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    「ショートショート」
    SF

    きりなしばなしの終わりに

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     きりなしばなし。子供を寝かしつける際に、枕もとで話す、終わりのない話。日本の全国各地にさまざまなパターンのものがあるが、まとめると、同じ話を、節回しやイントネーションを変えて繰り返すものである。



    「じゃあ、頼んだよ」

     そういって明かりを消すと、この家の主は寝室へ歩いて行った。子供部屋には、ベッドに寝ているまだ三歳の息子と、そのお守りをおおせつかったお手伝いさんが残された。

    「おねえちゃん、お話、お話!」

     お手伝いさんは微笑んだ。

    「それじゃ、きりなしの話をしてあげましょう」

     寝ている子供は、きらきらとした笑顔で、お手伝いさんのお話を待った。

    「むかーし、むかし、とある山の奥、川のほとりに、きりなしという梨の木が一本、立っておりました。その木には、たわわに実がみのっていました……」

     お手伝いさんは、やわらかい声で話し始めた。

    「ある日、風が、どうっと吹きました。木の枝が揺れて、梨の実が、川にぽとんと落ちました。梨の実は、つぷり、つぷりと川を流れていきました」

    「つぷり! つぷり!」

     暗闇の中、子供ははしゃいだ。

    「つぷり、つぷりと流れていった実が見えなくなると、また、風が、どううううっと吹きました。木の枝が揺れて、梨の実がまたひとつ、川にどぼーん、と落ちました。梨の実は、がぶらっこ、がぶらっこと川を流れていきました」

    「がぶらっこ、がぶらっこ!」

    「がぶらっこ、がぶらっこと流れていった実が見えなくなると、風が、そよっと吹きました。木の枝が揺れて、梨の実がまたひとつ、川にぽちり、と落ちました。梨の実は、すりり、すりりと川を流れていきました」

    「すりり……すりり……」

     男の子はだんだん眠くなってきたようだった。お手伝いさんは話を続けた。

    「すりり、すりりと流れていった実が見えなくなると、風が、ふうらふい、と吹きました。木の枝が揺れて、梨の実がまたひとつ、川にさばっ、と落ちました。梨の実は、ころろこん、ころろこんと川を流れていきました」

    「ころろ……ころろこん……」

     お手伝いさんは微笑みを崩さなかった。

    「ころろこん、ころろこんと流れていった実が見えなくなると、風が、ほおおおっ、と吹きました。木の枝が揺れて……」

     男の子は眠っていた。



     それから何年たったかわからない。

     育児用メイドロボット、RK-8は、主人が自分に課した最後の命令、「子供を寝かせるためにできる限り長く話を続けろ」という命令を、ひたすら実行していた。

     敵を抹殺するために無差別に発射された呆れるほどの中性子爆弾による中性子の嵐は、この地下シェルターまで完全に浸透していた。

     自分の息子に、眠りながら安らかに死ねる安楽死剤を飲ませた父親は、その日のうちに自分の行動を煩悶しながら銃で頭を吹き飛ばしていた。

     RK-8に、そこまで考えられるだけの人工知能はプログラムされていなかった。

    「ガ……ガリ、ト、ナガレ、テ、イッタ、ミガ……ミエナク……ナ……ルト……カゼ……ガ……」

     半ば風化しつつある子供の死体の横で、ついにRK-8は作動を停止した。

     それがきりなしばなしの終わりだった。
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    ショートショートしか書けないわたしはこのロボットみたいな存在なのではないかと思う時があります。

    いえ書いている人間のエゴですが(汗)

    こんばんは♪

    うわ~~~
    冒頭のほのぼのがどう変わるのかと思ったら、かなり切ない話しでした^^;

    きりなしばなしの終わりに。。。

    タイトルからして切ないですね。

    Re: ねこまたさん

    はじめまして。ようこそいらっしゃいました!

    切ないものから、ラブロマンスから、ホラーから、冒険小説から、ナンセンスギャグまで、もう無節操なほどになんでもありますので、どうぞどこからでもご覧になってください(^^)

    はじめまして

    初コメントになります。
    この話を読み終えたときには、切ない気持ちになりました。
    面白い作品が多そうなので、また来訪させていただきます。

    Re: limeさん

    こんばんは。どうやらlimeさんにはいつもブラックなギャグばかり考えている優しさのかけらもない人間と思われているらしいポール・ブリッツです。(単なる冗談ですので傷つかないでくださいlimeさん(^^;))

    今回は、子供を眠らせるための優しい擬音語を考えるのにたいへん苦労しました。わたしは詩人になれないなあ、と痛感したであります。

    それにしても畏るべきは賢治の擬音創作力です。よほどの耳と、詩人の魂を持っていないと、あの「音」は出せません。あまり好きではないのに、なにを書いてもそのエピゴーネンみたいになってしまうのに疲れ果てました。

    「獣林寺妖変」、真相であっと驚きますのでご期待ください。ホワイダニットのミステリとしても一級であります。それがなんでカルトになるのか。世の中間違ってるよとほほほ。いや正しいのか(^^;)

    今日はコメディかと思って読みに来たら・・・(>_<)

    なんて切ない。

    でも、お手伝いロボットの、優しい擬音の物語にはうっとりしました。
    ポールさん、こんな優しいお話も・・・。

    宮沢賢治のお話も、優しいようで、実は残酷だったりしますよね。
    じつは、人の心を掴むのは、そんなお話なのかもしれませんね。

    ようやくまた、赤江先生を読み始めました。獣林寺妖変。休み時間に数ページ読んだだけですが、引き込まれますね。

    Re: 秋沙さん

    擬音を考えているうちに悟りました。

    やっぱり宮沢賢治は天才だ。作品はあまり好きじゃないけれどやっぱり天才だ。

    内容はちと残酷にすぎたかもしれないけれど、戦争って、こういうものだと思います……。

    Re: 土屋マルさん

    甘い話を書いていた反動が(笑)。

    元ネタにしたのは、「火星年代記」の1エピソード。

    ブラッドベリは天才だなあ、とマジで思いました。

    ちなみに、この「きりなし」というのは、「きりがない」とかけているみたいです。わたしも小学生のころ読んだ民話集の巻末におまけみたいについていたやつの記憶だけで書いていますが……。

    作者がいうのもなんですが、RK-8、ほんとにかわいそうなロボットですね。うむむ。

    あらまぁ、昔話の世界?まるで宮沢賢治のような素敵な言葉がたくさん・・・と思って読んでいたのに・・・



    (ToT)ダー

    な、何と言う切ないお話を‥‥(´;ω;`)ブワッ

    超短編が何とか出来たご報告に伺ったのに、イキナリ泣かされました。
    最初は、南国のヤシの木陰で語る寝物語かと思って、ゆったり気分だったのに、本気で切ないですorz
    可哀想だ、RK-8‥‥

    キリナシバナシ、というタイトルもちゃんと意味があって、本当さすがです。
    穴の開いたナシだと思った私の、何とも残念な発想力に自分でびっくりwww
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