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    「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
    範子と文子の三十分的日常(ギャグ掌編小説・完結)

    範子と文子の三十分的日常/十一月・そろそろ試験も近くなってきた日

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    「そろそろね」

    「うん」

     範子と文子の二人は、離れた机に着いて、ブザーが鳴ったことを確認すると、英語の小論文の模擬試験問題を開いた。

     単に英語の文章を読んで小論文を書くのではない。英語の文章を読んで、英語の文章で小論文を書くのだ。

     小論文のテーマは、「ジョン・ロールズの『正義論』の該当ページを読んで、正義は我々にとって語りうるものなのか、語るべきものなのかを答えよ」というものだった。

     文子はこれまで大上先生や忍子に読まされてきた幾多の本を必死になって思い出しながら、テスト用紙を埋めていった。

    “正義は語りうるものかどうか、という問いが哲学的にナンセンスであることは、ウィトゲンシュタインを引くまでもなく、プラトンが対話篇で書いたソクラテスの一連の議論からも明らかである。

     正義は語りうるものではない。それは人間の論理を超えたところに存在するからである。ウィトゲンシュタインに倣えば、それは純粋な『示される』ものである。正義の正当性は、『語る』ことは不可能であるが、我々の前に開示されている。

     だが、それをウィトゲンシュタインがいったように、『語りえないものについては沈黙しなければならない』としてしまっていいのだろうか。

     ロールズの問いかけは、そこから始まる。

     われわれは、正義が語りえないものであることを知りながら、なおも正義について語らねばならない。

     正義を語ることは無理でも、示された『正義』の導くままに、『正義』の最も理想的な代替物を作ることが、ロールズの著作から読み取ることができる、われわれのせねばならないことである。

     さて、ロールズだが……”

     時間はじりじり過ぎて行く。試験時間は四時間あったものの、文子がなんとか結論の論証を書き終え、見直しにかかろうとしたところで、ブザーが鳴った。

    「終わり」

     忍子が無情に告げた。

    「うー」

    「あー」

     範子も文子もノックアウトされたボクサーのような声を出して筆記用具を置いた。

    「解答用紙を」

    「はい、しの。うー、頭ががんがんする」

    「しのちゃん、わたしのもお願いするね」

     忍子は、二人の解答用紙にちらりと目を走らせた。

    「二人とも奨学金試験の合格率は七十五パーセントというところ」

    「で? わたしたちはどこが悪かったの?」

    「しのちゃん、丁寧に解説してほしいよ」

     忍子は二人の論を的確に批評していった。

    「範子の論文は、マイケル・サンデルに寄りかかりすぎ。文子の論文は、ロールズの読み込みがちょっと甘い」

    「がー」

    「うーん……」

    「でも、二人とも、じゅうぶん合格範囲内。変なことさえ書かなければ、まず試験には通る。少なくとも、趣味で手伝っている予備校の模擬試験の採点に比べれば、はるかに面白い」

    「面白い、といわれても困るんだけど。まあいいわ」

     範子は何か飲み物を求めたのか、台所へ続くドアのノブを握った。

    「文子?」

    「なに、範ちゃん?」

    「なにか悩み事があるなら、しのだけじゃなく、わたしにも相談して」

     文子は目を伏せた。

    「……ごめん」

    「いいけれど」

     範子はちょっと怒ったように台所へ行った。

    「しのちゃん、今夜もお願い」

    「範子といっしょにやったほうがいいのではないか」

    「でも……」

    「まあいい。駒子がなんとか歩き方を覚えたから、今度は座り方を教えなければ。その間ある意味退屈だから、外国語を教えることくらいはできるだろう」

    「駒子ちゃんはどうするつもりなんだろう?」

    「体育大学の試験に向けての勉強はしているようだが……。文子も座ってみるか?」

     迫ってくる「その時」を前に、宇奈月家の敷地では、少女たちのさまざまな思いが交錯していた。
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    ~ Comment ~

    Re: 秋沙さん

    まだ若かりしころ小論文と格闘して、できるだけ頑張った回答をしたことがありました……。

    最近の大学入試はほとんどが小論文で、学生が勉強しなくなってしまったと、知人の教師が嘆いてましたが、どうしてそういう素晴らしい時代がもっと早く来なかったんだっ!(笑)

    (ToT)

    最近、ポールさんのところへのコメントが短めになっているなぁと思って、今日はじっくり取り組もう、と思ったら・・・

    ほとんど日本語の意味がわからなかった・・・(ToT)
    (いや、だからって英語だったらわかるかって言ったら、今度は0%になっちゃうんだけど)

    Re: るるさん

    この問題、高校生に出すにはかなり酷な問題だったかもしれん。

    けれど、ほんとうに真面目に海外留学をするつもりならなあ……。

    有名なフランスのバカロレアでは口頭試問まであるそうです。フランス人でなくてよかったぜ(^^;)

    が、がんばります……。

    がくぶる。
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