「ショートショート」
    SF

    老後

     ←趣喜堂茶事奇譚/熱い太陽、深海魚(その2) →予告「銀河農耕伝説」シリーズ
     いつものようにおれは、パソコンの前に向かってモニタとにらめっこしていた。

     モニタには、おれの書きかけの小説が映し出されていた。

    『そうか、宇宙における人類の存在の意味は……』

     小説はそこでぶつっと途切れている。

     だいたい、宇宙における人類の存在の意味なんて、ひとりの物書き志望のSFファンが考えて、わかるものなのだろうか。思いつく限りの人類の存在意味は、すでに過去の大家によって刈りつくしに刈りつくされ、今やぺんぺん草の一本すら生えていないような状況だ。

     それでも、おれは考えなければならないのだ。なぜならそうしないと毎日更新が途切れるからだ。

     人類文明の意味、人類文明の意味……。

     煙草をやらないおれは別な嗜好品、すなわちウーロン茶をひと口飲んで、キーボードの上で指をタップさせた。

     そのときだった。

     出しぬけに、おれは理解した。わかってしまったのである。人類文明の宇宙に対して持つ崇高な意味が!

     ブッダが悟ったときもそうだったのだろう興奮とともに、おれはキーボードを叩こうとした。

    「おめでとうございますうううううううううっ!」

    「わっ!」

     いきなり耳元で怒鳴られて、おれは心底びっくりした。この部屋には、おれ以外いないはずなのだから当然だ。

     どこから現れたかもわからぬそいつは、バラエティー番組のお調子者のレポーターみたいな派手な背広を着ていた、役人みたいな顔の男だった。

    「あああ、ななななんですかなんですかあなたは」

    「わたし? ああ、申し遅れましたが、わたし、神様みたいなものです」

    「は、はあ。で、神様みたいな存在が、なんでこんなアマチュアネット物書きのところへ?」

    「あなた、人類文明の意味について悟ったでしょ」

    「え? ……ええ、まあ」

    「それにより、人類は人類の仕事を果たしたのです。人類文明の目的は、『人類が人類の存在意味を見出すこと』だったからです」

    「ははあ……」

    「これで、あなたがたの苦労も終わりです。では、仕事を休んでゆっくりしてください」

    「へ?」

    「つまり、もう仕事は終わったので、あとは、なにをしようと勝手、ということです。人類は無事に務めを果たしました。これからは、いわば、老後の余暇時間です。どう生きたってかまいません。盆栽作りに精を出そうが、俳諧や詩吟にのめりこもうが、ボケようが絶滅しようが、われわれは全てを許します。よかったですね」

    「よ、よかったって……」

    「いや、われわれとしても、こうして務めを終えられる知的生命を見るのは嬉しいのですよ。務めを終える知的生命もいれば、これから務めを始める知的生命もいる。席が空かなくては、新人も入れないわけですからね。いや、よかったよかった。それでは、わたしはこれで帰ります。あとは、ご勝手に」

    「ちょっと、ちょっと待ってください! それって、体のいいリストラ……」

     おれの必死の呼び掛けには答えず、神様みたいなものは、来た時と同様、どこかへ消えてしまった。

     まったく、なんて無責任な話だ。おれは頭を抱えた。

     頭を抱えるには別な理由もあった。

     唐突に表れたあの神様野郎にびっくりさせられたせいで、おれはさっきひらめいた、宇宙における人類文明の意味についての悟りの内容を、すっかり忘れてしまったのだ。

     目の前には相変わらず、途中で切れた小説の映ったモニタがある。今日中に更新しなければアウトだ。

     どうしよう。
    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    【趣喜堂茶事奇譚/熱い太陽、深海魚(その2)】へ  【予告「銀河農耕伝説」シリーズ】へ

    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    「推理小説の最後の謎解きを読んでしまってもうなにもすることがなくなった状態」……といえば近いのかもしれません。

    我ながらミもフタもない(笑)
    • #7829 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.04/25 18:41 
    •  ▲EntryTop 

    おはようございます^^

    人類文明の宇宙に対して持つ崇高な意味――

    眠くて眠くて、家にいたい病の今日は
    それがわかって「好きにしていい」と言って貰いたい(笑)


    でも、全く閃かない(笑)

    Re: ぴゆうさん

    >何が言いたいんだ

    つまり、人生経験を積むと悲観的になる、ということですかね。

    もとから悲観的なわたしみたいなのもいますけど(^^;)

    本調子には程遠いいけど、なんか悪くない。

    老後ってタイトルが嫌だわ。
    人が老けていくのは生を諦めるためらしいけど、
    なんかわかる気がする。

    何が言いたいんだ私?

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    Re: 秋沙さん

    全盛期に笑いながら読んだ、あそこの読者コーナーはすさまじかったなあ……。

    「ムー」(爆)

    Re: 秋沙さん

    フィクションに決まっとろーがー!(^^)

    ほんとにそういう体験したら、「ムー」に原稿送ってますって(笑)

    まだあるのかな「ムー」(^^)

    わぁ、大変な経験をなさいましたねぇ、ポールさん(^^)

    お疲れ様でした。
    でも、忘れちゃったおかげで、まだリストラされずにすむんでは・・・?

    え・・・?これ、フィクションなの・・・?
    またまたぁ(^^)

    Re: 面白半分さん

    しまった! 「務めを終えた」ことに気づかないまま一万年を生きた、ということにしといたほうがショッキングだった!

    うかつだった。ウーロン茶飲んで寝よう。

    ポール・ブリッツさんのせいで
    人類は”務めを終え”てしまったんですね。

    Re: いき♂さん

    楽しんでいただいてありがとうございます。

    ところで「炎のキース」の続きはまだですか?(^^)

    壮大なテーマも忘却の彼方。
    最後は小説の更新に悩んで終わる。
    きっちりとオチがついていると思います^^
    好きだな、これw
    楽しませていただきました!

    Re: ONLY++NOTEさん

    終末観が前提というわけでもないのです(^^)

    ショートショートSFの場合、結末で収束させるときにカタストロフを使うほうが、「楽」であるという現実的理由なのであります。ミステリを書くとき、殺人事件にしたほうが、登場人物を減らすことができてある意味「楽」というのと同じことでありますね。

    また、思いつくアイデアが、「長編を支えられる」ものでない、ということもあります。長編を支えられるだけのアイデアが次々と湧いたらいいのになあ、と思うこともしばしばです。

    火浦功先生は、「突如隕石が落ちてきて、なにもかもうやむやになって終わり、というエンディングはどうでしょう?」と編集者に訴えるというギャグを著書でやっておられましたが、その気持ちは実によくわかるのであります。

    ごく平凡な日常に回帰してしまったら、大風呂敷を広げる必要もないものなあ、しかしなあ……と毎日PCの前で頭を抱えております。

    カタストロフばかりでもワンパターンになってしまうのが、宿命というか、「つらいところ」でありますが……(^^;)

    御元気ですか?久しぶりにコメント書きますね。いつも、面白い、いい作品ですね。それにしても、SFっていうのは、終末観が前提なんだね?この世ではなく・・・。非現実という意味では、時代小説も同じかな?何言ってんだろう・・・当たり前のことを・・・。

    Re: たかのゆき先生

    おっしゃられる言葉のひとつひとつに、自分の未熟を思い知らされます。

    本来は、「リストラ」で切る予定でしたが、そうしたら、語り手の男が悟った「人類の文明の意味」が宙ぶらりんになってしまうので、ああしたのですが、よく考えると確かに話のテンポを悪くしていますね。

    語り手の日常生活の描写ももっとするべきでした。描写が苦手なので、無意識のうちに描かなかったのでしょう。

    ご意見ありがとうございます。またなにか、至らぬところがありましたら指摘していただけると幸いです。

    >頭を抱えるには別な理由もあった。
    この一文は要らない気がします。

    「ちょっと、ちょっと待ってください! それって、体のいいリストラ……」
    が最後に来るとバシッと落ちる気がしますが・・・・。

    主人公をガッカリさせる落ちなので
    神様が出てすぐ、主人公を糠喜びさせて欲しいです。

    宇宙の様な壮大な事を考え、神様まで出てくるのですから
    対比として狭くリアルな部屋の描写が初めにあると良いなと
    思ったのですがどうでしょう?

    ・・・と読みながら思った事を箇条書きにしてみました。
    お気に触るようでしたら消して下さい。
    お願いいたします。
    一感想として加えていただければ幸いです。

    Re: 矢端想さん

    実話だったらよかったんですけど(^^;)

    Re: るるさん

    どこの世界でも神様とは勝手なものです(笑)

    > 人類が人類の存在意味を見出すこと
    自己言及のパラドックス?

    ・・・あっ、これ実話ですよね!?すごいなあポールさん。

    勝手な神様も多いなぁ。
    ギリシア神話みたいな……。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【趣喜堂茶事奇譚/熱い太陽、深海魚(その2)】へ
    • 【予告「銀河農耕伝説」シリーズ】へ