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    ステキなお金の使いかた

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     この前、ミズマ。さんのブログ『だから8割ウソなんだってば。』で、『ステキな金縛り』という映画の話題があったので、「『ステキな金』で小説を一本お願いします。これがほんとの『ステキな金』縛り。お後がよろしいようで」と書いたら、「鬼」といわれた(笑)。

     たしかに、人に課題を押しつけておいて自分だけのうのうとしていては、悪いだろう。

     というわけで、ショートショートを考えてみることにした。

     最近の更新では、恋愛ものが思いのほか好評だったので、自分を鍛える意味も込めて、恋愛小説にしてみた。

     失うものはなにもないので、ある意味楽だ。

     以下どーん。



    ※ ※ ※ ※ ※




    ステキなお金の使いかた


     あたしが彼と食事していたのは、ロマンチックさなんてかけらもない、駅前のファミレスだった。なぜそこのファミレスだったかって? そりゃ、ディナーが500円でドリンクバーつきという、出血大サービスというもおこがましいサービスデーだったからだ。貧乏な派遣OLと、これまた貧乏な駆け出し画家のカップルでは、食べに行く場所も限られているのだ。

     ことさらに寒い日だった。あたしと彼は、熱いコーヒーを三杯飲み、ほっと息を吐き出した。それが同時だったので、ふたりで顔を見合わせて笑った。

     彼が外を見た。

    「降りそうだね」

     あたしは首を振った。

    「降らないわよ」

     今朝、起き抜けに、高い金をふんだくられたチューナーを通し映りの悪いブラウン管テレビで見た天気予報は、玉虫色の予報をしていた。そんなときは、たいてい晴れになるのだ。

     それで会話は終わりだった。よくよく考えたら、ものすごく枯れた会話だった。交際して半年、いきなり老後かよ、である。

     老後なら老後で、いつまでも彼とこうしてこのファミレスでだべっていたい、という思いもあったが、貧乏な人間は休みなく働かなければ飢えて死ぬ、というのがこの世の根本原理である。

     あたしたちは、明日も仕事のために早起きをせねばならないのだった。

     財布を出して、それぞれお金を出した。彼の財布には八百円が入っていて、あたしの財布には五百八十五円が入っていた。

     高校生のデートでもあるまいし、なぜにこんなときにワリカンをせねばならないのだ。あたしはこの不況と、お互いをほぼ同時に襲った『お役所からの突然の支払い請求』を思って歯噛みした。だから、あたしは自分の財布の中身が八十五円になっても、彼を恨まなかった。なぜなら、彼は家に帰るためには、二百二十円払って私鉄に乗らなければならないからだ。

    「出ようか」

     彼がいった。それで、この、一か月ぶりのまともな外食つきデートは終わりを告げた。

     店の外で、あたしは駅に向かう彼にキスし、そして背を向けると自分の住んでいる安アパートへ続く三キロの道を歩き始めた。

     歩いて五分もしない時だった。

     ぽつり、ぽつりと雨が降ってきた。

     いやな展開だ。

     こういうときにぴったりの言葉が、英語にある。『降れば土砂降り』というのだ。意味は、『貧すれば鈍す』であるが、ずぶぬれになりそうなあたしにはどうでもよかった。

     あたしは運よく目の前にあった、屋根つきのバス停に駆け込んで難を逃れた。このコートは、あたしの持っている中で一番暖かいコートなのだ。これを濡らすと、クリーニング代にも困っている今、これから冷える季節をどう乗り切るかについて苦渋の決断をせねばならない。

     ちっとも、『運よく』ではなかったことに気づいたのはそれから三十秒もしないうちだった。

     土砂降りの音は、ザーザー、から、ドードー、に変わっていた。もう好きにしてくれ、といいたくもなる。

     あたしは待合所のベンチに座り、ため息をついた。肺炎にもなるようなひどい風邪をひいたら、どうしよう。健康保険証はあるけれど、三割負担でも医者にかかるのは厳しすぎる。とはいえ仕事を休むと……。

     どんどん考えが暗いほうに向かっていく。あたしは、世の中の不幸が全部押し寄せてきたような気分になっていた。

     誰かの影が、待合室の入口から入ってきた。

    「こんなことじゃないかと思っていたんだ」

     あたしの目の前で、傘を畳んで微笑みかけてくれたのは、彼だった。

    「な……なんで、あなたがここにいるの? それに、あなたも、傘を持っていなかったでしょう?」

    「追いかけてきたんだ。どう見ても降る天気だったからね」

     彼は、安物のビニール傘を指差した。

    「こんな日に三百円なら、誰だって買うだろ? ささやかなプレゼントさ」

     彼は、あたしにビニール傘を渡すと、「おやすみ」といって、背を向けた。

    「待って!」

     あたしは叫んでいた。

    「この傘、無理すれば、二人は入れるわ」



     これが、あたしがこれまでに体験した、一番ステキなお金の使いかた。たった三百円だけど。
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    無邪気に「いいなあ……」と思うもてない歴=年齢の男(笑)

    こういうところから同棲が始まるんでしょうかね…

    Re: YUKAさん

    この小説のテーマは、

    「優しいだけじゃご飯は食えない」ということで(ウソ)

    おはようございます^^

    わぁ~~~素敵♪
    彼の優しさが伝わります^^

    「あたし」愛されてますね~~^^

    Re: 西幻響子さん

    そうか恋愛小説を山ほど読んでそちらの方面に進んでいれば、わたしも華麗にデビューできて今ごろは印税ガポガポのウハウハ生活ができていたわけか(←違)

    ちなみに本人は時代に先駆けて早く生まれすぎた完全な草食系男子です(泣笑)

    うわ~っ、またまた粋なものを書いてくれましたね!
    limeさんもおっしゃってますが、ポールさん、恋愛ものに向いてますよ ^^
    今日は雨が降っているので、よけいにリアルに読めました。

    Re: 矢端想さん

    もうほんとに作者が赤面しながら書いているもので(^^;)

    ラブコメ(死語)を中心に書いている人って、どんな顔して書いているんだろう、と、たまに思います。

    いいですねえ、恋愛もの・・・(キャー)

    でも書くの、恥ずかしいですよねえ(キャー)

    自作で自覚しているのは「放浪娘IV」ぐらいですが、せいぜいあの程度・・・(キャー)

    そう、実際に大方は縁もゆかりもない創作だから恥ずかしがる必要なんかないのに。
    恋人あんなことされてないし。

    Re: 面白半分さん

    いやあ、恋愛ものは楽しいなあ。

    「縁もゆかりもないこと」を書けばいいんだもんなあ。

    それでみんなが喜んでくれれば万々歳だ。あっはっは……(血涙)

    ものすごくステキです。
    ちょっとくすぐったいですけどね。

    Re: limeさん

    むふふな小説は書いたとしてもこのブログにはUPしません。そのときは別の名前で、指紋を拭き消してから、誰も知らないところで立ち上げます。

    ほら、ここ、いちおう、全年齢対応の健全なブログだしー(笑)。

    なんか、厳しい生活苦を感じながらも、心温まる展開でした。
    ポールさんらしさも、ばっちり。
    やっぱりほら、ポールさん、恋愛もの向いてますよ。
    そのうちちょっとばかりむふふな小説も・・・。ない?

    素敵な金縛り、ぜったい観に行かなきゃ!
    三谷さん、大好き。

    Re: ミズマ。さん

    書き忘れていましたが、小説のほうはどうぞお持ちください(^^) わたしも無茶振りやったので(^^)

    Re: ミズマ。さん

    じゃ今度はミズマ。さんの番ね(←鬼)。

    作者のわたしは彼女を見捨てて私鉄に乗って帰る、冷酷非情なタイプです(おい……(--;))

    この二人、次の日はどうやって出勤したんだろう。まあ最近ではコンビニにもATMがあるご時世だけれど。(意味深)

    「鬼」って言って良かった!←

    お金の話だから、てっきり世知辛いような方向に行くと思いきや、恋愛ものですか!
    どうもありがとうございます!恋愛もの、好きです!

    幸せそうですね、この二人。お金があることは幸せと同義ではない、ということですねー。
    画家の彼が優しいなぁ、でも結婚したら苦労しそうだなぁ、でもなんだか放っておけない気がするから、申し込まれたら結婚しちゃいそうだなぁ。でも申し込んでくれるまで、時間がかかりそうな気がするなぁ。

    映画観て、長々とネタばれ書いたかいがありました。
    こちら、いただいてもよろしいのでしょうか……?

    さて、次回はどんな恋愛ものが読めるのかなー?←
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