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    最近のサンタクロース

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     おれは、この総合病院の薄暗い廊下のベンチで、いらいらしながら腕を組んでいた。

     おれの隣には、悟りを啓いた生臭坊主みたいな、見るだけで脱毛症とわかる五十がらみの男が、酒やけだろうか、妙に赤い鼻でだらしなく座っていた。別に寝ているわけでもないらしい。

     おれはちらりと時計を見た。二〇一一年十二月二十四日、二十三時五十分。

    「あんちゃん、時計を見たからって、ガキは早く生まれてはこねえよ」

    「ほっといてください」

     おれは、隣の中年男の、デリカシーのまったくない発言にかちんときた。

     文句をいってやろうとそちらに顔を向けたとき、目の前になにかが突き出された。

     ガムだった。

    「これでも噛みな。少しは落ち着く。おれのおやじがいっていたが、昔は病院の廊下でもタバコが吸えたそうだ。今じゃあ、タバコも吸えやしない」

     出鼻をくじかれたおれは、一礼すると、ガムを受け取って口に入れた。さわやかで甘くてそして辛い、ミント味のガムだった。

     おれが噛み始めたのを見届けるようにして、中年男もガムをくちゃくちゃやり出した。

    「しかし、頭が固いねえ、この病院も……。院内は完全禁煙、産室には患者および医師以外、一切立ち入り禁止と来てる」

    「それだけ安全ってことですよ。産褥なんかで沙羅を失ったら、やりきれませんからね」

    「沙羅ってのは女房の名前かい。まあ、ガキの名前じゃねえよな。この病院、頭が固くて、男か女かすら教えてくれねえもんな。あんちゃんも、最近の流行に乗っかって、生まれる際には、女房の手を握ってやりたいんじゃねえのかい?」

     おれはうなずいた。

    「図星です」

    「だろうな。年末のこの忙しいときに、職場を抜け出してくるなんて、そうとうな愛妻家か恐妻家のどっちかだ」

    「そういうあなたはどうなんです」

    「おれ? おれか? はっは、どちらかといえば恐妻家のほうだな。女房が二十も下だから、いざ喧嘩で殴りあえば、こっちの負けは確実だからな。女というのは、こうしておれにも子供を持つチャンスをくれるだけ、神様が精神的にも肉体的にも強く作ってるんだ」

     おれは無理やり笑った。

     時計を見る。二十三時五十五分。

    「わたしも、神様がサンタクロースのそりを早くよこしてくれないかと、そればっかりを願っていますよ」

     隣の中年男は、ガムを紙の上に吐き出すと、丸めてそばのくずかごに捨てた。それを見てはじめて、おれは自分が噛んでいるガムから味がきれいさっぱり抜け落ちていることに気づいたが、隣の男に二枚目をねだるのもなんとなくしゃくだったので、意地になって噛み続けた。

    「サンタか。もし、トナカイの引くそりに乗って、鈴の音も高らかにやってくるって話を信じているんだとしたら、そいつはあきらめたほうがよさそうだな」

     これにはおれもむっとした。

    「サンタの事情にも詳しいんですか? おれは、訳知り顔で、子供に『サンタクロースはほんとはいないんだ』なんて教える大人は大嫌いでしてね」

     中年男は、大笑いした。大笑いしながら、おれの前にもう一枚のガムを突き出した。

    「いや、言葉がまずかったな。ま、これでも食って落ち着けや、あんちゃん。最近のサンタというものはな……」

     おれが、中年男の言葉をさえぎり、ガムなんかいらん、といおうとしたとき、病室のドアが開いて、看護士が顔をのぞかせた。

    「高山さん、笠倉さん、赤ちゃんがお生まれになりましたよ! どちらも元気な赤ちゃんです! どちらの奥さんも大丈夫です! こんなことってあるんですね、クリスマスの深夜十二時に、二人そろって生まれるなんて!」

     おれは思わず、隣の中年男の手をとった。

    「ほら見てください、ちゃんとサンタはいるじゃないですか!」

    「誰もサンタを否定しちゃいねえよ、あんちゃん」

     中年男は笑いながらいった。

    「最近のサンタは、トナカイのそりの代わりに、コウノトリに乗ってやってくることもあるといいたかったのさ」
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    ~ Comment ~

    Re: ヒロハルさん

    わたしみたいな臆病でかたくなな人間にも心を開かせてくれるのです、クリスマスという日は。

    とはいえ、ヒロハルさんが先にうちのブログを訪れてくれなかったら、わたしもこうして勇気を出して謝りに行くことはできなかったでしょうね。

    それもサンタクロースからのプレゼントだったのかもしれません。

    Re: 秋沙さん

    そういやわたしも元朝参りに行くしなあ。

    まあ日本人らしいといえば日本人らしいのですが(^^)

    ちなみに出産に立ち会ったかどうかですが、

    「その前にいい人を見つけろお前」といわれるクチで……(^^;) もてない歴=年齢(笑)

    昨日はありがとうございました。
    まさか、あんなお言葉をもらえるとは思えなかったので、ビックリでした。

    少しひねくれた者のような男もやはり最後は「父親」でしたね。
    私も来年には父親です。

    あら素敵。

    私が出産した病院は、事前の指導を受けてあれば立会ができましたが、うちのダンナは「やだよ」と言ってしませんでしたわ(笑)。
    まぁ、私も、あの痛みで大騒ぎの姿をダンナに見せるのは抵抗があったので、よかったですが(^^;

    いいですね、出産を待つ二人の男性の会話。
    ポールさん、経験あるのかと思っちゃいましたよ(^^)


    めりーくりすます!
    (私は真言宗ですが、その前にやっぱり日本人。神社に行けば拍手を打つし、葬式では真言を唱え、やっぱりクリスマスにはなんか特別な意味がある気がして浮かれるんですよね~、今年は体調不良でさんざんですが)

    Re: 矢端想さん

    そのお心になんと言葉をおかけすればいいのかもわかりません……。

    飲み屋かどこかで話し合いたいところですね。

    私は、立ち合いました。

    夫婦にとっての最高のプレゼント。
    そして、この日に生まれたわが子の将来を案じる親心。
    人類の贖罪などどうでもいい!むしろすべてが滅びても、ただお前だけは幸せな人生を送って欲しい!! マリアもヨセフもそう願ったんだ。


    ・・・メリークリスマス!!!!(汗)

    Re: 鍵コメさん

    メリークリスマス。

    まあゆっくりなされることですね。

    とりあえず乾杯!v-307

    Re: limeさん

    前に、ネットで知り合った友達に、クリスマスストーリーとして、イヤな結末を迎えるミステリを送ったらあまりいい顔をされなかったという。

    それ以来、反省している(笑)。

    おっちゃんについては、

    しまったそのオチがあったか。(^^;)

    Re: Magdalenaさん

    クリスマスストーリーを書くときには、いつもあの有名な新聞の社説を思い出して書いております。

    あの社説を書いた人間には天使が降りたのだとしか思えません。

    こう書いているわたしは曹洞宗なのに(笑)。

    Re: 面白半分さん

    やっぱりクリスマスストーリーにはさえない男でしょう(違)

    こういうちょっとした幸せっていいですよね。

    まさか今日ばかりは、殺伐としてどす黒いハードな結末の物語は書かないだろうと思っていましたよ。
    (ちょっと心配でしたが^^)

    なんか、粋なお話でしたね。クリスマスが誕生日って、素敵♪
    このお話って、いろんなラストが想像できて、たのしいですね。いろんなパターンを書きわける・・・て遊びも面白そう^^

    しかし、20も若い奥さんかあ~。
    やるなあ、この赤鼻のおっちゃん。
    実は、コウノトリに仕事を奪われたトナカイだったり・・・。

    Re: YUKAさん

    クリスマスくらい平和な話を書きたい(笑)

    ということでこうなりました(^^)

    いやハードで殺伐とした作品がお好みならいくらでも(笑)

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    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    こんにちわ

    なんと最近のサンタは
    "トナカイのそりの代わりに、コウノトリに乗ってやってくることもある"・・・

    いいですね、大人もサンタの存在を信じて
    Merry Christmas v-339

    クリスマス・ストーリーに
    さえない中年男がでてくるってのは
    なんかいいなと思ってしまいました。

    Xmasイヴですね♪

    よませて頂きました^^

    いいですね!
    このおじさんがもしかしてサンタ?!
    と疑いましたが(笑)

    コウノトリに乗ってやってきたサンタ。。。いい話です^^

    クリスマスにちょっとした小咄を、と思って書きました。

    クリスマスにはクリスマスストーリーを書かないと気が済まないのであります(笑)

    曹洞宗なのに(^^;)
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