「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
2 闇は千の目をもつ(完結)
闇は千の目をもつ 3-3
診療所に入ってきたのは、三十ちょっと前くらいの女だった。
美貌というにはあまりにも十人並みすぎる顔の持ち主。どこにでもいるようなぱっとしない女だった。
「桐野メンタルヘルスはここですか」
女は受付のガラス窓越しに、わたしにいった。
「そうです」
わたしは答えた。ここが桐野メンタルヘルスで、わたしが責任者の桐野俊明であるのは、ここが地球という惑星の上であることよりも確実なことだ。
「開業時間前ということはよくわかっていたのですが……」
「そう気にされないでも結構ですよ」
女は受付のあたりをきょろきょろと見回した。
「診察券とかは……」
「ありません」
わたしは答えた。こんな貧乏で貧弱な診療所もどきが、診察券などというシステムを導入できるはずもない。印刷代だけで大赤字になる。
「いちおう、そこのノートにご自身の住所氏名をお書きになってください」
「保険証とかいりますか?」
「いえ。ここは、医療機関ではありませんので」
要するに、わたしの診療所では保険はきかないのだ。怪しげな各種療法に名を連ねたものの宿命だ。
「でも、身分の証明になるものをお持ちでしたら、どうか見せてください。そのノートといっしょに」
女は、運転免許証といっしょにノートをこちらに突き出してきた。わたしは書かれていることを読んだ。
「高宮秋子さんですね。ええと」
住所は……。
「東村山のかたですか?」
女、高宮秋子は二、三度首を激しく縦に振った。
「先生の噂をお聞きしまして……」
噂か。ナイトメア・ハンター、桐野俊明もこうして噂が立てられる人間になったということか。わたしはあごを撫で、にんまりとした。
看板というものは出しておくものだ。噂が、東村山みたいな遠くからこの八王子にまで客を呼んでくれることもこうしてたまにあるらしいのだから。
「わかりました。診察室のほうへお入りください」
わたしは高宮秋子に隣の部屋に行くよううながした。
高宮秋子の後ろ姿を見送った後、ちらりと湯気を立てている赤いきつねのどんぶりに目をやった。
あきらめたほうがよさそうだった。
美貌というにはあまりにも十人並みすぎる顔の持ち主。どこにでもいるようなぱっとしない女だった。
「桐野メンタルヘルスはここですか」
女は受付のガラス窓越しに、わたしにいった。
「そうです」
わたしは答えた。ここが桐野メンタルヘルスで、わたしが責任者の桐野俊明であるのは、ここが地球という惑星の上であることよりも確実なことだ。
「開業時間前ということはよくわかっていたのですが……」
「そう気にされないでも結構ですよ」
女は受付のあたりをきょろきょろと見回した。
「診察券とかは……」
「ありません」
わたしは答えた。こんな貧乏で貧弱な診療所もどきが、診察券などというシステムを導入できるはずもない。印刷代だけで大赤字になる。
「いちおう、そこのノートにご自身の住所氏名をお書きになってください」
「保険証とかいりますか?」
「いえ。ここは、医療機関ではありませんので」
要するに、わたしの診療所では保険はきかないのだ。怪しげな各種療法に名を連ねたものの宿命だ。
「でも、身分の証明になるものをお持ちでしたら、どうか見せてください。そのノートといっしょに」
女は、運転免許証といっしょにノートをこちらに突き出してきた。わたしは書かれていることを読んだ。
「高宮秋子さんですね。ええと」
住所は……。
「東村山のかたですか?」
女、高宮秋子は二、三度首を激しく縦に振った。
「先生の噂をお聞きしまして……」
噂か。ナイトメア・ハンター、桐野俊明もこうして噂が立てられる人間になったということか。わたしはあごを撫で、にんまりとした。
看板というものは出しておくものだ。噂が、東村山みたいな遠くからこの八王子にまで客を呼んでくれることもこうしてたまにあるらしいのだから。
「わかりました。診察室のほうへお入りください」
わたしは高宮秋子に隣の部屋に行くよううながした。
高宮秋子の後ろ姿を見送った後、ちらりと湯気を立てている赤いきつねのどんぶりに目をやった。
あきらめたほうがよさそうだった。
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