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    「ショートショート」
    ホラー

    出汁(だし)

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     わたしは、最近、料理に凝っている。

     最初のきっかけは、煮干し、だった。

     ある冬の寒い日わたしは、今日の昼飯にあつあつの味噌汁を作ろう、と、鍋に煮干しを放り込み、火をつけようとした。

     そのとき、携帯が鳴った。

     実家の母が倒れた、すぐ来てくれとのことだった。それでは、味噌汁もくそもない。とにかく、急いで身支度を整え、車に飛び乗って実家に向かった。

     ちなみに、わたしの東京のマンションから、実家のある北海道に向かうまでは、高速を使ってもえらい時間がかかる。しかも冬だ。

     新幹線を使えばよかった、と気づいた時には、わたしはにっちもさっちも行かなくなってしまった。

     結局、母は倒れたものの、気づくのが早かったことと、病院が適切な治療をしてくれたこともあって、大丈夫ということだった。わたしはほっとした。

     しかし、そうなると、今度は明日の仕事のことを思い出す、ということになる。明日の仕事は、わたしがいないとどうにもならない、というものなのだ。

     わたしは母を見舞うのもそこそこに、またも車に飛び乗って東京を目指した。

     結局、実家へ向かってから家に帰ってくるまで、丸一日をつぶしてしまった。

     仕事まではまだ時間があったので、味噌汁でも飲もう、と、お湯を沸かして味噌を溶いた。睡眠不足と運転の疲れでぼーっとしていたので、水を入れ替えるのをすっかり忘れていた。わたしは、昨日ほったらかしていた水を沸かして、味噌汁を作ってしまったのだ。

     ぼーっとしたまま一口飲んだ。

     目がぱっちりと覚めた。

     う、うまい!

     わたしは、生まれて初めて、本当の煮干しの出汁を取ったのだった。

     それからは病みつきになった。



    「食道楽をやってるんだって? 世界各地からネットで妙な材料を取り寄せているそうじゃないか」

     家に立ち寄った課長は、そういって、様々な食材の袋だの段ボール箱だの、比較的大きな冷蔵庫だの、を眺めまわした。

    「課長の舌には合わないと思いますが。なにしろ素人のそれなので、ほとんどげてものみたいなものですよ」

     わたしは笑った。

    「まあ、おかげで、危ないものも食べて、腹だけは丈夫になりましたが」

    「なにか食わせてくれないか」

    「いいですよ。ふたり分作ります」

     わたしは厨房に入り、最近はまっている濃厚な味の食品を使って、味噌汁を作った。味噌汁というより、半分、鍋みたいなものである。

     できあがったものを抱えて持っていくと、課長は舌なめずりをした。

    「これは? キノコみたいな香りがするな」

    「大当たりです。キノコと魚を使って取った出汁に、味噌を溶きました。でも、キノコにも魚にも味が残っているので、そのまま食べてください」

     わたしはおたまでキノコ汁をすくって自分の椀に入れ、「いただきます」といって食べ始めた。

     濃厚なキノコと魚の肝のうまみが、口中に広がった。うまい。

    「課長もどうぞ」

     わたしがおたまを渡すと、課長もすくい、飲んだ。

    「おお、これは濃厚な」

     わたしたちふたりは、しゃべるのも惜しく、汁をすすった。

     わたしが満腹して、ふっと目をあけると、蒼白な顔をした課長が突っ伏していた。

    「お……お前……これはなにを料理したんだ?」

    「ただの味噌汁ですよ」

     わたしは答えた。

    「イボテン酸といううまみ成分を持つベニテングタケと、フグのもっともうまいところである卵巣で出汁を取ったものです」

    「お……おま……なんで大丈夫なんだ?」

    「課長こそ、どうしてそんなことに。今、救急車を呼びますから。課長?」

     課長は泡を吹いて動かなくなった。

     どうしよう。まずは救急車……。

     いや。

     救急車よりも、この「食材」は、骨を煮たらいい出汁がとれるのではないか?

     そう思ったら、わたしは自分を抑えられなくなっていた。

     わたしは中華包丁とまな板を取ってきた。骨でも肉でもなんでも切れる中華包丁は、なにをさばくにしても便利なものなのだ。

     美味を極める旅に果てはない。
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    カゼではしかたがない。

    ではこの「復活の日」という面白い小説を……。

    と風邪ひきのひとにマジに勧めてしまったバカが通りますよ~(^^;)

    お久しぶりです^^

    こんばんは~
    風邪をこじらせてデロデロのフラフラでしたが
    なんとか生還しました^^

    で、久々にカテゴリーで読もうと思ったら
    どこまで読んだかわからなくなっていて(@◇@;)
    ではここから~~と読んだのが、なぜか「ホラー」
    しかも、食べちゃいましたか^^;;

    どこが一番美味しいんだろう?
    ……って聞いちゃダメですね^^;; 

    Re: ダメ子さん

    そういや昔は忍者漫画の定番でしたな、少しずつ毒を飲んで耐性をつけ、毒を飲んでも死なない忍者。

    キルアについては知りません。ごめんなさい。
    • #8170 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/29 20:42 
    •  ▲EntryTop 

    オレなら平気だよ、訓練してるから。毒じゃ死なない
    byキルア

    Re: 西幻響子さん

    グロくてすみません。

    反省して甘い話を書こうかな(^^;)

    ギャー!グロい! (T_T)
    でも最後に作られた味噌汁が何故かまずそうに感じないのはなぜだろう・・・

    Re: semicolon?さん

    やっぱり一度は書きたい小説ですよね。

    ベニテングタケは実際に食うところがあるそうですな。

    フグの肝も糠だか麹だかに二十年も三十年も漬け込んで毒を飛ばして食う地方があるとか。

    人間どこまで食えば気がすむんだろう。(笑)

    こういうの大好きです。私の大好き真ん真ん中。
    寒くなるとお出汁のきいたお味噌汁が美味しいですねぇ。
    ニンマリ。

    Re: limeさん

    実際に起きた猟奇事件では、はっきり、「まずい」といっているようですね犯人。

    とはいえ、中国の文献では、よく食べられていたとか書かれております。

    これを総合すると、

    「ようするに調理法」だと(え?)

    ロード・ダンセイニ「二瓶の調味料」とスタンリイ・エリン「特別料理」も印象深い短編でありましたので機会があったら読んでみてね♪

    ここまでキモイと、かえって清々し・・・くはないか^^;
    ちょっと味噌汁が怖くなってしまいました。
    でも、このひと、結局は味噌汁なんですね^^
    そこが面白い。

    人間って・・・変な話、不味いですよね、きっと。

    子供の頃は、肌がプリンに似てるので、プリンの味がすると思っていたんですが。

    Re: ぴゆうさん

    たまにはこういうブラック・ジョークも書きたくなって(^^;)

    やっぱりキモいですよねえ(汗)

    小松左京のショートショートと
    ドイツで実際にあった猟奇殺人を思い出したよ。
    キモイ。

    Re: 秋沙さん

    偉いというよりも……。

    それだけ近世以前の人間は飢えていたんだと思います。

    それを考えると、五穀さまさまであります。

    今日も元気だゴハンがうまい。パンもうまい。うどんもうまい。(以下延々と300行続く(^^;))

    最初にナマコを食べた人とか尊敬しますよね。
    フグの卵巣に毒がある、と知った、というか世に知らしめた人もすごいです。
    山火事でもあって、動物が焼け死んで、思わず食べてみたらおいしかった・・・というのも、よく考えたらすごい話です。
    何人かは食あたりを起こしたり、毒にあたったりして命を落としたであろうに、なんとかして食べる方法を人間は編み出してきたんですものねぇ。
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