「銀河農耕伝説(リレー小説)」
細菌学部発酵学科編(完結)
銀河農耕伝説(リレー小説)/第四回
というわけで、続きを書いてみました。
以下どーん。
※ ※ ※ ※ ※
4
「もし、ですよ。もし、次元転移技術があったとしたら、それをどうして『ぼくたちのいる目の前』で使ったんでしょうか?」
教授はそう発言したジローを、期待していなかった実験サンプルの意外な成長を見るような目で見た。
「ほう。ハイダーベル大学主席卒業というのも、伊達ではない、ということじゃな」
メリッサがまばたいた。
「つまり?」
「つまりこれは、シャーレと検体をこの場から奪うなり盗むなりした存在は、われわれに、『密室状態の中からシャーレを奪うことができる』ということを強烈に印象付けたかったんじゃろう」
「と、いうことは教授、ぼくたちの中に!」
「……は、まずおらんな。やっぱりハイダーベル大学主席はまぐれだったのかのう」
メリッサは黒曜石のような瞳で、部屋を見回した。
「つまり教授、この部屋に、わたしとジローと教授以外の、次元転移の能力を持つ可能性のある第三者が潜んでいる、と、こういうことですか?」
「常識的に考えれば、そうなる」
ジローは首をひねった。
「でも、そんなやつ、どこにも見当たりませんよ。空間質量計は変化がないし……変化がないだって!」
ジローは愕然としたようだった。
サンライズ教授はうろうろと、研究室内を歩き始めた。
「もし、空間質量計やサーモグラフィーをごまかせるだけの情報攪乱能力がある存在が、悪意をもってここにいるのであれば、手っ取り早いのは、わしらを全員殺してのけて、非常封鎖が行われることなどないままに、ここから脱出することじゃろう。目にも見えず、耳にも聞こえない相手じゃ。わしらは手も足も出ないうちにひとりひとり殺されていたじゃろう。じゃが、しかし、それはなされなかった。なぜじゃ?」
メリッサは、首を振った。
「さっぱりわかりませんわ、教授! その、次元転移ができる可能性のある第三者って、いったい誰ですの?」
「まず、その者は、言葉がしゃべれない。つまり、言語中枢を持っていないか、持っていたとしても非常に原始的なものでしかない。
次に、その者は、この部屋の中にいながら、われわれに存在を気づかせなかった。
三番目に、その者は、われわれが未知の力を持っておる。
最後に、その者は、われわれに対して、『悪意』を持っていない。
……どうじゃ? 諸君にも、この犯人、じゃない、この事態を引き起こした存在の正体がわかったのではないかな?」
「わかるわけないでしょう!」
ジローは叫び、メリッサと目を見合わせて……ぱくりと口を開いた。
「……これ? 教授、おっしゃっているのは、『これ』ですか?」
ジローは口の中のガムを指差した。今や、それは甘い、アイスクリームとイチゴの盛り合わせの味に変わっていた。
「そういうことじゃろうな」
教授はうなずいた。
「教授、相手は細菌ですよ! コウジカビですよ!」
「なにかね、君は、細菌が知性を持ってはいかんというのかね?」
「でも教授、この細菌が、どうして知性などを?」
「味覚神経に対する刺激を変えられる、ということは、環境に対して柔軟に対応できるということじゃ。わしは、それに対して、指向性を持って変化できるように、いわば原始的な自律プログラミングを可能とするようなものとしてミューテーションさせた。人工的な突然変異だったわけじゃが、どうやらこのコウジカビ、『群体』としては、スーパーコンピュータ並みの演算能力をもっておったのじゃろうな」
「じゃあ、どうして教授が最初に試したときに、コンタクトを行ってこなかったのですか?」
「わしら人類が、『群体』とは全く別の生物じゃったから、このコウジカビもコンタクトに苦慮したのじゃろう。そもそも、指向性を持って味を変える、ということ自体が、このコウジカビにとってのコミュニケーションの試みだったのかもしれん」
「じゃ、じゃあ教授! これは……」
ジローが叫んだ。
「これは本物の、人類が作り出した知的生命体とのコンタクトですよ! 教授は生物知性化に関する銀河共同体勲章もので、ぼくたちはその証人で……ううっ、ぼくもこれで、P-FARM教授職の道が開けて故郷の惑星に錦を……うっうっうっ。これもひとえに、教授の天才のおかげです、うっうっうっ」
「わはは。なにをそんな天才などと。まあ、もとからわしは天才じゃがな。わははは」
「さっそく、この発見を中央管制室に報告しましょう。準最大級封鎖だから、三十時間後には、わたしたち三人とカビちゃんはヒーローよ……もしもし。もしもし……えっ?」
メリッサの顔が、青ざめた。
「教授。さっきの話ですが、管制室も了承しています。会話は全部モニタされてました」
「じゃ、手間が省けたではないか」
「同時に、知的生命体淘汰主義テロリストが管制室に警備スタッフとして紛れ込んでいて、最大級警備システムを発動させたそうです。このままだと、遅くとも五分後にはわたしたち全員、灰も残らずに焼却処分です!」
※ ※ ※ ※ ※
かくして、事態は某名作SF映画みたいに! さあ一転、恐怖の脱出劇! どうなるどうなる?
たいへんなのはこんな返球を受けた黄輪さんだ!
君は生き残ることができるか!
以下どーん。
※ ※ ※ ※ ※
4
「もし、ですよ。もし、次元転移技術があったとしたら、それをどうして『ぼくたちのいる目の前』で使ったんでしょうか?」
教授はそう発言したジローを、期待していなかった実験サンプルの意外な成長を見るような目で見た。
「ほう。ハイダーベル大学主席卒業というのも、伊達ではない、ということじゃな」
メリッサがまばたいた。
「つまり?」
「つまりこれは、シャーレと検体をこの場から奪うなり盗むなりした存在は、われわれに、『密室状態の中からシャーレを奪うことができる』ということを強烈に印象付けたかったんじゃろう」
「と、いうことは教授、ぼくたちの中に!」
「……は、まずおらんな。やっぱりハイダーベル大学主席はまぐれだったのかのう」
メリッサは黒曜石のような瞳で、部屋を見回した。
「つまり教授、この部屋に、わたしとジローと教授以外の、次元転移の能力を持つ可能性のある第三者が潜んでいる、と、こういうことですか?」
「常識的に考えれば、そうなる」
ジローは首をひねった。
「でも、そんなやつ、どこにも見当たりませんよ。空間質量計は変化がないし……変化がないだって!」
ジローは愕然としたようだった。
サンライズ教授はうろうろと、研究室内を歩き始めた。
「もし、空間質量計やサーモグラフィーをごまかせるだけの情報攪乱能力がある存在が、悪意をもってここにいるのであれば、手っ取り早いのは、わしらを全員殺してのけて、非常封鎖が行われることなどないままに、ここから脱出することじゃろう。目にも見えず、耳にも聞こえない相手じゃ。わしらは手も足も出ないうちにひとりひとり殺されていたじゃろう。じゃが、しかし、それはなされなかった。なぜじゃ?」
メリッサは、首を振った。
「さっぱりわかりませんわ、教授! その、次元転移ができる可能性のある第三者って、いったい誰ですの?」
「まず、その者は、言葉がしゃべれない。つまり、言語中枢を持っていないか、持っていたとしても非常に原始的なものでしかない。
次に、その者は、この部屋の中にいながら、われわれに存在を気づかせなかった。
三番目に、その者は、われわれが未知の力を持っておる。
最後に、その者は、われわれに対して、『悪意』を持っていない。
……どうじゃ? 諸君にも、この犯人、じゃない、この事態を引き起こした存在の正体がわかったのではないかな?」
「わかるわけないでしょう!」
ジローは叫び、メリッサと目を見合わせて……ぱくりと口を開いた。
「……これ? 教授、おっしゃっているのは、『これ』ですか?」
ジローは口の中のガムを指差した。今や、それは甘い、アイスクリームとイチゴの盛り合わせの味に変わっていた。
「そういうことじゃろうな」
教授はうなずいた。
「教授、相手は細菌ですよ! コウジカビですよ!」
「なにかね、君は、細菌が知性を持ってはいかんというのかね?」
「でも教授、この細菌が、どうして知性などを?」
「味覚神経に対する刺激を変えられる、ということは、環境に対して柔軟に対応できるということじゃ。わしは、それに対して、指向性を持って変化できるように、いわば原始的な自律プログラミングを可能とするようなものとしてミューテーションさせた。人工的な突然変異だったわけじゃが、どうやらこのコウジカビ、『群体』としては、スーパーコンピュータ並みの演算能力をもっておったのじゃろうな」
「じゃあ、どうして教授が最初に試したときに、コンタクトを行ってこなかったのですか?」
「わしら人類が、『群体』とは全く別の生物じゃったから、このコウジカビもコンタクトに苦慮したのじゃろう。そもそも、指向性を持って味を変える、ということ自体が、このコウジカビにとってのコミュニケーションの試みだったのかもしれん」
「じゃ、じゃあ教授! これは……」
ジローが叫んだ。
「これは本物の、人類が作り出した知的生命体とのコンタクトですよ! 教授は生物知性化に関する銀河共同体勲章もので、ぼくたちはその証人で……ううっ、ぼくもこれで、P-FARM教授職の道が開けて故郷の惑星に錦を……うっうっうっ。これもひとえに、教授の天才のおかげです、うっうっうっ」
「わはは。なにをそんな天才などと。まあ、もとからわしは天才じゃがな。わははは」
「さっそく、この発見を中央管制室に報告しましょう。準最大級封鎖だから、三十時間後には、わたしたち三人とカビちゃんはヒーローよ……もしもし。もしもし……えっ?」
メリッサの顔が、青ざめた。
「教授。さっきの話ですが、管制室も了承しています。会話は全部モニタされてました」
「じゃ、手間が省けたではないか」
「同時に、知的生命体淘汰主義テロリストが管制室に警備スタッフとして紛れ込んでいて、最大級警備システムを発動させたそうです。このままだと、遅くとも五分後にはわたしたち全員、灰も残らずに焼却処分です!」
※ ※ ※ ※ ※
かくして、事態は某名作SF映画みたいに! さあ一転、恐怖の脱出劇! どうなるどうなる?
たいへんなのはこんな返球を受けた黄輪さんだ!
君は生き残ることができるか!
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~ Comment ~
こんな事を言うと、後だしにしかならないのですが、僕ならこうするな、と思った通りの展開でした。
ただ、見せ方、面白さ、今後の展開は僕なんか足下にも……。
実はポールさんと美味い酒が飲み交わせる?(笑)
ただ、見せ方、面白さ、今後の展開は僕なんか足下にも……。
実はポールさんと美味い酒が飲み交わせる?(笑)
- #9814 小説と軽小説の人
- URL
- 2013.01/24 22:45
- ▲EntryTop
Re: limeさん
半分、文字通りの「即興」を某「紅蓮の街」では200日続けたので、耐性ができたのでしょうね。
大学にいたころに参加したリレー小説では全く書けなくてものの見事に頓挫、座礁させてしまった実績(?)があるのですが。実績というより黒歴史?(笑)
大学にいたころに参加したリレー小説では全く書けなくてものの見事に頓挫、座礁させてしまった実績(?)があるのですが。実績というより黒歴史?(笑)
うわ~~~・・。
まるで最初から計算されてたかのような終わり方!
ポールさんはやっぱり、只者ではない・・・。
すっごく面白かったです。
リレー小説、参加して、無茶ブリしても、ポールさんが完璧に完結させてくれる!
そう考えると・・・ふふふ、おもしろそう^^
まるで最初から計算されてたかのような終わり方!
ポールさんはやっぱり、只者ではない・・・。
すっごく面白かったです。
リレー小説、参加して、無茶ブリしても、ポールさんが完璧に完結させてくれる!
そう考えると・・・ふふふ、おもしろそう^^
Re: 秋沙さん
え~、SF小説、書くと面白いんだよ~。
ある意味、「一切の制約がない」もんね(^^)
書いたもん勝ちだし(^^)
やろ~よ~(^^)
ある意味、「一切の制約がない」もんね(^^)
書いたもん勝ちだし(^^)
やろ~よ~(^^)
いや、やっぱりSFコワイって(^^;
すげ~ハイレベル(^^;
私にゃ絶対無理(笑)。
読んでるだけなら非常に面白い(^^)
すげ~ハイレベル(^^;
私にゃ絶対無理(笑)。
読んでるだけなら非常に面白い(^^)
Re: 黄輪さん
「風の種を蒔いたものは、嵐を刈り取らねばならない」(ロシアのことわざ)
21日が楽しみです(^^)
21日が楽しみです(^^)
警備システムを考えたのも自分であれば、
かいくぐるのも自分とは……w
とりあえず書き上げました。
12月21日に、こちらで掲載します。
かいくぐるのも自分とは……w
とりあえず書き上げました。
12月21日に、こちらで掲載します。
Re: 矢端想さん
いくつかストーリーの方針を考えておいて、その中から最適と思える手段を選んだまでです(^^;)
基本的に即興タイプの人間ですので(^^;)
さて、折り返し地点を過ぎ、今度はこの実験室からの脱出、ということに興味が絞られてきました。
警備システムを考えた黄輪さんの腕の見せ所です(^^)
頼みます待ってます~♪
どんな状況になっても風呂敷は畳んで見せるつもりですので、そちらのほうはご心配なく(^^)
基本的に即興タイプの人間ですので(^^;)
さて、折り返し地点を過ぎ、今度はこの実験室からの脱出、ということに興味が絞られてきました。
警備システムを考えた黄輪さんの腕の見せ所です(^^)
頼みます待ってます~♪
どんな状況になっても風呂敷は畳んで見せるつもりですので、そちらのほうはご心配なく(^^)
すごいっ!これはすごいっ!!
「次元転移」のムチャ振りを見事に、違和感なくカビにつなげたっ!? まるでこの振りを待っていたかのように。
ポールさんこそ天才ではないのか?
SFおそるべし。
黄輪さん、どうしよう・・・。
「次元転移」のムチャ振りを見事に、違和感なくカビにつなげたっ!? まるでこの振りを待っていたかのように。
ポールさんこそ天才ではないのか?
SFおそるべし。
黄輪さん、どうしよう・・・。
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Re: 小説と軽小説の人さん
リレー小説でもきれいに着地したいもので。(^_^)