゲトヨブノデスカ」(異星人・談)
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Re: YUKAさん