「ショートショート」
    恋愛

    そしてぼくの指は

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     指の先に電気が走ったような経験をしたことはあるかい?

     ぼくはある。

     それは、ある女子高……いちおうK女子高としておくか。そこの文化祭に行った時だった。うちの県は、県の上層部の頭が固いのか、それともそういう県民気質なのか、高校に共学校というものが異様なほど少ない。ぼくの家から半径三十キロの円を描いた枠内で知っている共学校は、ぼくが通う高校くらいだ。

     そういうわけで、女子高の文化祭ともなると、そこは下心ある男子高校生で押すな押すなとなるわけだ。もちろん、逆も真なりである。

     ぼくは、男子校に通っている中学時代の友人に連れられて、半ば引きずられるように女子高の文化祭に連れて行かれた。やつは、唐変木のうえ極楽とんぼであるぼくに、女とのつきあいかたを教えてやるなんていっていたが、単に自分が行きたいだけだろう。年の離れた姉がいる状態で中学生としての生活を送ると、女子に対する幻想なんて、木っ端みじんに吹き飛んでしまうものだ。

     だから、ぼくは、そこだけ場が明るくなっているように見えるK女子高の敷地内に入っても、それほど胸はときめかなかった。友人といえば、もうそれはひどいはしゃぎっぷりで、見ているこちらのほうが恥ずかしい。

    「おい、おい見ろよ。ほら、仮装行列だぜ。みんな握手してるよ。行こうぜ、行こうぜ」

     まるで餌を目の前にしたこらえ性のない犬である。ぼくはばかばかしくなって、その後からゆっくりついていった。

     だいたい、あんなでっかい被り物の仮装をしていて、誰と握手したかなんてことがわかるものなのだろうか。見える範囲ときたら、八九式中戦車の視界よりもまだ狭いだろうに。

     ぼくは適当に握手をしながら列を歩き……。

     妙な感じを覚えて立ち止まった。

     指先に、電気が流れたような感じがしたのだ。

     握手というよりも、たまたま触れた指と指の間に散ったわずかな火花、というようなものだったが、ぼくはその火花に、なにか暖かいような、もっと感じていたいような、スパイスと砂糖の入り混じったかのごとき甘く刺激的なものを覚えた。

    「おーい、なにをしている、こっちこい、こっち!」

     ぼくは手を振り回している友人のほうに走った。仮装の列の中から、誰に触れたのかを確かめる手段はもとからないも同然だったが、無神経が服を着て歩いているようなあの男をこれほど恨んだことはない。



    「お願いだ」

     ぼくは、文化祭の実行委員長を務めている智美に頭を下げた。土下座して哀願までしてやるつもりだったが、その分厚い眼鏡の奥の冷たい目は、ぼくの願いを無情なほどに拒絶していた。

    「あのね。一日中、校門でのビラ配りをさせてくれって、どういうことよ。あなた、曲がりなりにも、副実行委員長でしょ。あたしがいない間、この生徒会室で、不測の事態に備えるのが仕事でしょ」

    「不測の事態なんて起こるわけないじゃないか。これは、ただの文化祭だぜ」

    「あのね」

     智美はぼくを、頭の悪い三歳児かなにかのように見た。

    「起こるわけないことが起こるから、不測の事態っていうのよ。とにかく、自由な時間はなにをやってもいいから、自由でない時間は生徒会室に詰めといて。これは義務なんだから、しっかり果たしてもらわないと」

    「ってことは、自由時間はビラを配っていいんだね?」

    「なにが楽しいのか知らないけど、それで満足するのならあたしが文句いう筋合いもないしね」

     生徒会室を出て、ぼくはガッツポーズをした。これだけの譲歩を引き出せただけでも、智美相手にしてみれば上出来だ。

     ぼくはスキップしたくなる衝動をこらえて家に帰った。



     文化祭の当日、ぼくはまず生徒会室に向かうとビラを引っつかんで校門に向かった。

     ぼくがやろうとしていたことは、どちらかといえば神頼みに近かった。ビラを配って、あの火花の持ち主と、偶然、指が触れあうことを祈るのだ。

     虫がよすぎることくらいわかっている。

     十億個の卵のうち二匹くらいしか成魚にならないマンボウの産卵よりは確率が高い、そう思いながらぼくはビラを配りまくった。

     時間が過ぎて、ぼくはいったん生徒会室に戻った。

     智美のやつは書類仕事をしていた。

    「ビラ配りは楽しかった?」

    「まあね」

     ぼくは仏頂面で答えた。

    「そう」

     智美は書類仕事を続けた。

     次の自由時間が来た。ぼくはいそいそとビラを配りに行き……そして、前にもまして疲れ切って生徒会室へ戻ってきた。

    「ただいま」

    「お帰りなさい」

     智美は、いたるところからもたらされる苦情を、流れるようにてきぱきとさばいていた。正直、ぼくなんかいなくたってどうにかなるのではないか。現にこの女、生徒会室から一歩も動こうとしないのだから。

    「あの……」

    「ダメよ」

     智美は書類から目を上げずに答えた。

    「だってお前」

    「あたしがいなかったら、あなた役目をさぼって出ていくでしょ」

    「ちぇっ」

     お見通しらしい。

     ぼくはいらいらとしながら時間が経つのをひたすら待ち、智美はひたすら仕事を続けた。

     これで最後だ。ぼくは、ビラを山ほど抱えて校門へ向かった。

     客がぞろぞろ帰る中、ぼくはオレンジ色に染まりつつある空の下で道化役をやっていた。

     空ではカラスが鳴いていた。



     配りきれなかったビラを抱えて、まるで落ち武者か何かのように帰ってきたぼくを、智美は面白そうに眺めた。

    「変な人ね」

    「うるさいな。お前になにがわかる」

    「なにもわかりはしないけど……」

     智美はわざとらしく時計を見た。

    「そろそろ片づけと、キャンプファイアの準備の時間よ」

     ぼくはうんざりしながら、配りきれなかったビラをゴミ箱に捨てようとした。

    「待って。それはまだ、試し刷りとメモに使えるわ」

     ぼくはうなった。

    「で、どこに置いたらいいんだ?」

    「ちょっと貸してよ。持つから」

    「重いぜ」

     ぼくはビラの束を智美に渡そうとし……指の先が触れた。

     あのときの、火花のような感覚がぼくをうった。

     智美は呆然としていた。ぼくも呆然としていた。机の上にビラの束が落ちる、どさっ、という音だけが響いた。

    「あなただったの」

    「お前だったのか」

     ぼくたちは互いの顔を、穴が開くほど見つめ合った。

    「でも……なぜだ? 君は、あの女子高の生徒じゃないだろう?」

    「友達があの学校の生徒でね。あたしは、助っ人に呼ばれたのよ」

    「だったら手が触れたのがぼくだってことがわかったはずじゃないか」

    「かぶりものしてたでしょ? 眼鏡を外していたのよ。あたし、眼鏡を外すとほとんどなにも見えないのよ」

    「じゃあ、どうしてお前はあの火花の主を探そうとしなかったんだ」

    「どうして、って……」

     沈黙が落ちた。

     沈黙の中で、ぼくは理解した。なぜ智美が、ぼくと同じく文化祭実行委員に立候補したのか。なぜこの生徒会室から一歩も外へ出なかったのか……。

    「ここまでいっしょに実行委員をしていながら、手すら触れたことがなかったなんて」

     ぼくが苦笑いしながらこぼすと、智美も笑った。

     それからしばらく、ぼくたちは黙ったままで書類その他、生徒会室の片づけをした。

    「行こうか。そろそろキャンプファイアだ」

     ぼくが手を差し伸べると、智美はぼくの手を取った。

     火花こそ感じなかったものの、ぼくは智美のすべすべして、それでいてしっとりして、暖かい手を握った。

     ぼくと智美は、集まっているだろう踊り手の中に加わるため、そろって生徒会室を後にした。

     空には一番星が輝き始めていた。
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    こんな零細ブログだからこそ「読者のニーズ」というやつにはかなわないのだよダメ子くん(--;)

    だいじょうぶだネガティブなものもいくつかあるから(そういう問題か?)

    このブログでも心折れるような青春ラブストーリーを
    読ませられることになるなんて;;

    Re: YUKAさん

    通勤時間の合間にリフレッシュしていただけるならこれ以上の喜びはありません(^^)

    でもたまにビターなやつが混じりますが(^^;)

    今日は朝から恋愛小説♪

    わぁお!
    くるぞくるぞと待ち構えて……やっぱり生徒会長♪

    いや~~良かったです^^
    私も電車の中でばちっと来ないかなぁ~~

    でも電車じゃ、もう一度出会う確率が天文学的数字に。。。

    Re: 秋沙さん

    いや集合的無意識というやつが(なんだそれは)

    あ、それは、ただ単に「私の」好みなだけですから(笑)

    Re: 秋沙さん

    淡々としてがっつかないほうが女性にはもてる、と。
    φ(。。 )メモメモ


    ということは、「わたし」や「おれ」を出すよりは「ぼく」のほうが戦略的にも正しかったわけか。うむむ(^^;)

    女性の恋愛観と男性の恋愛観の差が如実にわかって楽しいですな(^^)

    Re: 黄輪さん

    ほのぼの系を書いていると、

    「いかんおれは何をしているのだ。もっとSFはセンス・オブ・ワンダーだ!」などとわけのわからないことを口走って地球や人類をぶっ壊しにかかり、

    そういう系を書いていると、

    「いかん小説の本分は人間を書くことだっ」などと自分でもよくわからないことを口走ってエドさんや恋愛ものを書く、という……。

    振幅は激しいけどバランスは取れてるのかな。わはは。

    Re: 矢端想さん

    評価が人によって真っ二つ、というのは物書きにとって勲章だと思ってます。

    だから思ってることを皆さんばんばん書いてください(^^)

    うんうん、ポールさんの恋愛ストーリーは、断然男性目線が好き!
    なんか、淡々としていて、がっついてなくていいんだよねぇ。

    だけど今回、「実はただ単に静電気をためやすい服装をお互いにしていて・・・」みたいなオチがつくんじゃないかと、そっちにドキドキしながら読み進めてしまった(^^;

    私にはもう、ピュアな恋愛モノを楽しめるようなキレイな心は残っていないのかしら(^^;

    「ぴりっ」としてるのに、甘酸っぱいお話ですね。

    正直に言うとポールさんの書くお話、
    地球や宇宙が滅亡する話よりも、
    恋愛やほのぼの系、ちょっとエスプリの効いた話の方が、個人的には大好きです。

    「少女マンガみたいに」とこれとで、ぴゆうさんと僕の評価が真逆なのにオドロキ。
    人の評価はいろいろってことで。今後の「恋愛もの」の参考にしていただければ。(←参考になるのか?)

    いや、これもキライじゃないですよ。ただストレートすぎて読んでて恥ずかしいというか・・・。

    Re: ぴゆうさん

    そうお褒めいただくとものすごく嬉しいです♪

    これで次はビターなものを書こうという気になりました♪

    我ながらへそ曲がり……(^^;)

    ウッキーーーー
    v-10v-14
    すごく良かったどーーーーー
    ニャンてステキなのぅーーーー
    ポールはやっぱ男子視点のがいいよ。
    ふむふむ
    ラブリィ~
    今回は座布団十枚だに。

    Re: 矢端想さん

    まあ習作ですので……。(でも本気で書いている)

    今度は思い切りビターなやつを書いてみようか。

    うむむ。

    なんか読んでて気恥かしくなっちゃう話だなあ・・。
    ストレートすぎというか、わかりやすすぎというか。
    ラブストーリーはたいてい気恥かしいけど、「ステキなお金の使い方」は良かったですね。

    僕は残念ながら指に電気が走ったことはありません(静電気でバチっというのとは違いますよねw)。
    身体の一部が触れて、しばらくドキドキドキドキし続ける、というのはあります。(←ウブ)
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