「ショートショート」
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新釈童話 続・裸の王様
子供に「王様は、裸だ」といわれて、世間の笑いものになった王様は、復讐の一心のあまり、四方八方に追っ手を放ち、あのにっくき仕立て屋を捕えようとしました。
三か月後、仕立て屋は捕えられました。
「そちは、よくもありもしない衣服を、『利口な人にしか見えない服』だなどといって騙して売りつけたな」
仕立て屋はびっくり仰天しました。
「そんなことはございません。わたくしは、王様のために、珍重される素材を使って、『利口な人にしか見えない服』を仕立てたのでございます」
王様は怒りました。
「ええい、そんな服が、どこにあるというのだ」
仕立て屋は答えました。
「その、部屋の隅にございます。もし見えずとも、触ってごらんなさい。確かに『ある』ということがわかるはずでございましょう。そうでもなければ、服を着ても暑さ寒さをしのぐことはできませぬ。いや、『服を着る』ということ自体ができませぬ」
王様は、うさんくさそうに部屋の隅に歩いていくと、手を伸ばしました。
あります。仕立て屋のいうとおり、手触りだけならたしかに感じられます。しかし、王様の目には、その衣服がまったく見えないのでした。
「仕立て屋」
「はっ」
「嘘をつけ! ここには、なにもあらぬではないか!」
「えっ! しかしたしかに……」
仕立て屋は抗弁しようと立ち上がりかけましたが、おつきの衛兵に取り押さえられました。
「大臣、こやつがあるといった服が、見えるか?」
「いいえ。わたくしには全く見えませぬ」
「博士、お前には?」
「見えませぬ」
「そうだろう。このものの罪状は明白。今すぐここで、首を打てい!」
首切り人が、斧を持って現れました。
取り押さえられた仕立て屋は、最後の力を振り絞って叫びました。
「この……この国の連中は、国王以下、年端もゆかぬ子供まで、全員、『バカ』だったのか! この国には、『利口な人』は、ひとりもいなかったのか!」
斧が一閃し、仕立て屋の首は、飛びました……。
三か月後、仕立て屋は捕えられました。
「そちは、よくもありもしない衣服を、『利口な人にしか見えない服』だなどといって騙して売りつけたな」
仕立て屋はびっくり仰天しました。
「そんなことはございません。わたくしは、王様のために、珍重される素材を使って、『利口な人にしか見えない服』を仕立てたのでございます」
王様は怒りました。
「ええい、そんな服が、どこにあるというのだ」
仕立て屋は答えました。
「その、部屋の隅にございます。もし見えずとも、触ってごらんなさい。確かに『ある』ということがわかるはずでございましょう。そうでもなければ、服を着ても暑さ寒さをしのぐことはできませぬ。いや、『服を着る』ということ自体ができませぬ」
王様は、うさんくさそうに部屋の隅に歩いていくと、手を伸ばしました。
あります。仕立て屋のいうとおり、手触りだけならたしかに感じられます。しかし、王様の目には、その衣服がまったく見えないのでした。
「仕立て屋」
「はっ」
「嘘をつけ! ここには、なにもあらぬではないか!」
「えっ! しかしたしかに……」
仕立て屋は抗弁しようと立ち上がりかけましたが、おつきの衛兵に取り押さえられました。
「大臣、こやつがあるといった服が、見えるか?」
「いいえ。わたくしには全く見えませぬ」
「博士、お前には?」
「見えませぬ」
「そうだろう。このものの罪状は明白。今すぐここで、首を打てい!」
首切り人が、斧を持って現れました。
取り押さえられた仕立て屋は、最後の力を振り絞って叫びました。
「この……この国の連中は、国王以下、年端もゆかぬ子供まで、全員、『バカ』だったのか! この国には、『利口な人』は、ひとりもいなかったのか!」
斧が一閃し、仕立て屋の首は、飛びました……。
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~ Comment ~
仕立て屋さん服は見えても
王様が馬鹿だと言う事は見えなかったか
正論を言うより、おだてて楽しい気分にさせるほうが
成功はしやすそうですけども…
王様が馬鹿だと言う事は見えなかったか
正論を言うより、おだてて楽しい気分にさせるほうが
成功はしやすそうですけども…
Re: limeさん
甘いラブロマンスを続けて書いた反動だったりして(笑)
どっちかといえば、これは「ミステリ」に入れるべきだったかなあ。歴史ミステリならぬ童話ミステリ(笑)。
ポール・アンダースンの短編SFに、中世へタイムスリップした男が、農奴たちの悲惨な暮らしを民主主義の思想で救おうとして、当の農奴たちから「この不信心者め」と殺されてしまう、というやりきれない話があったなあ。それがちょこっとまじっているかな。タイトルは度忘れしたけど。
どっちかといえば、これは「ミステリ」に入れるべきだったかなあ。歴史ミステリならぬ童話ミステリ(笑)。
ポール・アンダースンの短編SFに、中世へタイムスリップした男が、農奴たちの悲惨な暮らしを民主主義の思想で救おうとして、当の農奴たちから「この不信心者め」と殺されてしまう、というやりきれない話があったなあ。それがちょこっとまじっているかな。タイトルは度忘れしたけど。
いやあ~~、最高に面白い!
このブラック加減が最高です。
でも、確かに怖い・・・。
こんなふうに、政治的に抹殺された人々の叫びが聞こえてきそうです。
利口であることと、幸せであることは、イコールではないのかもしれませんね。
このブラック加減が最高です。
でも、確かに怖い・・・。
こんなふうに、政治的に抹殺された人々の叫びが聞こえてきそうです。
利口であることと、幸せであることは、イコールではないのかもしれませんね。
Re: ぴゆうさん
現実はもうちょっと救いようがあると思いたいです。
「利口な人」には何が見えるのだか。
そもそもなにが利口でなにがバカなのか。
世の中わからないことばかりです。
「利口な人」には何が見えるのだか。
そもそもなにが利口でなにがバカなのか。
世の中わからないことばかりです。
まったく、現実そのまんまみたいだわ。
馬鹿に付ける薬は無いというけど、
馬鹿に見える服はないと言い換えないとダメかしら。
馬鹿に付ける薬は無いというけど、
馬鹿に見える服はないと言い換えないとダメかしら。
- #5708 ぴゆう
- URL
- 2011.11/12 14:49
- ▲EntryTop
Re: 秋沙さん
見えた時にはもう手遅れ、という話もあります。
まったくもうとほほほでありますなあ。
世の中どこに行ってもそんなもんですが。
まったくもうとほほほでありますなあ。
世の中どこに行ってもそんなもんですが。
Re: 矢端想さん
民主主義が衆愚政治に転化し、最終的に僭主制に移行する危険性は、二千数百年前にプラトンが警鐘を鳴らしていたとおりですが、
「ほかの政治システムよりはよほどマシ」
なのも事実です。
だから我々自身が注意しないといけないのですが。
ということとは無関係に、単に「裸の王様」をひっくり返してみれば面白いかなあ、と思って書いた作品(^^;)
うむむ(^^;)
「ほかの政治システムよりはよほどマシ」
なのも事実です。
だから我々自身が注意しないといけないのですが。
ということとは無関係に、単に「裸の王様」をひっくり返してみれば面白いかなあ、と思って書いた作品(^^;)
うむむ(^^;)
面白い。だけどコワイ(^^;
今この国に、この服が見える人がいったいどれだけいるんでしょうかね(^^;
いや、間違いなく私も見えないんだろうけど(^^;
今この国に、この服が見える人がいったいどれだけいるんでしょうかね(^^;
いや、間違いなく私も見えないんだろうけど(^^;
悪いけど、面白い。
ブラックだけど、なんだか可笑しい。
こういうことは、現実にも確かに、ある。
あるんだよ・・・。
愚衆による民主主義は、少数の正義をころす。
ブラックだけど、なんだか可笑しい。
こういうことは、現実にも確かに、ある。
あるんだよ・・・。
愚衆による民主主義は、少数の正義をころす。
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Re: ダメ子さん
正論が通じると考えたとは、この仕立屋もバカだったりして。(^^;)