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    落ちる

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     落ちる。

     落ちていく。

     落ちていくという直感だけがある。

     周囲は漆黒の闇。見えるものは何もない。身体にも、落ちているという感覚はない。見かけ上、重力を感じない、自由落下状態にいたとしても驚かない。しかしわたしには、自分が刻一刻と落ちつつあることがわかっている。

     わたしは……。

     誰だったか。すでに忘れて久しい。もしかしたら、なにかによって個人的な記憶を奪われたのかもしれない。どちらにせよ、自分が誰で、どうしてここで落ちているのか、わからないのだから構わないようなものだが。

     今も落ちている。そしてわたしはどこかにたどり着くだろう。わたしはここに来る前、どこか別なところにいた、という薄ぼんやりした確信があるということは、この落下もどこかで終わらなければならない、ということだ。

     幸運というか不幸というか、名前や、これまでの経歴や、そうした個人的なことがらはすっぽり抜け落ちていても、わたしにはそのほかのことではしっかりした記憶を保っている。水の氷点はセ氏で零度、華氏で三十二度。絶対温度では二百七十三・一……よそう。

     だから、わたしは、いくらかの推論ができる。わたしは、いつかこの闇の底へたどり着くのかもしれない。そこで何が起こるかはわからないが、それはひとつの結末でありうるだろう。

     もしかしたら、わたしは、落ちていると思っているが、実際は、目に見えぬ、なにか巨大な質量の物体の、衛星軌道を回っているのかもしれない。それならば、無限に落ちていくという感覚もうなずける。衛星軌道を衛星が回るということは、常に落ち続けている、というも同じだからだ。

     そして三つ目のあるべき解答は、わたしは、落ちているのではなく、上昇しているのかもしれない、ということだ。下方ばかりに落ちるだけが、落ちることではあるまい。わたしには下方としか思えぬところが実は上方で、この闇の底ではなく、はるか上方の、これまたどことも知れない終着点で、わたしは旅を終えるのかもしれない。いわば、わたしは下方へと上昇しているのだ。それも一つの結末だ。

     別に上や下と決まったわけでもないだろう。わたしは横に落ちているのかもしれないし、斜め上に、いや下に、落ちていきつつあるのかもしれない。

     わたしにわかっているのは、自分が落ちているということだけだ。

     無窮の闇の中を、ただひたすら、どこかへ落ちていくこの無限とも思える時間の中で、わたしはふと、なにか懐かしいものを思い出したような気がする。

     同じように、盲目のまま、どこへとも知らずに、何が待っているのかわからぬ結末へと、猛烈な勢いで向かう旅を。

     そう、それは……「人生」とかいわなかっただろうか?

     わたしは落ちる。

     どこまでも。
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    これを書いたときは、ひとりで生活できるのかどうか悩みに悩んでいたうえにまたいろいろと問題が出てきて頭がぐちゃぐちゃになりかけていましたので、自然とこうなってしまいました(^^;)

    ちと反省。
    • #7652 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.04/09 07:24 
    •  ▲EntryTop 

    おはようございます^^

    おお!
    これは随分哲学っぽい感じが。。。

    落ちる――この感覚はちょっと怖いですね。
    底の無い感じは特に。

    お悩み中に書かれたSSでしたか?^^

    Re: ゆういちさん

    だれでもそういうときはあるものです。しかし、暗い話ばかりしているとどんどん暗くなり、しまいには「暗い話自慢」大会になり、そして最終的にはエスカレートの挙句に大喜利と化してしまうものですから、お互い反省して身を慎みましょう。

    ちなみに、うちのブログが反応しなくなったら、リロードするか、下のバーに出てくる「Home」ボタンをクリックしてください。そうすれば反応すると思います。わたしのPCもちょくちょくそうなるんです。それでも使い勝手がいいから使っておりますが……。

    Re: limeさん

    いや、鬱状態はコミケとは別でして(ダメ押しにはなったけど)。

    もう大丈夫です。ブログにUPする小説を4日先のぶんまで書いたら思い切り楽になりました。

    ブログ健康法。(おい)

    とりあえず委託先を探し回らなければ……人格を疑われるような危険な同人誌ばかり作っているとこういう時に困るであります。(笑)

    こんばんはい

     受験も落ちた。
     ワンフェスも2回落ちた。
    (※危うく出禁になりかけた)
     気持ちも落ちた。

     そしてバッドスパイラル中の私です。

     落ちるで思い出したのですが、このブログでたまに閲覧不能になる時が……各カテゴリをクリックしても右側に出るはずの項目が表示されない時があります。私のPCだけなのでしょうか? 謎でっす。

     

    ちょっと、立ち直れましたか?^^
    そっか、コミケと言うのが、ポールさんのなかでそんなに大きなものだとは・・・。

    おちていく感覚、あれは怖いですねぇ。
    孤独という不安。いやあ、もう、思い出したくもないです。

    しかし、このSSを笑って読める人間は、みな健やかです。
    ある意味、心の健康測定器ですね。

    Re: けいさん

    宇宙のような、上も下もない世界では、落ちるとは上昇のことでもあり得ます。

    そして上昇とは下降のことでもあり得ます。

    そういうどうでもいいことにこだわる哲学科(笑)

    周りについては……いつか見えたらいいですね(え)

    落ちる落ちる、という感覚。
    最初は目をつぶっちゃうかもしれませんが、
    開いた時、周りが見えると良いな(?)

    落ちた後は、上昇のみ。

    Re: ぴゆうさん

    お言葉ありがとうございますm(_ _)m

    これを書いた時はちょっと気分が落ち込んでいたもので(汗)

    でも、もう大丈夫であります。

    読んでくださる読者の方がいる限り、わたしは孤独ではありません。

    やるぞ~。

    確かに孤独だわな。
    生まれるのも一人、死ぬのも一人。
    だけどねぇ。
    人生まで孤独にするのはその人自身だと思う。
    わかってくれ、わかって欲しい。
    そればかりだったら、誰が理解できる?
    自身を理解できる者なんてこの世にはいない。
    それよりも一歩引いて、相手をわかろうとする。
    不思議と共通点が見いだせるもの。
    共通点が一つでもあれば、共有ができる。
    共に分かち合えるものが出てくる。
    どこか一つでも重なり、触れ合うものがあればいいのではないかね。
    何も全て重ねようと思わなくていいし、それはないのだから。
    そうすれば、孤独ではない。
    人生を孤独だと断じるには早いよ。

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    Re: ぴゆうさん

    でも人生というものはある意味そういうものではないでしょうか。

    人間、誰も本質的には孤独……。(鬱状態(^^;))

    なんか無間地獄みたいだわ。
    暗闇に一人ポツン。
    時間の感覚も自身さえわからなくなり、
    最後には自分を傷つけることで存在を確認する。
    v-399
    きょわーーーい

    Re: 矢端想さん

    よく考えたらそうだ!(汗)

    でも発表してしまったし。

    たぶんこの語り手は、「上へ」向かって落ちているのでしょう。

    爪先から天頂を蹴り破ってパラダイスへと到着するのであります。きっとそうです。

    ポール先生っ!受験生も見ていることですし・・・(汗)
    あ、彼らの身代りにこっちで落ちといてあげた方がいいのか。さすがだなあ先生。

    「落ちて、落ちて、落ちました・・・」
    (不思議の国のアリス)

    Re: 秋沙さん

    筒井康隆先生に、「到着」という、ものすごくバカなショートショートがあります。

    わたしはそれを読んだときに、なぜか、すさまじいまでの恐怖を感じまして。

    ギャグと恐怖は紙一重、と思ったであります。

    う~~~~~む。
    深いですなぁ。そして、コワイですなぁ。

    いや、なんかごめんなさい。
    気の利いたコメントが浮かびません。(いつもだけど)
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