「ショートショート」
ユーモア
往生
おれは、「狼閻怒狼」の仲間と、バイクを飛ばして、ボロっちい寺へやってきた。
「リーダー! 全員そろってます!」
「よし、行くぜ! 失礼がないようにしろよ!」
おれたちはぞろぞろと、寺の階段を登って行った。
カンジが、登るのにも疲れたのか、息を切らしておれにいった。
「リーダー、ケンゴのやつは、どうしてるでしょうねえ」
「バカ野郎。やつは、あの世でもバイクに乗ってるに決まってるだろ。そして、おれたちを待っているんだ。この寺になんのために来ているのか、思い出したら口を閉じとけ」
「お、押忍」
ケンゴはどうなっているかわからなかった。それも当然だ。崖っぷちの道をおれたちが暴走(はし)っているとき、カーブを曲がりきれずに、ガードレールの裂け目から、はるか下に落っこちてしまったのだ。
話じゃ、即死だったそうだが、そんなこと、頭の悪いおれだってわかる。
しかし、ケンゴが死んだことは、おれたちにとってすげえショックだった。
誰からともなく、チームを解散して、まともになろう、といいだして、とうとう今日の、解散式となったわけだ。おれが立ち上げたチームなので、先輩だ後輩だののうざったいことがなかったのは、ある意味ラッキーだった。
その前にやっておくべきことがあった。
ケンゴとおれたちを救うのだ。
なんでも、この寺には、昔から長いこと伝わる、漢字じゃなんと書くのか知らないが、「オケチミャクノイン」というハンコみたいなのがあって、それを頭に捺すと、誰でも死んでから極楽へいける、というのだ。
おれたちは、みんなして、このハンコを捺してもらい、ついでにケンゴの写真にも捺してもらって、死んだあとで、あの世で誰にも迷惑かけずに暴走(はし)ろう、と誓い合ったのだ。
それにしてもボロい寺だった。こんな寺にほんとにそんなご利益のあるものがあるのだろうか。
おれたちは、半信半疑ながらも、坊主に会い、礼拝のしかたを教えてもらい、バイトした金のなかからお布施を出して、それぞれ額にそのハンコを捺してもらった。もちろん、ケンゴの写真にもだ。
捺してもらうと、なんとなく自分が救われた気になるから不思議だ。おれたちはぞろぞろと、打って変った明るい気持ちで石段を降りた。
「よし、解散式はいつものあの店でやるぞ。ケンゴのぶんまで、食おうぜ!」
おれたちはそれぞれバイクにまたがり、国道に出て……。
暴走トラックと正面からぶっつかった。
× × × × ×
おれは身を切るような寒さに目を覚ました。身体を見ると、素っ裸だ。
「ようこそゴクラクへ」
ポリの声を千倍くらい陰険にしたような声が俺の頭に響き渡った。おれが首を上げると、でかい椅子に座った、偉そうな大男が見下ろしていた。
見渡す限り荒涼と広がる氷の原野を見て、おれは叫んだ。
「ふざけるな! これのどこが極楽だ!」
「極楽? なにを馬鹿なことを。ここは、『獄裸苦』だ。裸で苦しむ獄、と書く」
な、なんだって?
「そ、そんなバカな。おれたちは、オケチミャクノインとかいうのを捺してもらって……」
「そう。オケチミャクノインとは、汚れたものを魑魅と化す災厄、『汚化魑魅厄』の印と書いて、捺されたものを、この獄裸苦へと連れてくる特急券みたいなものなのだ」
「そ、そんな、スジが通らねえ、スジが通らねえよう! なんで、そんなものをこしらえたんだ!」
「そうだな……」
大男は、おれを見て、笑った。
「裁判の迅速化というやつだ。死人の裁判を、いちいち、閻魔大王の手をわずらわせて行っていたんでは非能率極まるし、閻魔大王にも負担が大きい。それに対して、この印を使えば、無裁判で直接地獄へ送れるので、手間が省けるというものだ」
「そ、そんな……」
「これはお前たちのようなやつから教わったのだ。誰が始めたのだか知らんが、まっとうな言葉に、変な字を当て字して、めちゃくちゃな意味にする遊びを恨むことだな」
おれのそばには、いつの間にか鬼たちがやってきていた。鬼たちは、おれの腕を引っつかむと、氷の原野へと引きずって行った。
大男はイヤらしい笑みを浮かべた。
「往生せいや」
そしておれの果てしない苦しみは始まったのだ。
いいか。
手軽で簡単に救われる方法があるなんて、信じるな……信じるな……信じるな……。
「リーダー! 全員そろってます!」
「よし、行くぜ! 失礼がないようにしろよ!」
おれたちはぞろぞろと、寺の階段を登って行った。
カンジが、登るのにも疲れたのか、息を切らしておれにいった。
「リーダー、ケンゴのやつは、どうしてるでしょうねえ」
「バカ野郎。やつは、あの世でもバイクに乗ってるに決まってるだろ。そして、おれたちを待っているんだ。この寺になんのために来ているのか、思い出したら口を閉じとけ」
「お、押忍」
ケンゴはどうなっているかわからなかった。それも当然だ。崖っぷちの道をおれたちが暴走(はし)っているとき、カーブを曲がりきれずに、ガードレールの裂け目から、はるか下に落っこちてしまったのだ。
話じゃ、即死だったそうだが、そんなこと、頭の悪いおれだってわかる。
しかし、ケンゴが死んだことは、おれたちにとってすげえショックだった。
誰からともなく、チームを解散して、まともになろう、といいだして、とうとう今日の、解散式となったわけだ。おれが立ち上げたチームなので、先輩だ後輩だののうざったいことがなかったのは、ある意味ラッキーだった。
その前にやっておくべきことがあった。
ケンゴとおれたちを救うのだ。
なんでも、この寺には、昔から長いこと伝わる、漢字じゃなんと書くのか知らないが、「オケチミャクノイン」というハンコみたいなのがあって、それを頭に捺すと、誰でも死んでから極楽へいける、というのだ。
おれたちは、みんなして、このハンコを捺してもらい、ついでにケンゴの写真にも捺してもらって、死んだあとで、あの世で誰にも迷惑かけずに暴走(はし)ろう、と誓い合ったのだ。
それにしてもボロい寺だった。こんな寺にほんとにそんなご利益のあるものがあるのだろうか。
おれたちは、半信半疑ながらも、坊主に会い、礼拝のしかたを教えてもらい、バイトした金のなかからお布施を出して、それぞれ額にそのハンコを捺してもらった。もちろん、ケンゴの写真にもだ。
捺してもらうと、なんとなく自分が救われた気になるから不思議だ。おれたちはぞろぞろと、打って変った明るい気持ちで石段を降りた。
「よし、解散式はいつものあの店でやるぞ。ケンゴのぶんまで、食おうぜ!」
おれたちはそれぞれバイクにまたがり、国道に出て……。
暴走トラックと正面からぶっつかった。
× × × × ×
おれは身を切るような寒さに目を覚ました。身体を見ると、素っ裸だ。
「ようこそゴクラクへ」
ポリの声を千倍くらい陰険にしたような声が俺の頭に響き渡った。おれが首を上げると、でかい椅子に座った、偉そうな大男が見下ろしていた。
見渡す限り荒涼と広がる氷の原野を見て、おれは叫んだ。
「ふざけるな! これのどこが極楽だ!」
「極楽? なにを馬鹿なことを。ここは、『獄裸苦』だ。裸で苦しむ獄、と書く」
な、なんだって?
「そ、そんなバカな。おれたちは、オケチミャクノインとかいうのを捺してもらって……」
「そう。オケチミャクノインとは、汚れたものを魑魅と化す災厄、『汚化魑魅厄』の印と書いて、捺されたものを、この獄裸苦へと連れてくる特急券みたいなものなのだ」
「そ、そんな、スジが通らねえ、スジが通らねえよう! なんで、そんなものをこしらえたんだ!」
「そうだな……」
大男は、おれを見て、笑った。
「裁判の迅速化というやつだ。死人の裁判を、いちいち、閻魔大王の手をわずらわせて行っていたんでは非能率極まるし、閻魔大王にも負担が大きい。それに対して、この印を使えば、無裁判で直接地獄へ送れるので、手間が省けるというものだ」
「そ、そんな……」
「これはお前たちのようなやつから教わったのだ。誰が始めたのだか知らんが、まっとうな言葉に、変な字を当て字して、めちゃくちゃな意味にする遊びを恨むことだな」
おれのそばには、いつの間にか鬼たちがやってきていた。鬼たちは、おれの腕を引っつかむと、氷の原野へと引きずって行った。
大男はイヤらしい笑みを浮かべた。
「往生せいや」
そしておれの果てしない苦しみは始まったのだ。
いいか。
手軽で簡単に救われる方法があるなんて、信じるな……信じるな……信じるな……。
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> ♪男と女の間には(古い)
えええーっ!「狼閻怒狼」って元ネタそれ!?
と言いながら、私はそれしか連想しませんでしたが・・・。
えええーっ!「狼閻怒狼」って元ネタそれ!?
と言いながら、私はそれしか連想しませんでしたが・・・。
Re: limeさん
ええと、わたしが信じている哲学者スピノザの説でいいますとねえ……(以下、興味がない人にはつまらない話が3時間続くので削除)
当て字、言葉遊びみたいで楽しいですよ。
特に、実際のそういう人たちに使われていないかグーグルにかけるときがスリリングで(爆)
当て字、言葉遊びみたいで楽しいですよ。
特に、実際のそういう人たちに使われていないかグーグルにかけるときがスリリングで(爆)
なんか、怖い~^^;
あの世って、やっぱりあるんですかねえ。
この世でちゃんとしなかったら、苦行がまってるんですかねえ。
・・・・自信無いなあ。(いったい、何をしたんだって、訊かないで・笑)
しかし、一番面倒くさそうな「当て字」を考えるのが楽しいというポールさんも、またおそろしや^^
あの世って、やっぱりあるんですかねえ。
この世でちゃんとしなかったら、苦行がまってるんですかねえ。
・・・・自信無いなあ。(いったい、何をしたんだって、訊かないで・笑)
しかし、一番面倒くさそうな「当て字」を考えるのが楽しいというポールさんも、またおそろしや^^
うわ~っ、寒そう…ていうか、また「裸」!!(笑)
裸の王様、裸のサラリーマンときて、今度は裸の地獄ですか。
意表をつかれました。
しかし、「狼閻怒狼」ってのも凄いな… ^^;
裸の王様、裸のサラリーマンときて、今度は裸の地獄ですか。
意表をつかれました。
しかし、「狼閻怒狼」ってのも凄いな… ^^;
Re: 矢端想さん
落語はネタの宝庫ですね。(^^)
談志師匠もおっしゃってますが、「人間の業の肯定」そのものであります(^^)
当て字を考えているときが一番楽しかった(笑)。
談志師匠もおっしゃってますが、「人間の業の肯定」そのものであります(^^)
当て字を考えているときが一番楽しかった(笑)。
ここは地獄の最下層、氷の世界コキートス。
これは面白いwwww。「漢字じゃなんと書くのか知らないが」ってのがうまいなあ。
ウラ「お血脈」ですな。
・・・また落語ネタっすか、先生!
これは面白いwwww。「漢字じゃなんと書くのか知らないが」ってのがうまいなあ。
ウラ「お血脈」ですな。
・・・また落語ネタっすか、先生!
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Re: 矢端想さん
いかにも珍走団のような名前で、まず絶対に珍走団が使いそうもないチーム名を考えたらこうなってしまったんです(^^)
野坂昭如先生、まだご存命でしたっけ?