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    昔話シリーズ(掌編)

    がつがつ姫とやせ薬の昔話

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     昔、昔、あるところに小さな王国がありました。

     王国の民は、一人の人間を除いて、王様をはじめ、皆がまわりの国に対して恥ずかしい思いをしておりました。

     その幸福なのか、不幸なのかわからない一人の人間とは、王様の一人娘である王女様でした。

     この王女様というのが、それはそれは……巨象、いや、小山のような姫君でした。

     朝から晩まで、食べること食べること。肉をがぶり。果物をがぶり。甘いものならもちろんばくばくと。それはまるで底なしの胃袋を持っているかのようでした。

     誰とはいわず、ついたあだ名が「がつがつ姫」。

     当然ながら、姫は、立って歩けないほどに、ぶくぶくに太っておりました。繰り返しますが、その姿は巨象を通り越して小山のよう。全身これ、脂肪でできているといってもいいすぎではありません。それが、ずるりずるりと床を這い進む様子と来たら……ああ、なんといえばいいのでしょうか。

     王様は、ほとほと困り果てていました。何とか食欲を抑えようと、地下に修行場を作り、そこで断食をさせようとしたこともありますが、姫は壁土と岩を食べて食べて食べまくり、危うく城を傾かせてしまうところでした。これならば、まだ日の当たるところにおいておいたほうがましです。

     そんなお姫様でも、王位継承者には違いありません。お婿さんを迎えて、王国を継いでもらわなければ、国は絶えてしまいます。

     しかし、どこの物好きな貴族が、このような姫をおきさきに迎えようとするでしょう。当然のことながら、結婚話は破談ばかりでした。

     お姫様は、今日もまた、がつがつと食べて飲み続けているのでした。

     とうとう、困り果てた王様は、立て札を立てて、お布令を出しました。

    『姫を痩せさせる薬を持ってきたものには、金貨五千枚を褒美として与えるものなり』

     しかし、ひと月を過ぎても名乗り出るものはいませんでした。かつて、王様の家臣のひとりが、あまりの恥さらしに耐えかねて、お姫様を毒殺しようとしたものの、お姫様は致死量をはるかに超える毒薬を食べて、げっぷをし、さらにもりもり食べたからです。

     そのような化け……いえ、姫様を、どうやって痩せさせろというのでしょうか。

     ふた月目も過ぎようというある夜のこと、ひとりの怪しげな老人が、城の門を叩きました。

    「姫を痩せさせたら金貨五千枚というのは、ほんとうかな?」

    「ほんとうだが、ご老人はその方法を知っておるのか? 詐欺を働くようだったら、王国の法が厳しい罰を与えるぞ。断っておくが、あの姫様は、ただの人ではないのだ」

    「もちろん知っておるとも」

     老人は、乱杭歯をむき出しにして笑いました。

    「なに、わしも古代の呪法を研究するもの。国王陛下に取り次いでいただこう。金貨などいらん。この、身体の中から脂肪を追い出し、伸びきった皮膚をぎゅっと元通りにし、どんな太った人間でも、まともな身体に戻す薬の効果を試せるならば、どんな罰でも甘んじて受けようではないか」

     門番は、この老人の怪しい身なりを警戒しましたが、王様がお布令を出していた以上、取り次ぐしかありません。

     老人の言葉を家臣より聞いた王様は、半信半疑の末、その薬とやらを試してみることにしました。

    「まずは姫君を城の一番高いところに押し上げるのじゃ」

     王様のご家来衆が、二十人がかりで、えんやこらと城のてっぺんにある礼拝堂まで運びました。

    「ご家来衆は下がっていたほうがいいのう。さ、姫、この緑の丸薬を飲むのじゃ」

     家来を階段の下に追いやった老人は、そういうと丸薬を姫の口に放り込み……自分はひょいと天井から吊り下げられた鐘の上に飛び上がりました。

     老人の言葉はたしかでした。

     姫の体から、大量の脂肪が、油となって染み出し、それはみるみるうちに洪水のようになって城とご家来衆の上に降り注ぎました。

     油の洪水は、城を埋め尽くしただけでは止まりませんでした。街を埋め、村を埋め、畑を埋め……そのあふれでた脂肪は、とどまるところを知りませんでした。

     しまいには、王国は脂肪に埋もれて滅亡してしまいました。

     そして、今や皮膚が引き締まり、脂肪もなくなってスマートに、そして見違えるように美しくなったお姫様の前で、老人がひとこと呪文を唱えると、ぼんという音とともに煙が立ち昇りました。

     煙が消えた後、そこに立っていたのは、邪悪な笑みを浮かべた、美しいひとりの若者でした。

    「さあ、行こうか」

     若者と姫は、手に手を取って、どこか誰も知らない場所へ行ってしまったということです。それがどこかなど、知りたくもありませんが。
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    ~ Comment ~

    Re: あかねさん

    ぞわっとするというか……救いがないというか……。

    ひたすらバカバカしいだけのホラ話を書いたつもりでいたんですけどわたし(^^;)

    ふたりの異端者は、どこかわたしたちの知らない世界で楽しくやってるんじゃないでしょうか。どんなところかなんて知りたくもないですけど(^^;)

    こういうのも好きです

    もしかしてこの姫さまは、敵国を滅亡させるために送り込まれてきた某国のスパイ?
    なんてことも考えつつ、私もこのラストにはぞわっとしました。

    これも一種の救いようのない結末、そういうのは読む分には大好きなのですが、オンライン小説はハッピィエンドが主流のようですね。

    救いようのない結末ストーリィは、力量がないと書けないのでしょうね。
    私にももちろん書けませんから。

    Re: 歌さん

    とにかく、バカバカしくて、ナンセンスで、不条理で、どこかタガの外れたような作品が書きたくて書きました。

    書いてみると、書いているときは実に楽しかったです(^^)

    またこんなバカバカしい話を書こうかな(^^)

    脂肪で滅亡……おっそろしいですな……! 史実になってほしくありませんな!
    何故だかラストの邪悪っぷりにときめきました。

    Re: るるさん

    そうともかぎりませんよ。

    この若者にとって、現世の財貨など……(^^)

    この若者……。
    連れて行った先でも姫様に食いつぶされるんだろうな。
    金銭的な意味で……。

    あわれ。
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