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    「ショートショート」
    恋愛

    少女マンガみたいに

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     よし、やるぞ。

     あたしは玄関の時計で時刻を確かめた。例のものを口元に持っていく。

     すべての準備を整えたあたしは、栖原第2マンション203号室のドアをバンと開け、小走りに走り出した。

    「や~ん、ちこくちこく!」

     そうしゃべろうとしたが、声が声にならなかった。うっかりしていた。パンを口に挟んだままで、明瞭な声でしゃべろうとしても無理なのだ。

     小走りに走るのも、二百メートルも走ればもう脇腹が痛くなった。限界だ。

     あたしは肩を落とすと、あきらめてパンをかじりながら歩き始めた。パンは虚しい味がした。



     なんでこんなバカなことをしたかといえば、昨晩、夢を見たからだ。

     夢の中で、あたしは、パンをくわえながら、「ちこくちこく!」と叫びつつ高校に走っていく。すると途中で、誰かとぶつかるのだ。夢であるから、顔はわからないが、そのとき、あたしは、その人と、運命によってつながっていることを悟るのだ。

     普通の人は、夢を見たくらいでそんな奇行には走らない、というかもしれない。だがそれは、長い義務教育生活の中で、気安く話せる友人を、男女問わず作れるような人間の話だ。

     世の中には、どうしても友達がほしいのに、なにをやっても友達が作れない、という人間が、少数ではあるがたしかに存在する。そのひとりのあたしがいうんだから間違いない。

     両親の引っ越しとともに、過去のほとんどを捨ててこの隣県の学校に移ってきたあたしは、彼氏は無理でも、せめて腹を割って話せる友達のひとりがほしかったのだ。



    「えーみんな、よく聞くように。転校初日から遅刻してきた、最近珍しい根性の据わった女子生徒だ。さ、自己紹介を」

     あたしはやけくそでいった。

    「両親の都合で転校してきた、神島久留里です。趣味は読書です。よろしくお願いします」

     クラス担当の栗原先生は、あたしに、笑いを噛み殺しながら尋ねた。

    「それで、席に着く前に、ちょっといいわけを聞かせてもらおうか。どうして遅刻したんだ?」

     隠すのも不自然なので、あたしは素直に話した。

     教室中が爆笑に包まれた。

    「おい、静粛に、静粛に。神島、それがほんとうのことだとしたら、夢でわざと遅刻しようなどと思わない限りは、お前は学校にきちんきちんと登校してくるんだな」

    「は……はい」

    「では、今回のこれは、チェックするけれども不問に処す。最後列に席をひとつ作ったので、そこに座れ」

     あたしは恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら、席に着こうとした。そのとき、足が滑って、頭ががんと誰かにぶつかった。

    「す、すみません」

    「気をつけてちょうだい」

     振り返ったのは、いかにも知的で取りつく島もないような女子生徒だった。

    「委員長。あんまり転入生をいじめるなよ。お前の毒舌は、初めて聞く者をびっくりさせるからな」

    「はい」

     あたしは頭を抱えた。えらい人の後ろについてしまったものだ。しかも事態は、最悪の展開に向かおうとしてるし……。



     一限目の授業が終わり、休み時間になった。

     委員長が振り返った。

    「神島さん。さっきのあれは、ジョーク? ジョークだとしたら、つまらないジョークだわ」

    「すみません。でも、ほんとの話で……」

     あたしは前の学校にいた女教師にちくちくいびられている自分を感じた。

    「あのね。わたし、思うんだけど、そんな夢を見るなんて、あなたマンガの読みすぎね。それも少女マンガ」

    「え? あたし、少女マンガみたいなもの、まるで読んだことないんですけど。古典文学のほうが好きなので」

    「そんなことあるわけないでしょう。それって、よくある少女マンガの出だしのパターンの中でも、王道よ。あなた、嘘つき? それとも、ほんもののバカ? 夢だったら、わたしは昨夜、こんな夢を見たわ。栖原第2マンションって、聞いたこともないマンションの、203号室に住んでいる生徒が、わたしの兄の彼女になるっていう夢をね。どうせ変な夢を語るなら、もうちょっとこういう信憑性のある夢を……」

     あたしは委員長の手を握っていた。

    「お兄さん、この学校にいるんですか?」

    「え、ええ、いるわよ」

     いきなり身を乗り出してきたあたしに、委員長は面食らった様子だった。

    「でも、マンガを読むしか能のないオタクってやつよ? たまには描いてもいるみたいだけど。まあ、しゃべらないでいれば普通人に見えるけどね」

    「お願いします!」

     あたしは委員長に頭を下げた。

    「お兄さんに紹介してくださいっ!」



     委員長のお兄さんは、たしかにマンガは大好きだったけれど、しゃべってみると、けっこう普通の人だった。というよりも、あたしは、自分が男の人と普通に話していること自体が信じられなかった。

     委員長も、口は悪いけれども、頭が良くて根は親切な人だった。

     あたしが、彼氏と親友とを得たのかについては、まだよくわからない。転入してから、まだ二週間しか経っていないし。

     でも、あたしには、自分で自分を押し込んでいた殻が、二人のおかげで砕けて消えたように思える。まるで委員長のお兄さんに貸してもらった、恋愛ものの少女マンガの主人公みたいに。
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    昔の人間には、「トーストをくわえ、「やーんちこくちこく!」から、曲がり角で初対面の彼と衝突すること」から話が始まるものとしてとらえられていたんですよ、少女漫画というものは……。

    詳しくは不朽の名著、「サルでもかけるまんが教室」を参照のこと。

    少女マンガというよりラノベっぽいような…
    少女マンガならやっぱり、クラス一のイケメン
    (かつ秀才かつスポーツ万能)が
    奥手な私をなぜか好きになってくれなくちゃw

    Re: YUKAさん

    少なくとも「恋愛」を謳っている以上は恋愛で魅せたいものでして……。

    修行が足りないようであります我ながら(^^;)

    こんばんは^^

    読ませて頂きました^^

    皆さんのコメントも読ませて頂きました^^
    お兄さんと直接話してないので、キラキラは難しいですね^^

    どちらかというと、友情話でしょうか?^^
    「王道」少女漫画は10代中心のお話しなので
    それもまた、よいのではないでしょうか?^^

    Re: 西幻響子さん

    ほのぼのを書こうとしたのにビターなのができたりして(笑)。

    まあいずれのお楽しみ(^^)

    キラキラしてないなあ、我ながら……。

    なんか感激してしまったので再コメ。

    >この手の「ほのぼの」で終わる作品、書いてみたらけっこう楽しいし精神衛生にもいいことがわかったので、11月と12月は強化月間にしよう、と(^^)

    ですよね!
    「ほのぼの」作品は精神衛生上、とてもいいと西幻も思います(私の作品はほのぼのしてませんが ^^;)。ぜひとも、強化月間にしてください。楽しみにしております。

    「花とゆめ」!「なかよし」!!(「りぼん」はまだあるのかな?)
    ああ、いいですね~っ。
    しかも「たった4ページのために買う」というの、とてもよくわかります。
    ですよね!コミックスにならなそうな作品もありますもんねぇ。

    ああ、なんかそういう感じって自分がかつて学生時代にマンガを前にしてどきどき・わくわくしていたことを思い出します。しかも、スクラップしているとは!!(感動~~

    たしかにこの「少女マンガみたいに」はキラキラ感には欠けているかもしれませんが、西幻はきらいじゃありません。あまりにもキラキラしていると皮肉な自分が顔を出す恐れがあるので…。

    Re: 秋沙さん

    少女漫画を読むとその裏の壮絶な女の世界を垣間見せられて退却してしまうタイプなので(笑)

    恋愛と縁がないわけだ(^^;)

    ご、ごめんなさい、私もぴゆうさんのコメントに笑ってしまいました(^^;

    そういえば、小学生の頃に自分でも少女漫画を描いてみたい!と急に思い立って、落書き帳にネームだけ数ページ描いて、あまりの画力のなさにすぐに投げ出したことがありますが、その時の出だしもやはり「や~んちこくちこく!」だったような気がします(消したい過去だ・・・)

    おかしいなぁ、ポールさんが書いた甘いお話、あの珈琲のやつは、なかなかにきちんとラブストーリーしてるなぁと思ったんだけどなぁ(笑)。
    いかにも、朴念仁の恋って感じが良かったんだよなぁ。
    あ、そうか、今回は女性目線だから、やっぱりもっとキラキラしてほしいと思っちゃうんだ!(^^;

    ふふふ・・・少女漫画のキラキラ感はねぇ、その裏には壮絶な女の世界がちゃんとあるがゆえ、なのよ('-'*)
    恋愛しましょう。もっと「オンナ」を知りましょう(笑)

    Re: limeさん

    わたしも少女漫画には性格的にちょっと向いていないのですが、リンクさせていただいているぷろとん先生の「ペラペラ」という4コマを読んでスクラップするためだけに「ザ花とゆめ」を買い、上北ふたご先生の「スイートプリキュア♪」を読んでスクラップするためだけに「なかよし」を買っている、という……。

    本屋での羞恥心などはとうの昔に捨てました(笑)。

    それにしても、少女漫画の「キラキラ感」を出すのはむずかしいであります。パッションのもとで一気書きとはいうものの、結局のところ、頭で考えてストーリーの流れとオチを決めているからでしょうか(^^;)

    ぴゆうさんのコメに、思わず笑ってしまいました。
    ごめん、ポールさん^^。
    確かに、少女マンガのキラキラがない・・・。
    そのかわり、なにか理詰めのオチが待ってるような予感がしました。

    でも・・・意外や意外。ほんわりした終わり方でしたね。

    しかしポールさんが、このテーマ^^
    ワクワクしながら読みました。
    少女マンガも読まれてるんですねぇ。
    私は小学生の頃は少女マンガは苦手で、少年ジャンプばかりよんでいました^^;
    少女マンガも、SFや、サスペンス、スパイものばかりで^^;
    キラキラした恋愛ものは、あまり読んだことないですが・・・でも、たしかに、パンをくわえて「遅刻遅刻~」は、王道ですよね。
    お!EVA見てましたか^^
    あのレイのシーンは、びっくりしました(笑

    あれ? 何が言いたかったんだろう、私。

    ・・・あちらの小説のほうは、今日読みます!^^

    Re: 西幻響子さん

    この手の「ほのぼの」で終わる作品、書いてみたらけっこう楽しいし精神衛生にもいいことがわかったので、11月と12月は強化月間にしよう、と(^^)

    ちなみに少女漫画ですが、

    「たった4ページ」のためだけに「ザ花とゆめ」を買ったり、「たったマンガ一本」のためだけに「なかよし」を買ったりしています。羞恥心なんぞ捨てました。

    コミックスが簡単に出るタイプの作品でもないので……。

    それにしても、「怪盗セイント・テール」の愛蔵版買っちまおうかどうしようか……。コミックスは全巻持っているけれど……(^^;)

    Re: るるさん

    あれは伝統美であり、様式美です。

    である以上、国家が保護するべきだと思います(笑)。

    「少女マンガみたいに」という題名といきなり出てきた「や~ん、ちこくちこく!」というセリフにぷっとふきだしてしまいました ^^

    いつもの(?)調子で世知辛い「オチ」を期待していた西幻には甘すぎるラストでした(階段を一段ふみはずしたような気分。笑)。でも、数秒おくれて「ほのぼの」しましたけど。

    ポールさん、少女マンガ読んでるんですか…?(笑)

    あ、ポールさんの「メントレ」、西幻も使わせていただきます♪
    「私の小説は面白いんだ私の小説は面白いんだ私の小説は面白いんだ・・・」

    パンはもう古いですね。
    時代はエコ。

    次はペットボトルなんか咥えて走ってみると
    いいかもしれませんね。

    管理人のみ閲覧できます

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    Re: ぴゆうさん

    わたしは早く生まれすぎた草食系らしく、恋愛に割く時間をSFとミステリとボードゲームにつぎ込んでしまったため、正直、恋愛というものはどう始めればいいのかすら、いや、現実の問題として「人を愛する」というのはどういうことなのかすらいまいちわからん欠陥人間のエゴイストなのであります(^^;)

    うむむむ(^^;)

    少女漫画の世界って全くないわけではないのよねぇ~
    だからこそ、女子の共感を得るのだと思うね。
    しかし、ポールは女子が主人公のはダメやね。
    なんとも固い。
    その固さは恋愛不足。
    恋愛をしなさいよ。

    Re: LandMさん

    「パンをくわえてちこくちこく」のあれって都市伝説じゃないかと思っています。

    「サルまん」や「エヴァ」でもやってましたけど、あれ以外わたしも知らない……(^^;)

    いわゆる男のロマンと夢が詰まっている小説ですね。
    最近じゃこういう展開も滅多にないですけどね。。。
    最近の少女マンガだと結構過激なので、こういうのもあまりないのかもしれないですね。私も資料で少女マンガたくさん読んでますけど。

    Re: 矢端想さん

    これを書いた後に、友人が絶賛していたギャグ漫画「ラブやん」を読んで、笑いながらも身を切られるような痛みを感じましたとほほほ。

    妄想で生きているオタク少年少女の夢ですな!

    素晴らしい! いや実に素晴らしい!

    (↑なぜそこまで絶賛!?)
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