「ショートショート」
    ユーモア

    サービスタイム

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     おれは同僚の田中ほか三名を引き連れ、忘年会の二次会の場所を物色しつつ歩いていた。

     夜も遅く、皆、酒が入っていた。

    「主任、主任! あれ見てください!」

     田中がおれの袖を引っ張った。

    「なんだよ、回転寿司屋じゃないか。あれが?」

    「おれ、酔っ払ってるんですかね。一皿十円って、書いてあるように見えるんですけど」

    「目の錯覚だろ、バカ。どこに十円の寿司なんかあるんだ。今は昭和初期か」

     おれはうさんくさげに田中の指し示す先を見た。

    「…………!」

     ほんとだった。

    「冗談か何かですかね」

    「いや」

     おれは、考え考えいった。

    「これはほら、あれだ。閉店セールとかだろう。明日で店を畳むとかいうことで、在庫の一掃を図っているんだ。食おう。こんなチャンス、めったにないぞ。それ、前進!」

     おれたち四人はぞろぞろと店に入っていった。

    「いらっしゃいませー!」

     バイトの女の子だろう、寿司屋の制服を着た子が迎えてくれた。

    「あの、外の、一皿十円って看板だけどね」

    「はい、十円ですよ」

    「消費税は?」

    「税込です」

    「なにを食っても十円?」

    「はい。なにをお召し上がりになっても十円です。サービスタイムですので。明日の午前二時までとなっております」

    「ほんとに?」

    「ほんとうです」

    「ほんとにほんと?」

    「ほんとうです」

    「よし、みんな、食うぞー! 飲むぞー!」

    「すみません、ビールは品切れなんです」

    「じゃあ日本酒で。なにか」

    「かしこまりました。四名様ぁーっ!」

     おれたちはテーブルに案内された。

    「まず、なにからいく?」

    「あたしトロ!」

     すでに出来上がっていた、職場の紅一点、にしてはとうのたった岡村嬢が叫んだ。

    「トロなんて……」

     おれは回転するベルトコンベアを見た。

    「あっ、回ってきた。それもこれ、大トロですよ。四皿流れてきました」

     おれたちは皿を取った。おれは醤油をつけて口に入れた。

    「すごい。ほんものだ。ほんものの大トロだ。味もすばらしくいい」

     おれの言葉に、同僚たちは歓声を上げ、大トロの寿司をぱくついた。

     テーブルに、一升瓶が運ばれてきた。

    「これは?」

    「サービスとなっております」

     酒が入っていたこともあり、おれたちはひたすらに食い、飲み、食い、食い、食った。

    「ウニ!」

    「アナゴ!」

    「シメサバ!」

    「主任、シメサバは品切れになってます」

    「じゃあ、イクラ!」

    「カニ!」


     ……………………

     ……………………

     ……………………


     店側が白旗を上げたのは午前二時までまだ三十分もあるときだった。

     おれたちはレジに向かった。

    「よーし、ここはおれが払っちゃうぞー!」

    「よっ! 主任! 太っ腹っ!」

    「ごちそうさまでした!」

    「三次会はもういいです、主任。これ以上食えない」

     同僚たちを送り出して、おれはレジに一万円札を出した。

    「足りるだろ?」

    「もちろんです。今、お釣りを……」

    「釣りはいらねえぜ」

     おれはいっぺんいってみたかったセリフを吐き、レシートも取らずに背中を向け、自動ドアをくぐった。

     レジへと誰かが走ってくる足音が聞こえた。

    「支店長。もうメーカーに持ってくしかないです、あの壊れた冷蔵……」

     ドアが閉まり、声は途中で途切れた。

     おれは引き返そうとしたが、オートロックのドアは二度と開くことはなかった。

    「どうしたんです、主任?」

    「いやなんでもない……なんでもないんだ」

     ここで真実を話せば、おれの責任問題になりかねない。黙っているに越したことはなかった。

     サービスタイムは終わったのだ。
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    ~ Comment ~

    Re: いもかるびさん

    なるほど。

    ということは、いもかるびさんも、魚の味についてはひとことあったりするんですか?

    わたしは、うまいものの話を読んだり書いたりするのは好きですが、自分の食事はどうしてもスーパーの特売になってしまいますよね、毎食……。

    もともと仕出し屋さんで寿司とは別に出してたんだと
    思います。
    おじが他店に修行中のときに覚えたのかなぁ。
    ひれとか柱にひっかけて干してありました。

    免許は県によって難易度にえらく差がある
    みたいな事をラジオで聞いた事があります。
    本職ではないのでそこの所は分からないです。
    (京都が特に難しいんだっけ。)
    情報が正しいかどうかも分かんないんですが・・・。

    Re: いもかるびさん

    ふぐですか! あれって免許難しいんでしょうねえ。

    でもお寿司屋さんでふぐって見たことないなあ。寿司には合わないのかなあ繊細すぎて……。

    1冷蔵がだめなら冷凍すればいいじゃない。あれ。

    お肉屋でO-157が出たらいつも巻き添えで
    お寿司屋までとばっちりを食らうイメージが・・・。
    まぁ生ものを扱うからでしょうが。

    母方の実家が寿司屋をしてました。
    子供のころはふぐとか他の魚とかさばく所をみるのが
    面白くてよくおじの横に引っ付いて見てたのを
    思い出します。でかーい鮪の頭とか。

    Re: limeさん

    でもなあ、これを「ホラー」のカテゴリに入れるのもなあ(^^;)

    恋愛ものばかり書いていたせいで、「ギャグ」の使いかたを忘れてしまったのだろうかうむむ(^^;)

    わたしなんか、食べてどうも無かったら、大丈夫・・・という、いいかげんな人間なんですが、さすがにO-157とか、そんな奴らは怖いですよね。
    舌がバロメーターにならない。

    どんな笑えるオチが待っているのかと思ったら、・・・一番怖かった・・・。
    これぞポールさん!w

    Re: naonyanさん

    メルボルンにお住まいならばご存じないかもしれませんが、最近の日本では病原性大腸菌O157で「レバ刺し」すら全面禁止になりかねない状況になっておりまして……そんな店で三次会やって食中毒が出たら、あの主任さんは責任取らされてしまいますな(^^;)

    もっともここまで生肉食にこだわるのは日本人とイヌイットくらいですが(笑)

    うん、こりゃいいね~
    ちょっとくらい悪くなってても大丈夫じゃない?!
    豪勢な寿司、腹いっぱい食べたいよ~
    釣りはいらねーって言ってみたいね=^_^=
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