「ショートショート」
その他
黒いふくの男
ある日、けんたくんは、家でるすばんをしていました。
「あ~あ、たいくつだなあ。だれか、おしゃべりできる人かなにかが、あそびにこないかなあ」
まい日あそびすぎて、ゲーム機も、テレビも、コントローラーを取りはずされてしまっていたのです。
おかあさんは、「べんきょうするか、本をよみなさい」といって、パートのしごとに行ってしまいました。
マンガはぜんぶ、あきるほど読んでしまったし、むずかしい本は、ちっともおもしろくありません。
けんたくんは、ぶつくさもんくをいいながら、ひとりでぼおっとしているしかありませんでした。
なんとなく、うとうとしかけたとき……。
けんたくんは、ふと、なにか、あかるい光を放つものが、すぐそばを飛んで行ったような気がしました。
はっと、そちらを見ると、手の上にのるほどの大きさの、ぼんやり光るかたまりが、ふわふわとういていました。
「なんだろう?」
けんたくんは、そちらに手をのばそうとしました。
「あぶないっ!」
けんたくんは、うしろから、いきなり手がひっぱられてびっくりしました。
うしろを見ると、まっ黒なふくをきた、うすきみわるい男が立っていました。
「あぶないところだったね」
男は、けんたくんに、どこかぶきみな声でいいました。
「おじさんは、だれ?」
「あれを追いかけているものさ」
男は、手をのばすと、逃げようとする光のかたまりを、むんずとつかみました。
「それは、なに?」
男はふくみわらいをもらしました。
「電気のせいれいだよ。ただしくは、たいき電力のせいれいさ」
「たいき電力?」
「そうだよ。こいつは、ふだんは、電せんや電気きぐの中にすんでいるんだが、きみたち人間が、電気をむだに使っていると、ふわふわとこうして外へ出てくる……これにさわったら、きみみたいな子供は、びりびり、しびれてしまうんだ」
「それだけなの?」
「もちろん、それだけではないさ」
男は、くわっと、耳までさけた大きな口を開けました。
「こいつは、われわれ、じごくのあくまのたべものになるんだ。人間がむだづかいした電気ほど、おいしいものはほかにないからね」
男は、光るかたまりを、口の中にぽいと放り込み、もぐもぐとあごをうごかすと、それはそれはおそろしい声でわらいました。
「きみたちが、電気をむだに使ってくれればくれるほど、わたしたちはまんぷくになるんだ。そうすれば、よりいっそう、わるいことをする力がわいてくるというものさ」
男のからだがぐうっとふくらんで、けんたくんをつつみこみ……。
けんたくんは目をさましました。
ぼーん、と、時計が時を打ちました。四じはんになったところでした。
おかあさんは、まだ帰ってきません。
けんたくんは、こわくてこわくて、しくしくとなきだしました……。
「あれでよかったんですか、電気のせいれいさん」
夕やみがおおいはじめた、ほかにはだれもいないろじうらを、さっき、けんたくんをおどろかせた黒いふくの男と、光りながらふわふわ飛んでいくぼんやりとしたかたまりとが、ならんでおしゃべりをしながらあるいておりました。
光のかたまりは、澄んだ声で、黒い服の男にいいました。
「ええ。こどものうちからあのくらいおどかさないと、人間は、電気をむだにつかうことをやめることはしないでしょう。やみのせいれいさん、あなたが助けてくれて、わたしたちは、ほんとうにかんしゃしています」
「電気や光がないと、やみはやみでなくなってしまいますからね。でも、わたしがあなたを食べるふりをするのは、もう、つづけたくないですよ。あなたを口におしこむと、わたしのからだが、びりびり、しびれてしまうんですから。なんとかがまんしていますけれど、もっとほかに、人間のこどもをおどかすほうほうは、ないんですか。じごくのあくまだなんて、まったく、いやなやくだなあ」
「いやなやくでも、おねがいします。電気のむだをなくすために、つぎのこどもの家に、いそぎましょう。わたしたちには、あまりじかんがないんですから」
「人間たちが、それに気づけばいいですけれどね。あああ、わりのあわない、しごとだなあ」
ふたりのせいれいは、まがりくねったみちを、どこかべつのまちへとむかっていくのでした。
「あ~あ、たいくつだなあ。だれか、おしゃべりできる人かなにかが、あそびにこないかなあ」
まい日あそびすぎて、ゲーム機も、テレビも、コントローラーを取りはずされてしまっていたのです。
おかあさんは、「べんきょうするか、本をよみなさい」といって、パートのしごとに行ってしまいました。
マンガはぜんぶ、あきるほど読んでしまったし、むずかしい本は、ちっともおもしろくありません。
けんたくんは、ぶつくさもんくをいいながら、ひとりでぼおっとしているしかありませんでした。
なんとなく、うとうとしかけたとき……。
けんたくんは、ふと、なにか、あかるい光を放つものが、すぐそばを飛んで行ったような気がしました。
はっと、そちらを見ると、手の上にのるほどの大きさの、ぼんやり光るかたまりが、ふわふわとういていました。
「なんだろう?」
けんたくんは、そちらに手をのばそうとしました。
「あぶないっ!」
けんたくんは、うしろから、いきなり手がひっぱられてびっくりしました。
うしろを見ると、まっ黒なふくをきた、うすきみわるい男が立っていました。
「あぶないところだったね」
男は、けんたくんに、どこかぶきみな声でいいました。
「おじさんは、だれ?」
「あれを追いかけているものさ」
男は、手をのばすと、逃げようとする光のかたまりを、むんずとつかみました。
「それは、なに?」
男はふくみわらいをもらしました。
「電気のせいれいだよ。ただしくは、たいき電力のせいれいさ」
「たいき電力?」
「そうだよ。こいつは、ふだんは、電せんや電気きぐの中にすんでいるんだが、きみたち人間が、電気をむだに使っていると、ふわふわとこうして外へ出てくる……これにさわったら、きみみたいな子供は、びりびり、しびれてしまうんだ」
「それだけなの?」
「もちろん、それだけではないさ」
男は、くわっと、耳までさけた大きな口を開けました。
「こいつは、われわれ、じごくのあくまのたべものになるんだ。人間がむだづかいした電気ほど、おいしいものはほかにないからね」
男は、光るかたまりを、口の中にぽいと放り込み、もぐもぐとあごをうごかすと、それはそれはおそろしい声でわらいました。
「きみたちが、電気をむだに使ってくれればくれるほど、わたしたちはまんぷくになるんだ。そうすれば、よりいっそう、わるいことをする力がわいてくるというものさ」
男のからだがぐうっとふくらんで、けんたくんをつつみこみ……。
けんたくんは目をさましました。
ぼーん、と、時計が時を打ちました。四じはんになったところでした。
おかあさんは、まだ帰ってきません。
けんたくんは、こわくてこわくて、しくしくとなきだしました……。
「あれでよかったんですか、電気のせいれいさん」
夕やみがおおいはじめた、ほかにはだれもいないろじうらを、さっき、けんたくんをおどろかせた黒いふくの男と、光りながらふわふわ飛んでいくぼんやりとしたかたまりとが、ならんでおしゃべりをしながらあるいておりました。
光のかたまりは、澄んだ声で、黒い服の男にいいました。
「ええ。こどものうちからあのくらいおどかさないと、人間は、電気をむだにつかうことをやめることはしないでしょう。やみのせいれいさん、あなたが助けてくれて、わたしたちは、ほんとうにかんしゃしています」
「電気や光がないと、やみはやみでなくなってしまいますからね。でも、わたしがあなたを食べるふりをするのは、もう、つづけたくないですよ。あなたを口におしこむと、わたしのからだが、びりびり、しびれてしまうんですから。なんとかがまんしていますけれど、もっとほかに、人間のこどもをおどかすほうほうは、ないんですか。じごくのあくまだなんて、まったく、いやなやくだなあ」
「いやなやくでも、おねがいします。電気のむだをなくすために、つぎのこどもの家に、いそぎましょう。わたしたちには、あまりじかんがないんですから」
「人間たちが、それに気づけばいいですけれどね。あああ、わりのあわない、しごとだなあ」
ふたりのせいれいは、まがりくねったみちを、どこかべつのまちへとむかっていくのでした。
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~ Comment ~
先日、とあるギャグサイトに、こんな言葉がありました。
「いきなり家にあがりこんできたナマハゲが、使っていないコンセントを抜いて出て行きました。」
闇のせいれいさん、この方法もありますよ(^^)
「いきなり家にあがりこんできたナマハゲが、使っていないコンセントを抜いて出て行きました。」
闇のせいれいさん、この方法もありますよ(^^)
Re: 西幻響子さん
この、闇の精霊さんのノリノリの演技から見て、文句はこぼしているけど実はやる気まんまんだったとか(笑)。
「悪い子はいねがぁ~」(笑)
もしくは、
「もったいねえ~」(笑)
「悪い子はいねがぁ~」(笑)
もしくは、
「もったいねえ~」(笑)
Re: 飛翔掘削さん
うっ、書いた本人としてもそこを突かれると弱い(笑)
今日は早く寝よ……(^^;)
今日は早く寝よ……(^^;)
読んだあとに思わずにっこりするような、ほんわかしたいい話でした ^^
「黒いふくの男」という文字を見たとたん思わず「笑うセールスマン」を想像してしまったのですが、、、
「じごくのあくまだなんて、まったく、いやなやくだなあ」なんて言っちゃう、実はとても可愛らしい男のひとだったのですね(笑)
「黒いふくの男」という文字を見たとたん思わず「笑うセールスマン」を想像してしまったのですが、、、
「じごくのあくまだなんて、まったく、いやなやくだなあ」なんて言っちゃう、実はとても可愛らしい男のひとだったのですね(笑)
ネットなどして無駄に時間と電力を消費しないで早く寝なさい、という事でありますね(苦笑)!
おやすみなさい!
おやすみなさい!
Re: るるさん
確かに一理あるけれど、人間は「易きに流れる」性質がありますからねえ。
うむむ。
うむむ。
Re: ぴゆうさん
うっなんと返せばいいかわからん(笑)
たまには教訓話めいたものも書かなくては、と。
とはいえ日本人は「喉もと過ぎれば」を地で行く忘れっぽい民族だからなあ。
たまには教訓話めいたものも書かなくては、と。
とはいえ日本人は「喉もと過ぎれば」を地で行く忘れっぽい民族だからなあ。
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Re: 秋沙さん
闇のせいれいさんがハマりそうなことを教えないでください(笑)